Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第13艦隊は、横に赤いラインのある旗艦、すなわちミッターマイヤー艦隊の正面に位置していた。ヤンは神速の用兵を誇る帝国の名将に対し、かって自分たちがやられた戦術の意表返しをしようと考えた。


第30話 アムリッツア星域会戦(前編)

「全艦隊、最大戦速!」

「レーザー水爆ミサイルを前方の敵艦隊の直下へ。」

「了解。」

ヤンの第13艦隊は巧みな艦隊運動で敵を攻撃する。

「ヤン・ウェンリーか。さすがには早いな。」

ヤンの前方にいてそうつぶやいたのは、はちみつ色のおさまりの悪い髪をした好青年、その神速の用兵から「疾風ウォルフ」の二つ名で呼ばれる勇将ミッターマイヤーである。

レーザー水爆ミサイルが恒星アムリッツアの表面に落下していく。

ミッターマイヤーは、舌打ちをした。

「全艦上昇せよ!」

ミッターマイヤー艦隊は、吹き上がってくるフレアとプロミネンスによって百隻を超える艦艇を失い、一時的に艦列の乱れを見せる。ヤンはそこに一点集中砲火を加えるものの、おもったよりも損害を与えられない。それどころかあっという間に陣形を再編し、逆撃のかまえを見せつつ整然と後退する。

ヤンは、それに見とれて、ため息をつく。かって同盟軍のパエッタ中将は同じ攻撃を惑星レグ二ッツア上空で受け、8割の艦艇を失い、天候の急変のせいとロボスに報告したことが思い出される。

(ふつうはこの攻撃で半数を失っても不思議でないのに、なんという用兵だ。みごとというほかない。ローエングラム伯のもとにはどれほどの人材がいるんだろうか...。)

 

「左舷損傷!」

「ちいっ。さすがだ。あの方が恐れるわけだな。」

三百隻弱の損害だった。今のところミッターマイヤーの艦隊にそれだけの損害を与えられた者はいない。

 

第13艦隊と第8艦隊の間の宙域にビッテンフェルトの艦隊が突出してきた。

ヒューべリオンの艦橋では、オペレーターが叫ぶように告げる。

「二時方向に新たな敵!」

「ほう、そいつは一大事。」

指揮卓の上で片膝を立てて、黒髪の若き指揮官はつぶやく。どっかと座っていては戦況や戦場の空気が把握できない。指揮卓の上なら自分の艦の挙動も感じられる。それがヤンの流儀だった。ある意味でみほがキューポラに上半身を出す感覚に近い。自分の艦の艦橋という限られた範囲には敵弾はめったに当たるものではないし、当たったとしたら座っていようが指揮卓に片膝を立てていようが同じなのだ。

「装甲の厚い艦をつらねて、その間から長距離砲とミサイル艦で攻撃せよ。」

 

「ヤン・ウェンリーめにはかわされたか...。」

ビッテンフェルトは、第8艦隊にその鋭鋒を向けたが、ウランフとみほの砲列の猛攻を受ける。

前回の教訓から指向性ゼッフル粒子工作艦を準備したものの、至近距離であるため、使用した場合、味方も巻き込んでしまう。

「うぬぬ。狡猾な。」

結果として球形のピラニアの群れは思う存分「黒色槍騎兵」を引き裂くことになった。

「くそ。前進だ!前の艦隊を食い破れ!」

ウランフとみほの弾幕に耐えかねたビッテンフェルトは第8艦隊にその砲火を集中することになった。猛々しい黒騎士たちが第8艦隊を蹴散らしていく。

「戦艦クリシュナ撃沈。アル・サレム提督戦死の模様。」

同盟軍に悲報がもたらされる。

ラインハルトとビッテンフェルトはほくそえむ。

「ワルキューレを発進させろ。長距離砲から短距離砲に切り替えて砲撃しろ。」

しかし、ヤン、ウランフ、みほは黒色槍騎兵の砲撃が一瞬弱まったことを見逃さなかった。

第8艦隊を食い破った苛烈な砲撃を今度は黒騎士たちに食らわせる。

その姿は、さながら横撃されて落馬して突き刺される騎兵のようであった。

その爆炎を、唇をかみしめて「白き美姫」の艦橋から黄金色の髪を持つ若者は蒼氷色の瞳に怒りをうかべながら見つめていた。

「ビッテンフェルトは失敗した。ワルキューレを出すのが早すぎたのだ。」

「勝利を決定づけたいとのあせりが出たのでしょうな。」

義眼を光らせ、銀髪の参謀長がうめくようにつぶやく。

「閣下!ビッテンフェルト提督より通信です。至急援軍を請うと。」

「援軍だと?」

「はい、このままですと最悪の事態も免れないと。」

「ビッテンフェルトに伝えろ!司令部に余剰戦力なし、現有兵力にて部署を死守し、武人としての責を全うせよと。」

「以後、ビッテンフェルトからの通信を切れ。敵に傍受される。」

ラインハルトはスクリーンを見ながらつぶやく。

「実によいポイントをついてくるな。」

「あれは、第13艦隊、第10艦隊及びビッテンフェルト提督がリューゲン上空で第10艦隊を援護したという、未知の艦隊です。」

「ビッテンフェルトに出血を強いたのは、第13艦隊とあの艦隊だな。「アルテミスの首飾り」を巧妙に機動させていたな。おそらくキルヒアイスから補給船を逃がした同じ敵だろう。」

「そのようですな。敵ながら見事な用兵です。」

「うむ。」

ラインハルトは、指向性ゼッフル粒子で敵を焼き払おうかと一瞬考えたがやめた。工作艦を守らなければならない。そこを敵はついてくるだろう。

「キルヒアイスはまだか。」

「ご心配ですか?」

「心配などしていない。確認しただけだ。」

ラインハルトは口を閉ざし、再びスクリーンをにらんだ。

キルヒアイスの率いる艦隊3万隻が同盟軍の後背に到着したのは、第13、第10、第14艦隊の善戦により戦線が膠着状態に陥って数時間たった時点だった。

 

「閣下、前方に機雷原がひろがっています。その数およそ5000万。」

「予定通りですね。工作艦を配置してください。」

「指向性ゼッフル粒子、放出します。」

工作艦から指向性ゼッフル粒子が放出され、機雷原の範囲に広がっていく。

「指向性ゼッフル粒子、散布予定範囲100%です。機雷原の分布範囲全体に達しました。」

赤毛の若き名将はうなずくと

「主砲、発射!」

と宣した。三万隻の艦砲の一部であったがあっというまに気体爆薬は激しく爆発し、機雷をすべて飲み込んで吹き飛ばした。その向こう側には同盟軍艦艇の放つ光点が見える。

「全艦最大戦速!敵の後背を襲う!」

「了解!」

 

「後背に新たな敵!」

「その数およそ3万」

同盟軍のオペレーターは絶叫した。

「機雷原はどうしたのだ?」

「突破された模様。」

みほはさとった。あの恐ろしい兵器だ。




同盟軍の背後に大艦隊が出現し、たのみの機雷原を一掃した...

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