Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
「おのれ...おのれ...反撃だ。」
しかし、縦横無尽に動き回る戦闘衛星が放つ弾幕と6000隻の放つ光条はまったく弱まらずに「黒色槍騎兵」は炎と煙を吐いて次々に沈められていく。
オイゲン大佐ははたと思い当り、背中につたわる冷や汗を感じた。
(キルヒアイス閣下のおっしゃっていた「動き回るアルテミスの首飾り」か...まさかこんなところで...)
「閣下、閣下、このままでは我々も敵と心中することになってしまいます。」
「ううう...。」
ビッテンフェルトはさすがに犠牲が増えるばかりとさとったが、そこはそこ、オレンジ色の髪の猛将の脳裏には退却だの後退だのまどこっこしい二字はない、活路を開くには前進しかないのではないかという確信をかえっていだくことになる(コノキキヲノリキルニハ、シチュウニカツヲミイダスシカナイ)。
目をいからせて下した命令はいかにも彼らしいものであった。
「前方の敵に砲撃を集中せよ。
「おおっつ。」
猛将の部下たちは、自分たちの司令官をけっこう好いていたから、この檄によって敗勢にもかかわらず士気が上がった。「黒色槍騎兵」の艦艇は、猛烈な砲撃と勢いで突入してくる。それは同時に包囲網が崩れることを意味した。第10艦隊は引き裂かれるようにして前進して、速度を上げていった。
それに合わせ同盟軍第14艦隊も前進するビッテンフェルト艦隊に後背から一点集中砲火をおこなう。しかし、WPSが使えなくなった分、損害は抑えられている。第10艦隊を挟んで包囲網の反対側にいるビッテンフェルト艦隊の艦艇は味方艦をまきこむかもしれないので、砲撃の手を緩めざるをえない。
ビッテンフェルト艦隊から見て真横をすりぬけたはずの、第10艦隊は、いつのまにか光点となって後方6時の方向にはなれていくように見える。
「うぬぬ...。」
ビッテンフェルトは艦橋でうなるしかない。
「敵が反転してきたら反撃のチャンスです。全艦戦闘配備そのままです。」
「やつらが反転したときがチャンスだ。砲撃準備怠るなよ。」
みほとウランフはそれぞれ揮下の艦隊に命じ、第10艦隊と第14艦隊は整然とビッテンフェルト艦隊からはなれていく。
ビッテンフェルトにもオイゲン大佐にも、さすがにすきをみせたら自分たちが今度は敵に逆撃されることはわかっていた。しかし、すきのない迎撃態勢を整えているにもかかわらず、第10艦隊と第14艦隊の光点は離れていくだけで追撃してこないことに気付く。
「ぬ?なぜ敵は追撃してこないのか?」
「局地的な戦果を挙げても損害が大きいから撤退しているのでしょう。」
オイゲン大佐が推測を語ったが、通信士官からまもなく真相が伝えられた。
「閣下。司令部より通信及び命令がはいっています。」
「読め。」
「14日をもって叛乱軍は、アムリッツア星域に集結するもよう。全艦隊集結して迎撃せよ。」
「そうか。アムリッツア星域へ向かえ。今度こそ叛乱軍の奴らをたたきのめしてやる。」
ビッテンフェルトは、艦隊を再編制してアムリッツアへ向かっていった。
ウランフ率いる第10艦隊はリューゲン上空の戦闘宙域を脱出した。
「味方は脱出したか?」
騎馬民族の末裔と称される名将は、血色の戻った参謀長に確認する。
「5割5分はなんとか脱出できたようです。」
「そうか...。」
スクリーンにみほが映る。
「西住少将。助かった。礼をいう。」
「いえいえ。補給艦隊を守り切れず物資が少なくてすみません。」
「先日詳しく聞きそびれたが、敵の用兵は巧緻を極めたという話だが。」
「はい。ローエングラム伯の腹心がいるとしたらそのような方ではないかと思わせる見事な用兵でした。」
「それからわたしたちの「ウルフパック・サテライト・システム(WPS)」をみごとに躱して反撃してくるだけでなく、帰還するときに偵察装置やバックドアまでしかけられましたから。」
優花里が付け足す。
「あ、戦績記録データをおくります。」
「ありがたい。」
そのとき盤古の通信士が振り向いて上官に話しかける。
「閣下。総司令部から連絡です。
『本日14日をもって、各艦隊はアムリッツア恒星系に集結せよ。これは命令である。』」
「くっ。総司令部は何を考えているんだ。聞いたか?」
「はい...。」
みほも疲れたような顔になる。
「でもこのままでは敵中に孤立することになります...。」
みほの声は沈んでいる。
「そうだな。やむをえないか...。」
「「全艦アムリッツア星系へ。」」
「「了解。」」
同盟軍艦隊はアムリッツア星系へ向かっていった。
同盟軍艦隊の動きを帝国軍総司令官である金髪の青年は蒼氷色の瞳に不敵な光をきらめかせながら、ひややかに眺めていた。
「やつら今頃になって兵力分散の愚に気付いたようだな。」
「そのようですな。」
義眼の光る銀髪の参謀長が答える。その口ぶりに「笑い」という言葉に縁遠いこの男が含み笑いをしているように感じたクルーもいた。
「やつらがアムリッツアを墓場に選ぶというならその願いをかなえてやろうではないか。」
「御意。」
銀髪の参謀長の口から出た同意の返事はいつもどおりの淡々としたものに戻った。
同盟軍はアムリッツアへ向かい、帝国軍も迎撃すべくアムリッツアへ向かう。