Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
みほたちは...
第10艦隊と戦っているのは、船体を黒く塗装し猛々しく突き進む「黒色槍騎兵」と称される勇猛さでは帝国軍随一の艦隊である。その指揮官はフリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトといい、たくましい体つきでオレンジ色の髪、薄い茶色の目、細面であるものの、古代遊牧民族鮮卑の首領に「龍顔」と称された人物がいたが、まさにその顔だろうと思われるような、剽悍さと猛々しさにあふれていた。宇宙のパットン、宇宙の張飛とも称されるべき猛将である。
何時間たったであろうか。ウランフ率いる第10艦隊は、「黒色槍騎兵」に著しい損害を与えていた。しかし、同時にほぼ同程度の損害を受けていた。
絶対数において劣る第10艦隊は、じわじわと包囲されていく。
第10艦隊は堅実な防御陣形を組みつつ果敢な反撃を行い、「黒色槍騎兵」に損害をあたえるものの、その差を埋めるのは困難な状況であった。
ついには完全に包囲され、前進も後退も困難になる。破壊され、推力を失った艦は惑星の引力にひかれて落下し、大気圏で四散し、燃え尽きていく。
「撃てば当たる、攻撃の手を緩めるな!」
同盟第10艦隊にビームとミサイルの豪雨が浴びせられた。
第10艦隊は4割の艦艇を失い、残りも半数が戦闘不能になっていた。
浅黒い肌をもつ参謀長チェン少将の顔色は血の気が引いて不自然に蒼白になっている。額には冷や汗が光っている。
「閣下、ウランフ中将。もはや戦闘の続行は不可能です。降伏か逃亡かを選ぶしかありません。」
「不名誉な二者択一だな、ええ?」
ウランフは不敵にも自嘲して見せる。
「降伏は性に合わん。逃げるとしよう。全艦隊に命令を伝えろ!
損傷した艦を内側に、装甲の厚い艦を外側に紡錘陣形をとれ!包囲網の一角を突破するんだ。ありったけのビームとミサイルをたたきつけろ!」
同盟きっての勇将の猛攻は帝国の猛将をたじろがぜた。
さらにビッテンフェルト艦隊に急報がはいる。
「敵艦隊接近、6時の方向、数1万!」
いうまでもなくそのうち半数近くははレーダーの反射を利用した「幽霊船」だったが、ビッテンフェルト艦隊で気付いたものはいなかった。具体的に視認できればその正体がばれたはずだったが、索敵した相手を画像化できる距離になるまで待っていては先に攻撃されてしまうからだ。
「なに?」
(そんな余力が敵に残っていたのか??)
さすがの「黒色槍騎兵」も後背からの攻撃に動揺する。
「敵の弾幕がうすれました。あ、あれは...。」
黒色槍騎兵艦隊の後方に爆発煙が次々現れるのが見える。
「援軍だ!援軍が来たぞ。」
「だ、第14艦隊です!」
「ミラクル・ミホだ!」「チームあんこうが来たぞ!」
第10艦隊の艦艇の内部は歓声にみなぎった。
第14艦隊が惑星リューゲン上空に第10艦隊を救援に赴けたのには理由があった。
「このままだと全滅はまぬがれないかも。エリコさん、だれを優先して助けたらいい?」
「ヤン提督以外では、最前線ではボルソルン星系の第12艦隊ボロディン中将?、惑星リューゲン上空の第10艦隊ウランフ中将がいままでの戦績データから考えて優秀?」
「うん。じゃあ近いところでボルソルン星系へ向かって。」
「了解。」
ボロデイン中将は、ハスラーのような金髪の男性だった。
「うちの艦隊もあと一週間ほどで食料がそこをつく。武器弾薬もだ。ありがとう。」
「敵の攻撃がこれから激しくなりますので退却したほうがよいと考えています。」
「ロボス元帥には上申したのか?」
「ヤン提督がビュコック中将を通して上申したそうですが、昼寝中で敵襲以外起こすなと...。」
「こまったものだな。わかった。撤退の準備をしよう。」
みほたちが去った後、ルッツ艦隊が現れた。しかし、撤退準備をしていたおかげでボロディンは損害を出しながらも艦列を維持して撤退することにどうにか成功した。
ルッツはじょじょに離れていく光点を見て
「うむ。逃したか。仕方ないな。」とつぶやいた。
つぎにみほたちが訪れたのはヤヴァンハール星系付近の第13艦隊である。
まだ幸いにもケンプ艦隊はあらわれていない。
「西住少将、補給物資は受け取った。ありがとう。」
「いえ...。」
「西住少将、これから第10艦隊のウランフ中将の救援に行ってもらえないか?」
「どうしてですか?」
「帝国軍の後退針路と補給路を考えてみると、ヤヴァンハールよりもリューゲンからわが軍に攻勢をしかける可能性が高いんだ。帝国軍としては最前線に打撃力のある艦隊で攻勢が波に乗るよう一気に攻撃してくる。そのほうが効率がいいからね。そうなるとビッテンフェルト艦隊が使われるだろう。この艦隊は攻勢に優れているが防御が弱い。これまでの戦績から考えて工作艦を使うという発想のできない指揮官のようだから君たちの艦隊の攻撃が有効だと考えられるんだ。」
「わかりました。リューゲンに向かいます。」
このようにして第14艦隊は補給物資配布後にいちはやく惑星リューゲンに到達したのだった。
みほのほほえむ顔が映し出され、沙織の声が回線に響く。
「みんなにお茶する時間をつくってあげるから。」
「みほさんが指揮官じゃ?」華が突っ込みを入れるが、
「「華」さん!」みほと沙織が同時に叫ぶ。
「みんな,撃って撃って撃ちまくって!」
「発射!」
おびただしい光条が後方から横殴りに「黒色槍騎兵」に襲いかかる。
加えて連携によって数個艦隊を屠ることのできる数十基もの戦闘衛星群がエリコの巧みな操作で「黒色槍騎兵」に襲いかかった。補給艦隊救援にも活躍したマルチスタテック・サテライト・システムを改造したそれは優花里によって「ウルフパック・サテライト・システム(WPS)」と命名された。カストロプ動乱でキルヒアイスにあっさり爆破され、その力を発揮することのできなかった「アルテミスの首飾り」がその無念を晴らすかのように、鉄壁の防御転じてピラニアの群れとなって「黒色槍騎兵」に襲いかかったのだ。これら二重の攻撃の破壊力はすさまじく、たちまちのうちに「黒色槍騎兵」の3割を沈めることに成功した。
「黒色槍騎兵」艦隊に著しい損害を与えることに成功したみほ率いる第14艦隊だが...
Cf.晋書巻百九載記第九(慕容皝載記)冒頭
慕容皝,字元真,廆第三子也。龍顏版齒,身長七尺八寸。
後継者争いで兄弟を倒した人ですが、政治家として優れていました。その点純粋な軍人のビッテンとは違うかも...細面で出っ歯...悪人面かギャグ要員ですがイケメンに描かれてるサイトもあったような...
龍顏は、玉顔と同じ意味、皇帝の顔といった意味でも使うのであえて説明的な記述を入れました。