Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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みほたちが補給艦隊のうち150隻を逃がしたとはいえ、ぎりぎりでやっていたのがまともに物資がとどかなくなったので、同盟軍の補給が苦しいのは変わらなかった。


第26話 帝国軍の反攻です。 

「何?我が軍の輸送艦隊が襲われただと?」

「かろうじて150隻が脱出できたということです。必要な物資は現地にて調達してください。」

「現地調達だと!我々に略奪をやれというのか。」

「どう解釈しようと自由です。わたしは、総司令部の指示を伝えただけです。」

画面からフォークが消えると各艦隊指揮官、艦長は画面にベレーを投げつける者、床面にたたきつける者さえあった。

「補給は万全なはずではなかったのか!」

「補給計画の失敗は戦略的敗退に直結する。その責任を前線に押し付ける気か!」

各艦隊は怒りと怒号にあふれた。

みほたちが守り切った150隻分の一部が回されても2億人に迫ろうとする「解放区」住民や兵士たちにまわされた場合限度がある。しかも帝国軍はたびたび小規模なゲリラ戦を仕掛け、補給や「解放区」への食糧供給を阻害しようとする。

第13艦隊でもそれは同様だった。「解放区」住民に供出を続けた結果、食糧は底をつこうとしていた。

「民衆が求めているのは自由でも権利でも正義でもない。だだ食糧だけです。帝国軍が食糧を運んで来れば皇帝陛下万歳と叫ぶでしょう。なんだって、そんな連中のために我々が飢えねばならないんでしょうか!」

補給担当のウノ大佐が不満を爆発させ、歯ぎしりするのに対し、ヤンは

「我々がルドルフのようにならないためにさ。」と答えるしかなかった。

ヤンは第10艦隊と第14艦隊に回線をつなぐ。

「おう、ヤン・ウェンリーか。珍しいな。何ごとだ。」

「ヤン提督...。」

「ウランフ中将、西住少将、お元気そうで...。」

スクリーンに映された精悍な浅黒い肌の勇将と子犬のような栗毛色の髪をもつ可愛らしい知将に共通しているのは、その表情の奥に憔悴の色が見られることだった。

二人が得意とする巧緻でときには大胆な用兵とは次元の異なる問題なだけに苦り切っている。

「うちの艦隊はあと二週間、もって半月分ってとこだな。あのフォークのバカの無責任な計画のせいでとんでもないことになっている。西住少将の守ってくれた150隻がなかったらもっと悲惨なことになっていただろう。それまで補給がなかったら占領地から強制的に徴発...言葉を飾っても仕方ないな、略奪するしかない。解放軍が聞いてあきれる。」

「それについて私に意見があるのですが...。」

「ああ、考えないでもなかった。撤退だろ。しかし一度も砲火を交えないうちにか...。」

「余力のある今のうちにです。敵はわが軍が飢えるのを待っているのです。」

「敵が機をみて攻勢に転じるということだろう。ただな、下手な後退をするとむやみな攻勢を誘うことになりはせんか?」

「反撃の準備は充分に整える、それが大前提です。いまならそれが可能です。兵が飢えてからでは遅いのです。」

「わかった。貴官の意見が正しかろう。全面的な潰走と解釈させるか、罠と思わせるかこともできるってことだろ。そういうのはうちの艦隊にいる貴官の後輩も、この可愛い娘さん、じゃなかった西住少将も得意なことだしな。」

ウランフはにやりとほほえむ。みほはほおをかすかに赤らめる。

「で、ほかの艦隊にはどう連絡つける?」

「ビュコック提督にお話しします。わたしが言うよりも説得力をもちますので。」

「うむ。それではさっそくことをはこぶとしよう。それではな。」

ウランフとみほが画面から消え、ヤンが一息ついたとき、凶報がもたらされた。

「第7艦隊の占領地で暴動が起きました。極めて大規模なものです。軍が食糧の供与を停止し、徴発を始めたからです。」

「第7艦隊はどう対処した?」

「催涙ガスをつかって一時的に鎮圧したそうですが、再発が繰り返されています。軍の対抗手段が最悪の場合、武力鎮圧にまで発展しかねません。」

解放軍、護民軍がなんたるざまだ。いままで同盟に敵意がなかった民衆が敵意をもつようになったのだ。ヤンは暗澹たる気持ちになり、思わずぼそりとつぶやいた。

「まったく見事だ、ローエングラム伯...。」

(自分は勝てるとわかっていてもここまではやれない。それがローエングラム伯と自分の差であり、彼をおそれるゆえんだ。しかし、こうも見せつけられるとは...)

 

ヤンが「白い艦」と呼んだ帝国軍総旗艦ブリュンヒルトの艦橋では、金髪の若き総司令官が彼の部下達である居並ぶ名将たちに告げる。

「敵の輸送船団を攻撃し、350隻を沈め、護衛艦は全滅させた。150隻をのがしたが、敵の補給線は伸び切り、攻勢の限界点に達している。」

「ミッターマイヤー、ロイエンタール、ケンプ、ビッテンフェルト、ワーレン、ルッツ、メックリンガー、かねてからの計画に従い、総力を持って叛乱軍を討て。」

「はつ。」

彼らの上官である金髪の青年ラインハルトがうなずくと、従卒に命じて、白ワインならべたトレーを持ってこさせる。諸将がおのおのワイングラスを持った。

「勝利はすでに決している。このうえはそれを完全なものにせねばならぬ。叛乱軍の身の程知らずどもを生かして還すな。卿らのうえに大神オーディンの恩寵あらんことを!プロ―ジット!」

「プロ―ジット!」

提督たちは唱和してワインを飲み干すと、ワイングラスを床に投げつけた。グラスは砕けてその破片は華やかにきらめき乱反射する。それはかれらが奪還する星の海のようにも見える。

提督たちが自分の旗艦へ戻っていく。ラインハルトは漆黒の宇宙空間にまばらに光る光点をみつめていた。

 

10月10日16時。同盟軍第10艦隊は惑星リューゲンの衛星軌道上に展開している。

「二時方向の偵察衛星より画像が送信!」

無数の光点が映し出されるが、プツンと画面が途切れる。

「偵察衛星、通信途絶!」

旗艦盤古の艦橋クルーは何が起こったのか悟り、司令官の顔を見上げる者もいる。

「会敵予想時間は、どのくらいか?」

「敵との接触予想時間まであと6分。」

「全艦隊、総力戦用意!通信士官、総司令部、第13艦隊、第14艦隊に連絡せよ。われ「敵ト遭遇セリ!」とな。」

警報が鳴り響く。

ウランフは部下たちを叱咤する。

「やがて第13艦隊が救援にかけつけてくる。さもなくば第14艦隊だ。「ミラクル・ヤン」か「ミラクル・ミホ」が来る!敵を挟み撃ちだ。勝利はうたがいないぞ。」

「おおつ。」

各艦のクルーたちは拳をふりあげる。

(もっともヤンもミス・ニシズミもいまごろは...)

本当のところ、ウランフには確信はない。ヤンとならんでみほも海賊討伐や帝国軍に一矢を報いた補給艦隊の救援を行った話は将兵たちに伝わっている。指揮官としては、そのような目覚ましい事実を思い起こさせて部下の士気を維持する必要があるのだった。

 




補給の苦しい同盟軍に対して、いよいよ帝国軍の反攻がはじまった...

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