Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
赤毛の青年は、彼の親友でもある上官に星図を見せる。
「そうか。」
「彼らの占領地の人口は、もうすぐ1億人を超えるでしょう。戦線もイゼルローンから700光年くらいまで拡大しています。」
「やがてイゼルローン回廊内の警備はほぼがら空き同然になる。後方に何もないのに兵力を置いておくことは遊兵をつくることになるからな。」
「回廊内と占領地は安全だと刷り込ませる、ということですね。」
「そのとおりだ。イゼルローンから前線に兵力を振り向ければ振り向けるほど良い。戦いは確かに数でするものだ。しかし大軍を振り向けたからと言っていつも自動的に戦いに勝てるわけではない。やつらは、飢えと死によってその愚行を思い知ることになる。」
「彼らの油断と補給線及び攻勢の限界点に達するまではもうしばらく時間を要するようですね。」
「でも、そう長くはない。」
金髪の青年は微笑んで赤毛の親友の顔を確認するようにのぞきこむ。
「承知しております。」
赤毛の友は金髪の青年に感じがいいが、普段とは異なる「委細承知した」旨の返答を込めた笑みを返した。
さて、一方同盟首都ハイネセンでは遠征軍からの大規模な補給の要求に対して激論が戦わされていた。
ラインハルトからすれば笑止、鼻でせせら笑うべき喜劇でしかなかった。
「われわれは専制政治から帝国の民衆を救うために派兵したのだ。彼らを救済すれば民心は自ずから同盟に傾く。軍事的見地からも政治的な意味でも「解放区」の住民に食糧物資を供給すべきである」と賛成派が主張すれば、反対派は、「この遠征は無謀なものだった。当初の予定だけでも二千億デイナール、予算の5.4%、防衛費の10%を超える。占領地を維持して食糧を供給し続けるだけでも莫大な物資食糧の量だ。これ以上戦線を拡大し続ければ、国家財政は出血死に至る。直ちにイゼルローンに撤退すべきだ。帝国軍の侵攻さえ防げればいいのだから。」と反論する。
主義主張に感情や打算がからみ、週刊誌や新聞は両派に分かれて社説を乗せる。
リストレエコノスとコンプラレールは、いせいの良い賛成論を載せ、撤退論は愛国心がない、臆病者の論理と主張し、ライズリベルタとトドスヨウムは、反対派の意見に沿った社説を載せる。
有識者と名乗る好戦的な論調の文化人は、ライズリベルタ、トドスヨウムのスポンサーを脅して広告を引き上げさせろ、と主張し、インターネット上でも出兵の失敗を隠蔽し、愛国心を声高に唱え、撤兵論は臆病者の論理と唱える論調にあふれた。ライズリベルタ、トドスヨウム系のテレビ局には、交通情報委員長のウィンザー夫人がその権限で手をまわして圧力をかけ、賛成派の論調にしたがったニュースが流される。同盟軍のイゼルローン司令部からは「我が軍の将兵に名誉の戦死の機会を与えよ、手をこまねていれば、不名誉な餓死が待つのみ。」という半ば脅迫じみた報告が寄せられる。
問題は先送りされ、輸送が続けられた。
ニュースには、「解放区」が拡大した、順調に「解放区」の統治がなされている、と画面に地図入りで報告がなされ、食糧が届いて笑顔の民衆の写真のみが放映された。
占領地の拡大は続き、「解放区」の住民は一億人を超えた。
賛成派は、補給物資の拡大の数字が日に日に莫大なものになっていくのが報告されていくにつれ、本音ではまずいと思い始めたが、いまさら間違っていましたとは言えなくなっていた。反対派は、それみたことか、5000万が一億になった。このままだと一億が二億になる。帝国は我が国の財政を出血死に至らしめるつもりなのだ。政府と軍部の責任は逃れられない。もはや撤兵しかない、と主張する。
「帝国は、無辜の民衆そのものを武器としてわが軍の侵攻に対抗しているのだ。狡猾な方法であるが、わが軍が解放と救済を大義名分としている以上、有効な方法と認めざるを得ない。もはや撤兵すべきだ。敵が窮乏したわが軍に対し総反撃をしかけ袋叩きにしてくる前に。」
最高評議会で財政委員長のジョアン・レベロはそう発言した。
このニュースはテレビには流されなかったが、勇気ある夕刊紙プレセンテをはじめ週刊誌のいくつかはその記事を載せた。
主戦論者の交通情報委員長のウィンザー夫人は端正な顔をこわばらせた。
遠征軍総司令部の無能者どもは何をしているのか!それに「誰からも選ばれなかった」と評される鈍重で無感動な印象の老人である最高評議会議長ロイヤル・サンフォード。政治力学の低レベルなゲームの末、議長の座をつかんだに過ぎない政治屋が選挙のことを言ったばっかりに...
しかも、地球教徒や憂国騎士団と談笑している写真を撮影され、彼女は関係ないと裁判まで起こして敗訴している。同じ主戦論者でも裁判を起こした彼女を彼らは許さないだろう。彼女の個人的責任として攻撃してくるに決まっている。
一方、トリューニヒトは満足していた。ふだんは主戦論を唱えるが冷静に判断した、先見の明があると評されるだろう。レベロやホアン・ルイは、軍需産業や財界からの支持がないから自分が最高評議会議長になる。彼にとっての明るい未来図を浮かべてほくそえんでいた。
結局「前線で結果が出るまで軍の行動に枠をはめないほうがいいだろう。」という先送り論が多数決で可決された。
「ワープアウト完了。」
帝国艦隊は、イゼルローン回廊の安全地帯ぎりぎりの空間を数百隻ずつにわけて、同盟の哨戒網を巧妙にくぐりぬけてつぎつぎにワープアウトする。ふだんであればくぐり抜けるのは不可能であったが、同盟軍は、回廊出口から帝国領の一部を支配下においているという安心感から哨戒網はいつになくゆるい状態であった。
「全艦隊集結完了しました。」
赤毛の名将はうなずくと
「索敵を行ってください。敵の補給艦隊はここを必ず通るはずです。」
「敵の補給艦隊発見。距離80光秒」
「攻撃を開始してください。」
グレドウィン・スコット提督は10万トン級輸送艦500隻、護衛艦26隻を率いてイゼルローン回廊へ向かっていた。
護衛艦の数はキャゼルヌ少将が
「少なすぎます。せめて100隻。」と主張したものを却下した結果だった。
輸送艦隊を狙うのにそれほど多くの艦艇を帝国が動員するとも思えないし、要塞周囲の警備が手薄になる、また航路の安全も期しているとの理由だった。
キャゼルヌはあきれたがひきさがらざるをえなかった。スコットにも注意をうながしたが、いままでも何事もなく輸送できた、今度も大丈夫だ、との思い込みがあって、スコットは部下と個室で三次元チェスに興じていた。
「司令官。」
「なんだ血相変えて、二コルスキー中佐?前線で何かあったのか?」
「前線ですと?ここが前線です。あれがお見えになりませんか。」
スクリーンの中央におびただしい光点の集合で光っている。その光点がひろがっていく。スコット提督の顔は蒼白になった。
「敵ミサイル多数接近。対応しきれません。」
「閣下、なにやら3時の方向70光秒に多数ワープアウトしてきます。」
赤毛の名将はかすかに気持ちを動かした。
「敵艦隊発見。数六千!」
(六千?敵にはそんな余力はないはずですが...やぱりこれだけの艦艇をそろえておいてよかったです。)
ヤンとみほが補給艦隊を敵が攻撃する場合、そうするだろうと想定して、その場合の時期と攻撃する場合の艦隊配置を必死に考えた結果だった。
「早いですね。西住殿。」
「うん。やっぱり帝国軍はヤン提督も言っていたけど名将ぞろいだね。」
「撃て!」
「発射!」華の号令が全艦隊に伝えられ、第14艦隊は一斉に斉射する。
しかしキルヒアイス艦隊も反撃し、巧みな艦隊運動と砲火で第14艦隊とともに輸送艦隊もたちまち沈めていく。
みほは目をみはる。
(すごい....わたしたちを相手にしているのに...)
しかしみほとエリコは手をこまねてはいなかった。
あらかじめ補給艦隊が攻撃されるのを予想していたみほたちは...
新聞社の名称を一社変更しました。前の話も遡って訂正します。