Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
同盟軍が占領した星系には、30の有人惑星が含まれ、5000万人が住んでいた。
同盟軍の士官と兵士たちは、最初の20日ほどは有頂天であったが、そのうちなぜ敵は姿を現さないのか?という疑念が心のうちにしみをつくっていくのを感じはじめていた。
同盟軍の宣撫士官は、
「われわれは解放軍だ。君たちに自由と平等を約束する。もう専制政治の圧政に苦しむことはないのだ。」
「自由と平等?それって食べられるのか?」
「われわれは、政治的な権利もいいが、それよりも今食糧がほしいんだ。」
「軍隊が引き揚げてしまって赤ん坊に飲ませるミルクにさえこと欠いている。パンやミルクをさきに約束してほしいのだが。」
「わ、わかった。」
宣撫士官たちは、同盟軍各艦隊の補給、事務士官に「解放区」の食糧、物資を計算させた。そして、イゼルローンの総司令部に、5000万人分の180日分の食糧。200種の食用植物の種子、人造タンパク製造ブラント40基、水耕プラント60基、それを輸送する船舶を要求する要請書を提出した。
要求書には、「現在「解放区」の住民を飢餓状態から救うためには最低限これだけ必要である。「解放区」の拡大に伴いこの数値はさらに増加することになろう。」と付記されていた。
要請書を見て、後方主任参謀のキャゼルヌ少将は、言葉を発声する前に、思わずうなるしかなかった。彼を補佐する士官も押し黙るしかなかったが、勇気をふりしぼって「苦しい現実」について上官に確認するしかない。
「イゼルローンの倉庫を空にしても700万トンしかありません。人造タンパクプラントと、水耕プラントをフル稼働しても...。」
「わかっている。5000万人の180日分の食糧といえば穀物だけでも1000万トンに及ぶ。二十万トン級の補給船が50隻は必要だ。今後の計画もある。上申書をしたためねばならんな。」
予鈴が鳴る。
「どうぞ。」
みほ、沙織、優花里がキャゼルヌの執務室を訪れる。
「おお、西住少将、それに沙織にユカリか。」
「あの...。」
キャゼルヌは驚いた。この「少女」たちは、補給のことを心配して訪ねてきたのだ。ヤンと相談して、その存在が秘匿されていることからこそ有効な作戦行動を考えたことを説明し、キャゼルヌに補給艦隊が通るであろう航路について聞き出す。
「この航路が本国から一番いいだろうな。ただ万一敵が知っていたら危険でもある。」
「わかりました。」
「キャゼルヌさん。」
「なんだ沙織。」
「みぽりんとヤンさんが考えた作戦だから大丈夫だよ~。」
と明るく微笑む。しかし、みほやヤンから厳しい状況を聞かされているから、キャゼルヌが少しでも元気が出るよう彼女なりに明るく振る舞っているのがどうしても隠しきれていない。
キャゼルヌが苦笑し、沙織がため息をつく。それをみてみほと優花里も苦笑する。
「とりあえず、みんなでお菓子たべよ。」
そしてお菓子袋を差し出す。
「うむ。」
4人は、黙ってうなづき、しばらくぼりぼりとお菓子をたべる。
「じゃあ、行ってくるよ。」
キャゼルヌはほほえんで、手を軽く振る3人に見送られながら執務室を出て、総司令部に向かう足どりはいくらかは軽くなっていた。
しかし、いざ総司令部に足を踏み入れた彼の足どりはとたんに重くなった。
肉付きの薄く、血色の悪い、人をこばかにするような上目づかいと口元のゆがみのある若い士官が肉付きの良い太ったロボスのわきに立っていたからだ。
「総司令官は作戦参謀フォークの腹話術人形だ。」
との毒舌がひそかにささやかれている。
「前線からの要求があるようだが?」
肥満しているロボスは、その肉付きのみならず脂肪の一部で肥厚したあごをなでながら
「何かね。そうでなくても忙しいのだから手短に頼むよ。」
とめんどうくさそうであった。
キャゼルヌは、無能な上司でも印象付けて注意をひくために思い切った表現で発言することにした。
「では、手短に申しあげます。わが軍は危機に直面しています。それも重大な危機に。」
ロボスはあごにあてた手を止め、不審そうな視線を後方主任参謀にそそぐ。
フォークは意地悪そうな目つきと口元をわずかにゆがめる。
「例の要請書については、ご存知ですね。」
フォークは、こいつは何を言っているんだ、そういえばこいつはヤンと昵懇だったな、いつか問題にしてやるかと密かに心の隅で考えを巡らした。私怨と軍内部の出世競争にしか関心のない悪しき官僚主義の権化のような発想しかこの男には浮かばない。
「ああ、一応目を通したが、いささか過大にすぎるのではないかね。」
「イゼルローンにはそれだけの物資はありません。」
「本国に要求すればよかろう。経済官僚どもがヒステリーを起こすかもしれんが、やつらも送らないわけにはいくまい。」
「ええ、たしかに送ってくるでしょう。しかし、それが無事に届けばの話です。」
「どういう意味かね。少将?」
「敵の作戦が、わが軍に補給の過大な負担を強いることにあるということです。」
普段は背広を着せた温和な会社員しか見えないキャゼルヌの口調がおもわず強いものになる。
(あんたは全軍の指揮官だろう。なぜ指揮官が補給のことを考えない作戦をたてるのか。まっさきに補給が大丈夫か確認すべきなのに!)
キャゼルヌはロボスの鈍い反応に怒りを抑えている自分を自覚して、心のなかで自嘲することで気持ちを抑えた。
「つまり敵はわれわれの輸送船団を攻撃して、わが軍の補給を絶とうと試みる可能性があるというのが、後方主任参謀のご意見ということですな。」
「そうです。」
(わかっているならなぜそれを言わないのか!)
「しかし、最前線までのこの宙域はわが軍の占領下にあります。後方主任参謀のご意見は杞憂ですな。まあ、多少は念のために護衛はつけましょう。念のためにね。」
「そうですか。念のために護衛を付けると。覚えておきます。それでは失礼します。」
キャゼルヌは司令部を辞した。
「ヤン、ミス・ニシズミ、沙織、生き残れよ。死ぬにはばかばかしすぎる戦いだ。」
キャゼルヌは沈む気持ちと怒りを抑えながら執務室に戻る途中で独語した。
ラインハルトとキルヒアイスは同盟領本土へ忍び込んで補給を遮断すべく作戦を練っていた。帝国軍のなかでは彼らだけが部分的であるがイゼルローン回廊出口付近の同盟領の航路図をもっていた。