Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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「西住少将」
「はい。」
「これをみたまえ。」
それはエネルギー中和磁場を効率的に張れるよう流線型で、かつ「あんこう」が獲物を捕らえるときに使う独特の誘引突起のような全方位型の強力なレーダーを備えている。「尾びれ」に当たる部分もレーダーが備えられ、さながら緑色の巨大な金属製の「あんこう」だった。
「君とエリコ・ミズキ少佐の意見をとりいれた新造戦艦ロフィフォルメだ。」
「シトレ元帥。このようなすばらしい艦をありがとうございます。」
「皮肉なものだな。君たちの要望がこんな形でかなえられるとはな…。」
今回の出兵のために必要ということで旗艦として造られたということだった。
「この程度のことしかできなくてすまん。君たちの活躍に対しての感謝の気持ちだ。こんな形になってしまったが...。」
「いいえ。ありがとうございます。」



第22話 帝国領侵攻します。

みほたちは、出発までの艦隊編成など文書事務に多忙をきわめた。

みほは、技術関係の仕事は、エリコと生来のミリタリー好きから同盟軍の艦艇、兵器諸元を覚えた優花里にまかせ、沙織、華とともに艦隊編成、人事などの文書事務と統合作戦本部と自らの司令部を往復する毎日がしばらく続いた。

イゼルローン要塞の星図データなどからイゼルローン回廊帝国側出口の星系の特徴を把握し、より有利な作戦案を考え、必要な資材を調達していった。

第14艦隊の出発する日がやってきた。

 

同盟軍の将兵たちはハイネセン上空の衛星軌道上にある自分たちの配属艦に乗り込む。

指揮シートに座ったみほに優花里が告げる。

 

「西住殿~。全艦隊に向けてあいさつする準備が整っているであります。」

 

「優花里さん、ありがとう。」

 

「沙織さん、回路お願いします。」

 

「了解。みぽりん。」

 

「これから第14艦隊司令官に就任した西住ど..コホン、西住みほ少将があいさつします。総員起立して艦内スクリーンに傾注してください。」

 

 みほは、呼吸をととのえ原稿を見る。スクリーンに向かって声を放った。

「みなさん、第14艦隊司令官になった西住みほです。よろしくお願いします。」

艦内中継用スクリーンにみほの姿が映し出される。

「あの、皆さん「われわれはいまのところ負けているが最後の瞬間に勝っていればいいのだ。」って、あれ、沙織さん...。」

「みぽりん、棒読みしちゃだめだって。」

「あの...士気のあがる言葉を選んでおいてって...。」

7000隻の艦艇の内部は爆笑の渦に包まれる。沙織は小声で言う。

「みぽりんは演説とか苦手じゃない。だからアスターテでヤン提督がみんなを励ました言葉がいいかなと思って。じゃあこれは?」

「えっと改めて。皆さん「おいしいケーキを食べられるのは生きている間だけだから、みんな死なないように戦い抜こう。」」

割れんばかりの拍手が7000隻の内部にひろがった。

そこへ優花里が画面に顔を出す。

「みなさん、副官兼技術少佐の秋山優花里であります。よろしくお願いします。西住ど、じゃない西住少将は、演説は苦手ですが頼りになる司令官です。戦車道の試合でも...それから、ファラーファラ星域の海賊討伐にも...。」

「ゆかりん、長すぎ...。」

「すみません。」

また7000隻の艦内は再び笑いに包まれ皆の心が自然にひとつになる。

「では第14艦隊出撃します。」

「了解。」

宇宙暦796年8月22日、同盟軍は、帝国領へ侵攻すべく遠征を開始した。

 

一方これに対し、銀河帝国皇帝フリードリヒ4世は、帝国元帥ラインハルト・フォン・ローエングラムに迎撃するよう勅令をくだした。

ローエングラム元帥府には、黄金獅子が描かれた真紅の幕が垂れ下がり、そのわきを黒地に双頭の鷲を描いた幕が垂れ下がっている。若いえりすぐりの諸将が赤いじゅうたんを挟んで二列に立ち並び、その中央奥には金髪で白皙の美しいが、蒼氷色の鋭い眼光を持つ青年が座っている。

「わたしは、この機会に同盟軍を徹底的にたたいておこうと考えている。そのためには、イゼルローンの回廊出口で敵を迎撃するのではなく、領内奥深くに誘い込むつもりだ。」

「すると敵の補給の限界点、つまり攻勢の限界点に達するまで攻撃はしないと?」

「そのとおりだ。敵の補給が限界に達したところを全軍をもって一気にたたくのだ。」

「戦わずに引くわけですか?」

そのように問うたのは、蜂蜜色のやや癖のあるおさまりの悪い髪をもち、体操選手のような敏捷性を感じさせる中肉中背の好青年ウォルフガング・ミッタマイヤーである。黒の軍服の襟と肩の階級章は中将で、金髪の若者に次ぐ名将であることを間接的に物語っている。

「そうだ。不満か?」

「不満ではありませんが、時間がかかりそうなので…。」

続いて発言したのは、頭髪は黒に近いブラウンで、細面、右目が黒で左目が青の瞳、いわゆる「金銀妖瞳(ヘテロクロミア)」の持ち主で、ダンディを地でいく男オスカー・フォン・ロイエンタールである。やはり中将の階級章をつけている。

「われわれはかまいませんが、門閥貴族どもがさわぎたてないでしょうか。」

彼は親友で、良きライバルでもある蜂蜜色の髪の好青年の危惧をさりげなく代弁し、上官たる金髪の青年に注意を促すと同時にその意図を確認したのだった。

「やつらに口出しさせないためにも、時間はかけない。」

「….?」

「せいぜい長くて2か月だ。オーベルシュタイン、説明せよ。」

金髪の青年に指名されたのは、銀色に近い白髪で、血色の悪い半目をしたような男である。

「同盟を称する叛乱軍は、これはもちろん彼らの主観ですが専制政治の圧政から民衆を解放する「解放軍」「護民軍」を自称しています。やつらの自尊心や建前を利用するために、辺境の星系から物資食糧を引き上げます。連中は、そういった事態になった場合でも自らの主張ゆえに民衆に食糧を提供しなければならなくなる。」

「つまり、やつらから民衆に物資食糧を吸い取らせる、ということですか。」

「そうだ。やつらの補給は早晩幾何級数的に限界に達するだろう。イゼルローンの生産力では補いがつかなくなるというわけだ。すでにクラインゲルト伯爵領にケスラーを派遣している。」

諸将に作戦を説明して、解散させた後、金髪の若き総司令官は、親友にして最も信頼する有能な赤毛の部下に声をかける。

「キルヒアイス。敵の補給艦隊が本国から派遣されるはずだ。それを迎撃してほしい。」

「かしこまりました。拝命承ります。」

金髪の若き総司令官は、親友である赤毛の若者をいったん呼び止める。

「勝つためだ、キルヒアイス。」

と声をかけた。彼は親友が今回の作戦が民衆に負担を強いる性質を持つのに対して感情的に是認しえない気持ちを持っているのを理解していた。それゆえに、戦術レベルの効果に意識を向けさせて納得するようわざわざ念を押したのだった。

赤毛の若き名将は、こくりと会釈すると部屋をでていった。




同盟軍はイゼルローン回廊から帝国領へなんの抵抗も受けずに侵攻し、いくつもの星系を「解放」しはじめた。その様子はマスコミにも「景気よく」伝えられた。

※ロフィフォルメ;Lophiiformes/ラテン語アンコウ目の学名。

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