Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
「作戦参謀、説明を。」と振った。
「はつ。」
小さく咳ばらいをしてフォークは得意そうに立ち上がる。
「大軍をもって、帝国領内を自由惑星同盟の旗をかかげて侵攻する。それだけで帝国の連中の心胆を寒からしめることができましょう。」
「では、侵攻するだけで戦わずに後退する、ということか?」
「そうではありません。高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処することになろうかと思います。」
「なぬ…抽象的にすぎる。もう少し具体的に言ってくれ。」
ウランフは不安になった。同時にかすかな怒りも覚える。
(こまったものだ。こんなやつに3200万もの兵士の命を預けるのか。)
みほやヤンも不安とかすかな怒りを覚えたのも同様だった。
(わたし、この人…いや…)
しかし、はっきり発言した者がいた。頑固者の老人、「老練」という文字を実体化した印象の人物、アレクサンドル・ビュコック中将だった。宇宙暦745年の第2次ティアマト会戦にも軍曹として参戦しているビュコックは、作戦のいい加減さで兵士の命が失われるようなことが許せなかったのだ。
「要するに行き当たりばったりということじゃな。」
語調は強いがそれでも抑えていることがうかがわれる。
フォークは無視して
「ほかには?」
とつづける。
「いいですか?」
「ヤン中将、どうぞ。」
シトレがはじめて口をひらき重厚なバリトンが発声される。
「帝国領内に侵攻する時期を現時点に定めた理由をお聞かせ願いたい。」
ヤンのテナーが発声されると、ややしゃがれ声だが
「選挙が近いからじゃろ。」
と少し語調を強めて、ビュコックがつぶやく。会場にはビュコックへの同意が含まれたざわめいたような笑い声が起こる。
「戦いには機があります。それを逃しては運命に逆らうことになります。」
ヤンが問い返す。
「つまり現時点が帝国に対して攻勢に出る機会だといいたいわけか。」
フォークは高揚して、机を両手でたたいて力説する。
「攻勢ではありません。大攻勢です。イゼルローンを橋頭保となし帝国領へ深く侵攻する。さすれば帝国軍は狼狽しなすところを知らないでしょう。同盟軍の空前の大艦隊が長蛇の列をなし、自由惑星同盟正義の旗を掲げて進むところ、勝利以外の何物もないのです。」
「あの…。」
「西住少将。」
「その作戦だとすごく隊列が長くなります。敵に中央から隊列を突かれる恐れがあるので...。」
「なぜ分断の危機のみを強調するのか小官には理解いたしかねます。我が軍の中央部に割り込んだ敵は、前後からはさまれ集中砲火をあび惨敗するにちがいありません。西住少将の危惧は取るに足りません。」
ヤンがみほを応援する、
「フォーク准将。そのような挟撃は、錬度が必要で、一朝一夕にできるものじゃない。隊列が長くなれば補給や連絡に不便をきたし、指揮系統が寸断され挟撃どころではない。それだけではない。帝国軍はおそらくローエングラム伯をさしむけてくるはずだ。彼の軍事的才能を考慮して慎重な計画を立案し編成すべきだ。」
グリーンヒル大将がここで口をはさむ。
「ヤン中将、ローエングラム伯を高く評価していることは承知している。しかし彼はまだ若い。失敗することもあるだろう。」
「確かにそうですが、彼が犯した以上の失敗を我々がすれば彼が勝って我々が敗れるのです。」
「あの…。」
みほが再び手をあげる。
彼女の脳裏には、隊列が分断され、背後からエンジンを狙われて次々に撃破される戦車がうかんでいた。
(いや。こんな作戦!ダメ!><)
という気持ちが気の弱い彼女をして手をあげさせたのだ。
「西住少将。」
シトレが温かい視線をみほに向け発言を許可した。
「わたし、アスターテの会戦を分析しました。ローエングラム伯は、2倍の同盟軍に対し、包囲されると考えないで、時間差をつけて各個撃破できるってとらえたんです。それにうしろから攻撃されたら挟み撃ちなんてできません。」
「ヤン中将がおっしゃるのも西住少将がおっしゃるのも予測にすぎませんな。敵を過大評価し、必要以上に恐れるのは武人として最も恥ずべきところです。ましてそれが味方の士気をそぎ、決断と行動を鈍らせるとあっては、利敵行為のそしりを免れますまい。」
ダンと強く机をたたく音がする。義憤にかられた老将が立ち上がり、片手にこぶしを握っている。
「フォーク准将!貴官のいまの発言は礼を失しておるぞ。」
「どこがです?」
「貴官の意見に賛同せず、慎重論を唱えたからと言って利敵行為とはなんだ。それが節度ある発言といえるか!」
「わたしは一般論を申し上げたまでです。特定個人への誹謗ととらえられては甚だ迷惑です。」
ヤンは小さくため息をつきみほをちらっとみた。みほも不安そうな顔でヤンを見上げてしまう。ヤンはみほにわかる程度のかすかなうなずきをかえすと着席した。
「そもそもこの遠征は専制政治の圧政に苦しむ銀河帝国の民衆を解放し救済する崇高な大義を実現するためのものです。これに反対する者は結果として帝国に味方するものと言わざるをえません。小官の言うところは間違っておりましょうか。
例え敵に地の利あり、想像を絶する新兵器があろうともそれを理由としてひるむわけにはいきません。」
シトレは腕を組んでやや下を向き考え込んでしまった。
ヤンとみほはげんなりしている。ビュコックはあきれ顔でヤンに対し
(どうしたもんかね。こいつは。)という視線を向ける。
「われわれが解放軍として大義に基づいて行動しているのをみて、帝国の民衆は歓呼して我々を迎え進んで協力するに違いないのです。」
高揚して得意そうに「演説」を続けているフォークに対し、
ヤンとみほは、最後の論陣をはった。曰く、特定の惑星を拠点として、補給を充実させながら慎重に戦線を拡大するべきだ、というのは、大軍を維持するには補給線が確保できないと動けなくなるからだと主張した。失敗を最小限におさえるための提案だったが、それに対しフォークは、一気に力押しするために大軍を動員するのだ、くくたる策は必要ないと反論した。そしてもはやだれも発言せず、フォークが誰も反論できなかったと得意そうに「演説」をつづけた。
会議がおわるとフォークはみほに声をかける。
「西住少将。」
「はい…。」
「戦術シュミレーションをしましょうか。」
なめるような視線で口元には薄笑いが含まれる。しかしみほはひるまなかった。おだやかで気弱な彼女には珍しく、全国戦車道大会決勝戦で姉に対してとはやや異なる、サンダース戦で通信傍受機をにらんだ時に近い怒りを含んだ視線でフォークをにらむ。
「受けて立ちます。」
そしてフォークはシュミレーション後、再び屈辱に歯噛みすることとなる。一方勝ったはずのみほの表情は晴れず、負けたような暗い表情と重い歩調でシュミレーションルームから出てきたのだった。