Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
第1話 針路、そっちはダメです!
ズドーン、ズドーン、ズドーン
ここは東富士演習場。第63回全国高校戦車道選手権大会決勝戦が行われていた。
「グデーリアンは言った。厚い皮膚より速い足と。これよりわれわれは、森を突破し、一挙に敵の虚を突く。」
濃い栗色の髪のりりしい少女、というより、その瞳と表情に怜悧さと鋭い知性をただよわせ、社長、将軍、提督と呼ばれるような場合まさしく彼女のようになるだろうといった
「隊長、アルデンヌですか。」
ディーガーⅡ、別名ケーニヒスティーガーと呼ばれる重戦車に乘る車長とおもわれる白い長髪の少女が「上官」たる少女に作戦の意図を確認する。
「そうだ。」
濃い栗色の髪の少女はうすく笑みを浮かべて答える。
彼女の率いる戦車隊は、ティーガー、パンター、Ⅳ号中戦車など名にしおうドイツ製「猛獣軍団」の戦車隊である。黒十字の校章をつけたその戦車隊は、森を突破して一斉に砲撃をしかけた。
攻撃されているのは、日本製の三式中戦車、89式、アメリカ製のM3リー、ドイツ製のポルシェティーガー、三号突撃砲、Ⅳ号戦車、チェコ製38tヘッツアー仕様、フランス製ルノーB1bisによる混成チームである。青字に「大」の字、その中央に「洗」という字が重ねられ、動物と思われるマークも付けられている。
皮肉なことに「猛獣軍団」を率いる若い女性の妹が、対戦校大洗女子学園の隊長であり、Ⅳ号戦車に乘って「混成部隊」の指揮をとっている。その妹は姉とは対照的に瞳と表情には温和さと、柔和さをたたえているが、それは「恐ろしいほど自然体で、懐深」い彼女の底知れない本質の表面かもしれないと彼女と対戦して敗れた者を考え込ませてきた。
さて、「猛獣軍団」の激しい砲撃に
「うわあ...」「いきなり...何!~」
「何よこれ!土煙で前が見えないじゃない!」
三突、M3リー、ルノーB1bisの搭乗員が叫ぶ。
「いきなり激しい砲撃ですね...。」
Ⅳ号の長髪の搭乗員が思わずつぶやく。
「凄い....。」
通信手と思われるオレンジ色のウエーブかかった髪の少女が絶句して言葉がつづかない。
「これが西住流...ですか...。」砲弾を抱えた装填手の少女がつぶやく。
Ⅳ号の車長である淡い栗色の髪の少女は指揮官らしく冷静だった。
「各車両はできる限りジグザグに動いてください。前方の森にはいります。」
ケーニヒスティーガーの車内では、フラッグ車であるⅣ号戦車を視認していた。
「前方二時に敵フラッグ車を確認!」
「よし、照準合わせ」
三式中戦車の車内では桃の眼帯をした操縦手の少女が必死にギアレバーを動かそうとする。「ギアが固いよ。入らない。」
「ゲームだと簡単に入るのに...。」搭乗員の長髪の少女と短い髪の少女は不安そうに嘆く。
「照準よし!敵フラッグ車に合わせました。」
ケーニヒスティーガーの車長である銀髪の少女はほくそえむ。
「一発で終わらせてあげる。」
さて一方、三式の車内では操縦手の少女がうなっている。
「ううう~ん。ぐぅっつ、ふん~っつ」
ガコッツ...
「入った!動いた!」三式中戦車が前進した。
そのとき「猛獣軍団」の砲弾はフラッグ車であるⅣ号へ向かって放たれ、Ⅳ号の装甲を貫き、万事休すにおもわれた。
「う、ううん...。」
栗色の髪の少女は上体を起こして起き上がろうとする。
パンツァージャケットと白いプリーツスカートはすすで汚れている。
「Wer bist du?Woher kommest du?」
黒い軍服を着た兵士が声をかける。聞覚えがある。どうやらドイツ語のようだ。少女は姉がドイツへ戦車道の留学をしたときにスティ先にあそびにいったことがあったからだ。
お前呼ばわりされているが、お前は誰か聞かれているらしいので答える。
「Mein name ist Miho Nishizumi.わたしは日本人です。」
その上官と思われる人物があらわれる。
「何を言っているのだ?」
「エルラッハ閣下、この娘は、ニシズミミホという名前のようですが、あとは何を言っているかわかりません。」
「あやしいやつだ。叛徒どものスパイだろう。拷問にかけろ。」
「はい。」
「それなりに可愛い娘だから、鞭じゃなく水責めにしてはかせろ。言葉が分からないとこまるから自動翻訳機をつけろ。」
それから下卑た笑みをうかべ「兵士たちのうっぷんをはらすのにちょうどいいな。」
とつぶやく。
バシャ...みほは水桶に顔をつけられる。
「叛徒どものネズミめ。どうやって侵入した?」
「わかりません。ハントって何ですか?」
「自由惑星同盟を名乗るものどもだ。はかないか。もういちど水につけてやる。」
「....。」
ザブン...バシャバシャ...
「どうだ?吐く気になったか?」
「わかりません。」
「まだ言うか」
ザブン...バシャ
「うぐ...。」
繰り返されているうちにみほは気を失った。
(なんで...わたしはこんな目に....みんなはどこにいるの??)
「気を失ったようです。」
「牢へぶち込んでおけ。」
「はつ。」
そのころエルラッハの上官である金髪の青年は、純白の旗艦の艦橋にいた。
スクリーンと宇宙空間をながめていたが決心したように、親友でもある赤毛の副官に向かって
「キルヒアイス!」
と呼びかける。
「はい。」
「戦列を組み替える。全艦隊紡錘陣形をとるように伝達してくれ。」
赤毛の副官は感じのよい、それでいてかすかな笑みをうかべて金髪の上官でもある親友に応える。
「中央突破をなさるおつもりですね。」
「うむ。そうだ。」
金髪の青年は、親友であり、有能な副官の応えに満足そうにかすかな笑みをうかべた。
「エルラッハ閣下、紡錘陣形をとるようにとの指示です。」
「金髪の孺子め...。わかった。紡錘陣形だ。」
灰色の艦隊は宇宙空間を魚の群れのように紡錘陣形をとり、猛々しく進撃していく。
灰色の艦隊と対戦している緑色の艦隊のなかに白く144Mの番号が記されたセルリアンブルーの戦艦の艦橋ではオペレーターが叫んでいた。
「帝国軍は紡錘陣形でつっこんできます。」
「中央突破を図る気だな...。」
黒髪の指揮官と思われる青年は独語した。
「司令官代理。どうなさるおつもりですか。」
「対策は考えてある。」
「しかし、どうやって味方に連絡をとるおつもりですか。」
「ラオ少佐、各艦にC4回路を開くよう伝えてくれ。それだけなら傍受されても敵には何の事だかわからないだろう。」
ラオと呼ばれた少佐はかるい驚きをおぼえた。昼行燈というべきこのぼうっといた黒髪の上官はこうなることを予測していたのか....
「もしかして司令官代理閣下はこうなることを予測していたのですか。」
「うん。役に立たなければよかったんだけどね。ラオ少佐、復唱は?」
「はつ。ただちに。司令官より伝達。全艦、C4回路を開け。」
エルラッハの上官である金髪の青年、ラインハルト・フォン・ローエングラムは、紡錘陣形で突き進む自軍の艦隊が敵-同盟軍艦隊-を「引き裂いていく」さまをスクリーンでながめて「どうやら勝ったな。」とつぶやいた。
しかし、しばらくしてラインハルトは、胸中にかすかな警鐘と不安のしみがひろがりはじめているのを感じていた。彼の顔からは余裕が消え、じょじょに困惑の色にかわっていく。いつのまにか指揮卓に両手をついて天井のスクリーンをにらみつけていた。なにかたちのわるい詐術にかかったような不快感が背筋にじわじわと走っていた。
いつしか左手にこぶしをつくり、人差指の関節をいつのまにか軽く噛んでいた。
「しまった...。」
金髪の青年の脳裏になにかが光ってはじけ、低いつぶやきが口からもれた。
それから間髪おかずして、オペレーターの鋭い叫びが重なる。
「敵が、敵が左右にわかれて、わが艦隊の両側を高速で逆進していきます。」
「キルヒアイス!」
彼は赤毛の副官を呼ぶ。
「してやられた!敵はわが軍の後背にまわる気だ。」
金髪の若者は指揮卓をこぶしでたたきつける。
「どうなさいます?反転迎撃なさいますか?」
それは、敵艦隊の醜態を思い起こさせ、上官でもある親友が冷静さをとりもどすための確認だった。
「冗談ではない。俺にあの敵と同じ轍を踏めというのか。」
「それでは、前進するしかありませんね。」
「そのとおりだ。」
「全艦隊、右へ転針!逆進する敵の後背に食らいつけ!」
エルラッハは部下に確認する。
「小娘はどうしている。」
「牢にぶちこんでいますが。」
「艦橋へ連れて来い。金髪の孺子の手柄なのは不愉快だが小娘に仲間たちが敗れるさまをみせて、吐くようにさせるのだ。」
「はつ。」
みほは、艦橋につれてこられる。
スクリーンには、帝国軍の艦列と同盟軍の艦列が映っている。みほの脳裏には艦艇がそのまま戦車におきかえられ、同盟軍の意図を悟る。
(ここは前進しか助からない。)
「金髪の孺子め。血迷ったか。敵に背中を見せてどうするのだ。はんて...」
そのときみほの脳裏に戦車砲でこの艦が貫かれる幻がうかぶ。
「前進してください!」
「なにを、小娘!」
「エルラッハさん、このままではこの船は...そっちはダメです!」
みほはエルラッハにすがりつこうとする。
「ええい、どけ」
エルラッハはみほをふりはらった。
「反転90°だ!」
エルラッハの艦隊は反転をはじめる。
「エルラッハ少将の分艦隊が反転を開始しました。」
「愚かな。」
ラインハルトはつぶやいた。
「反転するあの艦隊を狙え!」
緑色の艦隊を指揮する黒髪の司令官ヤン・ウェンリーの命令が彼の率いる艦隊に伝えられる。数百におよぶ光条の雨がよこなぐりにエルラッハの艦隊にたたきつけられ、エルラッハの分艦隊は旗艦ハイデンハイムをはじめ、爆発光と煙をはいて金属片となって飛び散った。
四散したエルラッハの旗艦ハイデンハイム。みほの運命は...