Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第178話 大切なもの守ります。

「モートン提督戦死の模様。」

悲痛な声の報告がもたらされ、ヤンは、目を閉じ、ベレーを脱いで胸にあてた。指揮官を失ったモートン分艦隊はすさまじい砲火にさらされながらも艦列を維持してヤン本隊に合流した。

 

一方で、帝国軍でも同盟軍の包囲下でなぶり殺し状態だったのはカルナップ分艦隊である。ラインハルトの本営とようやくつながると増援部隊の要請をしたが、ラインハルトとて一隻一兵の余裕すらなかった。

「吾に余剰兵力なし。そこで戦死せよ。言いたいことがあればいずれ天上で聞く。」

と答えたほどであった。

「死ねだと!?よし死んでやる。先に死ねばこちらが先達だ。雑用に使ってやるから見ていろよ、ラインハルト・フォン・ローエングラムめ。」

とののしるほどであった。

「陣形を円錐形に再編し、12時の方向に一点集中砲火だ!あるいは敵の包囲網を敗れるかもしれん。急げ!」

 

「敵は陣形を円錐形にしつつあります。一点集中砲火で包囲を破ろうとするつもりです。」

「うむ。YW5回路ひらけ。陣形再編。エネルギー及び弾薬が減りつつある。砲撃せよ。なるべく正確に、効率的にだ。」

包囲網が一部解かれる。

包囲網の中にいた帝国軍は外へ脱出しようとし、包囲網の外側にいた帝国軍は味方を救おうと包囲の開かれた「孔」に殺到する。

それがヤンの辛辣な罠であり狙いだった。

ヤン艦隊のすさまじいばかりの一点集中砲火がおそいかかり、カルナップは旗艦もろとも蒸発し、ミュラー艦隊も次々に火球に変わり、旗艦も六ヶ所が破損し、核融合炉に誘爆のおそれがあるに及び艦長のグスマン中佐が額に汗が流れ、蒼白になった顔でミュラーに告げる。

「閣下、すみやかに脱出なさってください。この艦の命運はつきました。」

「では。どの艦に司令部を移したらよいか?もっとも近い戦艦は?」

「ノイシュタットであります。」

「卿もシャトルに同乗せよ。命を粗末にするものではない。」

ゴールデンバウム朝が健在なころからは信じがたいセリフだったが、グスマン中佐は従った。しかし、こんどはノイシュタットに砲火が集中し、

「運がいいのか悪いのか」苦笑しながら、戦艦オッフェンブルフに司令部を移し、その2時間後に戦艦ヘルテンに移乗した。

この戦いにおいてミュラーは旗艦を三度変えた男、鉄壁ミュラーの異名をもらうことになるが、ヤンの勢いを抑えるに至らなかった。5月5日22時35分、ヤン艦隊の砲列は、こんどこそまるはだかになったラインハルトの旗艦ブリュンヒルトを射程にとらえていた。

 

「本日、自由惑星同盟は、銀河帝国からの講和の申し入れを受け入れた。したがってすべての軍事行動を停止せよ。繰り返す、すべての軍事行動を停止せよ。」

ハイネセンからもたらされたこの超光速通信を聞いたヤン麾下の同盟軍艦隊では、憤激にあふれた。

「どういうつもりだ。ハイネセンの奴らは!」

「政府首脳部は気でも狂ったか?我々は勝ちつつある。いや、勝っている。なんだって今戦闘を中止せねばならないんだ。」

アッテンボローが黒ベレーを床にたたきつけた。

 

またほかの船、ヒューベリオン内部でも非番の将兵たちが完勝の寸前にこちらから停戦を請わなければならない理不尽さにこみあげる怒りを抑えきれない様子である。

「いったい首都はどうなっているんだ。」

「帝国軍に制空権を取られて、降伏したのさ。」

「統合作戦本部ビルが破壊され、城下の盟ってやつさ。両手を挙げて降参しました、勘弁してくださいってわけさ。」

「じゃあ自由惑星同盟はどうなるんだ?」

「どうなるだと?帝国の一部に併合されるってわけさ。形だけの自治は認めてもらえるかもしれないがそれこそ形だけ。それもたいした間じゃなかろうよ。」

「その先は?」

「知るか!ローエングラム公にきけよ。あの金髪の孺子に。やつがこれからおれたちのご主人様になるんだからな。」

「俺たちは正義だったはずだ。なぜ暗黒の専制勢力に正義が膝をつかねばならないのか。」

「これは政府の利敵行為だ。」

「そうだ政府は我々を裏切った。」

「奴らは売国奴だ。あんな連中の命令に従う必要はないぞ。」

「ヤン提督にお願いしよう。真の正義を貫いてくれ、と。理不尽な停戦命令などにしたがわないではしいと。」

「そうだ、そうしよう!。」

 

ヒューベリオンの艦橋では...

「司令官、お話があります。」

シェーンコップが投げかけたその声は、鋭い響きを含んでいた。

ヤンは、軽く肩をすくめてみせた。

「君の言いたいことはわかっているつもりだ。だから何も言わないでくれ。」

「わかっておいでなら、もう一度確認しておきましょう。さあ政府の命令など無視して、全面攻撃を命令なさい。そうすればあなたはみっつのものを手に入れることができる。ラインハルト・フォン・ローエングラムの命と宇宙と未来の歴史とをね。決心なさい。あなたはこのまま前進するだけで歴史の本道を歩むことになるんだ。」

シェーンコップが話し終わると、ヒューベリオンの艦橋は嵐を含んだ沈黙と呼吸音で満ちた。その時だった。オペレーターが叫ぶ。

「西住提督から通信です。」

「つないでくれ。」

「ヤン提督...。」

「どうしたんだ?」

みほの顔は悲しげに涙を浮かべつつも微笑んでいた。

「あの...民主主義の成果はわたしが守ります。ヤン提督は軍人が政治をするのがよくないから攻撃をしないと考えるだろうと思っていました。でも、二世紀半多くの人の努力で築き上げた民主主義の成果をだれかが守らなければいけないんですよね。だからわたしが守ります。ヤン提督がもっとも大切にしたいものを守ります。さようなら。」

華も沙織も優花里もエリコもうなずく。

ロフィフォルメは、ブリュンヒルトへ向かって苛烈な砲撃を行いつつ突進していく。

「はやまるな、ミス・ニシズミ、はやまるな...。」

 

それをみていたエリカは激しい形相になる

「させるかあ~~~撃てえ!」

ロフィフォルメの砲撃がブリュンヒルトを貫くと同時に、エリカの旗艦ケーニヒスティーガーの放つ光の槍がロフィフォルメを貫く。

「西住ちゃん!」

その瞬間、杏が叫び、トータス特務艦隊が一斉に光の槍を放ってケーニヒスティーガー狙い撃ちした。

 

ロフイフォルメの船体内部では、激しい空気の流れにあおられ、火災が起きていた。

「みんなは...」

とぼとぼとみほは艦橋をあるく。みほの顔を炎があかあかと照らす。艦内は炎でオレンジ色に染まっている。暑さで背中に汗がつたう。チームメイトたちは、火が燃え盛る中で倒れている。優花里が片腕と下半身を失っていた。華は首がなくなっているようだった。沙織が肩に傷をおって突っ伏していた。

みほは、愕然とひざをついた。恐怖と絶望のあまりレイプ目になる。

「どうして...。」

とつぶやく彼女に太いロープのようなものが天上からおそいかかる。みほは恐怖のあまり目を見張った。みほの気は遠くなった。ロフィフォルメとブリュンヒルトとケーニヒスティーガーは爆発四散し、火球になった。




次回がエピローグ、最終回となります。これまでこのような拙作を応援してくださりありがとうございました。原作のバーミリオン会戦が停止されたのが5月5日22時40分なのでその時間かそれ以降の投稿となります。

-追伸-
最終回というかエピローグの展開を説明する前書きを独立させるか、そのままにするか迷っています。独立させた場合は2話、同時の場合は1話で完結となります。

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