Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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「あまり明るくない太陽ですね。」
「直下さん、わたしたちの太陽の180分の1の明るさだから。」
「月の5600倍といったところかしら。このバーミリオン星系は、恒星が赤色矮星で、原始惑星系円盤の小惑星をもっている。赤色矮星は、閃光星といって激しいフレアを噴き上げて放射線や恒星風をまきちらすことがある。そのときは太陽よりも明るくなる。戦車道で言えば、死角が多く敵に接近されやすい可能性のある地形に似ている。」
直下がエリカに問うた。
「ということは、こちらから奇襲をかけることも可能ですか。」
「ミッターマイヤー閣下のような高速戦艦ならともかくこちらから奇襲しようとしたら返り討ちにあうわ。さすがにわたしもイゼルローンで痛い目にあっているから味方と協調して攻撃するしかない。」
「まずは防衛戦ですか、手堅いですね。それにしてもこんなに艦隊を前進させて大丈夫でしょうか。」
「何を言ってるのよ、直下。まずは敵に対して有利な座標に展開しないでどうするの?」
「あ、やっぱり…。」
「いつも通りですね。」
「っ…、あんたたちは…。」
「西住中将から通信です。」
「映して。」
「エリカ、この位置でいいのか。」
「はい、お願いします。」

「よし、いったん0.3光秒後退」

「たいちょ、西住提督、私は側面攻撃に移ります。」
「わかった。」

「トゥルナイゼン艦隊が突出して、敵の猛攻を受けています。」
通信士官たちは、妨害電波や電磁波の干渉と戦いながらダイヤルを回し、コンソールと格闘する。
「トゥルナイゼン提督の艦隊が突出し、密度が大きいため衝突回避システムで艦列が乱れている模様。」

「敵に完全に包囲されているわ。これは厳しいわね。」
「激しい妨害電波が出ています。それに敵の艦列が変形…。」
帝国軍の艦列が同盟軍の砲列の前にストローに吸い出されるように躍り出る格好になるのがエリカの位置からも見える。
「何よこれ、なぶり殺しじゃない。」
「トゥルナイゼン艦隊が包囲され、敵の猛攻を受けて被害増大中....。」
「援護する。」
「しかし敵の射線にさらされます。」
「こちらに集中砲火が及ばなければなんとかなるわ。しばらくの辛抱よ。ここは少しでも敵の数を減らしたい。多少の犠牲はやむをえない。前進して攻撃。」
「撃て!」
「敵艦隊50隻撃沈!」
「当方左翼隊50隻撃沈….」
エリカは唇をかむ。
「これ以上は危険です。集中砲火の的になります。」
「....。」
「それにしてもここで粘れるでしょうか。」
「あのアンコウ型、あれを潰さないと包囲されるわよ。仕方ない、わたしが息の根を止めてやる。」
「あの、そうするとたいち、西住中将を見捨てることになります。」
「そうよね…。」
「総旗艦ブリュンヒルトから通信です。」
「マダ敵ノウチ5000隻余ガ参戦セズ。敵ハ投入時期ヲ図ッテイルモヨウ。麾下ノ兵力ハ、敵予備兵力ニ対スルベシ。若シクハ、最終的ナ攻勢ヲ行ウ兵力トシテ貴重ナリ。イッタン後退シ新タナ指示アルマデ指定サレタ座標ニ待機セヨ、とのことです。」
「それから作戦ファイルです。開きます」
そこには、25列の横列陣とその動きが描かれていた。
「さすがね。巧妙な時間稼ぎだわ。」
「でも有効ですし、敵が見破るまで時間がかかります。」
「恒星風が時々起こる宙域ですから、これだけ完成度が高くてシンプルな作戦はないと思います。」
「そうね。さすがローエングラム公といったところかしら。10光秒後退する。」

4月30日
「恒星風がやんだようね。」
「叛乱軍が作戦を変更したようです。小惑星帯に3000隻、前方に推定15,000隻以上、わが軍の正面を避け左翼方向に移動中。」
「あ、あれは…。」
出力半分のバサードラムジェットのついた小惑星、隕石がさながら大昔の戦象の群れのように慣性をつけて怒涛のごとく帝国軍の艦列に殴り込んでくる。
隕石と小惑星の爆発で数千隻が失われ、さらにバランスを失った艦艇がぶつかって火球に変わり、漆黒なはずの宇宙を昼間のように照らされ、ケーニヒスティーガーの艦橋まで明るく照らす。
次の瞬間、無数の光の槍が帝国軍を四方八方から串刺しにする。
無数の光の剣が艦艇を切り刻む。帝国軍は苦悶にのたうち回る。真っ二つに引き裂かれる艦艇。
「アルトリンゲン分艦隊、壊滅しつつあり。」
「ブラウヒッチ分艦隊、戦線崩壊の模様。」

(またもや、なぶり殺し…でもわたしが有効な作戦案を提示できたわけじゃない。)
エリカは再び唇をかむ。そのときブリュンヒルトの周囲で旗艦を護衛していた三隻が次々と火球に変わり、爆発光と爆煙を噴き上げた。そのうち一隻は動力部に直撃をくらったようでまぶしいばかりの光を放って飛散する。もう一隻はへし折れるようにして爆発した。宇宙空間で音はないが衝撃波がブリュンヒルトを激しく揺さぶる。

そのときだった。同盟軍の砲火が一瞬弱まった。
「あれ...なぜか敵の攻勢が弱まってませんか?」
「閣下、味方からの通信を傍受しました。」
「ミュラー艦隊です。ミュラー艦隊の来援です。助かった...。」
「ふう、なんとかなったようね。」


第177話 帝国軍も攻勢です。

地下会議室で、老将は細面で薄ら笑いを浮かべる一見ダンディな評議会議長をにらみつけて話を続ける。

「もし、あのまま救国会議の降伏をまっていたら、あの比類ない軍事的天才であるローエングラム公が帝国軍を率いてイゼルローン、フェザーンの両回廊から侵入してきたことでしょう。あなたが今の地位にもどれなかった可能性が濃厚です。また、アルテミスの首飾りを破壊する方法を帝国軍は編み出していることをヤン提督から報告を受けています。それに百歩譲って仮にこの星を守れたとしてほかの星系はどうなりますか。あなたがたの権力さえ無事であればほかの星系がどうなろうと平然と戦争をつつけるということですかな。」

トリューニヒトはさすがに言葉につまった。アルテミスの首飾りを破壊する方法を帝国軍が知っているとしてなぜ報告しないのか、と言ったところで、それを同盟市民に報せるのかという問題がある。

「要するに同盟は命数をつかいはたしたのです。政治家は権利欲をもてあそび、軍人はアムリッツアのような投機的冒険にのめりこんだ。民主主義を口に唱えながらそれを維持する努力を怠った。いや、市民すら政治を一部の政治業者にゆだね、それに参加しようとしなかった。専制政治が倒れるのは君主と重臣の罪だが、民主政治が倒れるのは全市民の責任だ。あなたを合法的に権力の座から追う機会は何度もあったのに、自らその権利と責任を放棄し、無能で腐敗した政治家に自分たちを売り渡したのだ。」

「演説はそれでおわりかね。」

トリューニヒトは薄ら笑いを浮かべている。ヤンとみほがみたらやはりそうかと納得し、生理的に忌避するであろううすら笑いであった。

「そう、演説すべき時は終わった。もはや行動の時だ。議長、わたしは力づくでもあなたをとめてみせますぞ。」

老将は決意の色をみなぎらせて席から立ち上がり、自分よりも三十歳も若いだろう議長に近づこうとした。会議室には、制止と、狼狽の声が上がったが、周囲の壁が回転扉となり、とんがった白装束に、「Earth is Mather,Earth is in my hand」というタスキをかけた男たちがふいに現れた。彼らはトリューニヒトを守るように肉体の壁を作り、銃口を出席者にむける。

「ち、地球教徒!」

老提督は立ちすくみ、出席者も驚愕の連続でかたまってしまう。

「彼らを監禁してくれたまえ。」

トリューニヒトは、おごそかに命じて、出席者は監禁されていった。

 

時系列は再び5月2日にもどる。バーミリオン星域では、ミュラー艦隊の来援により戦況は帝国軍にとって優位になったかにみえたが、6000隻では、じゅうぶんな包囲網を築けなかった。

そこへ同盟軍におそいかかった一隊がある。いろめきたつ黒十字槍騎兵、逸見分艦隊だった。ミュラー艦隊とともに同盟軍におそいかかり、今度は同盟軍がうちのめされ、しかし、予備兵力として控えていたトータス特務艦隊が逸見分艦隊におそいかかる。

「見つけたよ!黒森峰の副隊長!」

「おまえは…。」

「大洗のアプリコットって言ったらわからない?」

「やらせない。」

「直下、敵は背後から来るからこちらが不利。前進して相手の後ろにつくわよ。」

「御意!」

 

「西住ちゃん、いっくよー。」

「ありがとうございます。」

「アイちゃん、出撃。」

「了解。」

 

「デュアリースターズ出撃!」

「おう!」

ヒカワ・アイは、第14艦隊からトータス特務艦隊の航宙隊に配属されていた。アイ率いるスパルタニアンは、ニシザワ中隊、イワキ中隊、スガノ中隊、サカイ中隊がいる。それぞれ巧みに帝国軍艦艇のエンジンを狙って炎上させる。

逸見分艦隊もエンジンをやられ右往左往し始めた。

「エンジンをやられました。航行不能です、」

「なにやってるのよ。」

エリカは旗艦の床を踏みならす。

「エリカさ、閣下。」

「なに、小梅。」

「ここにいると恒星風におそわれてますます被害が出ます。」

「そうね。艦長。この宙域を脱出する。8時方向へ全速前進。」

「御意」

艦長のマヌエラ・フォン・キアはうなづく。

「実質後退ばかりでわたしの性にあわないわ。」

小梅と直下は苦笑する。

逸見分艦隊は、ぶつかり合って爆発する艦を出しながらも、恒星風のルートを避けた空間へ向かって移動し始める。

デュアリースターズ戦隊の活躍はめざましく、スガノ中隊は、別の中隊が戦っている敵を垂直上方から攻撃して撃墜していく戦法で、イワキ中隊は、四機で編隊を組み、標的になった機が、機体スライドで敵の攻撃を避けつつ、別の機が一撃離脱でワルキューレを撃墜していった。サカイ中隊は、左ひねり込みを駆使して、捕えたとほくそえんだワルキューレのパイロットが次の瞬間には標的を見失って動揺しているところを後背に回り込んで次々に撃墜していった。

 

一方、帝国軍も負けていない。エーリヒ・バルクホルン大尉とゲルハルト・ハルトマン大尉のワルキューレはその白い機体を自在におどらせ、一撃離脱戦法で、スパルタニアンを次々に火球に変えていく。

 

「包囲網が5時と11時の方向にとぎれています。」

帝国軍は躍り出ようとする。

「デュアリースターズ帰還します。」

 

「敵が帰っていくぞ。」

そのときだった。

「恒星バーミリオン表面にフレア発生!5時の方向から恒星風の予想。」

帝国軍の将校は愕然とする。敵はわざと逃げ道を開けたのである。

 

恒星風に流される帝国軍を同盟軍は集中砲火でなぎ倒す。ミュラーの参戦で帝国軍に傾いた戦況はまた同盟軍に傾き始める。エンジンをやられた艦艇はほかの艦をまきこみ火球に変わり、煙を噴き上げて残骸に変わっていく。

アルトリンゲン、ブラウヒッチの分艦隊はほぼ壊滅状態で数隻を残すのみとなり、トゥルナイゼン、カルナップとグリューネマンの分艦隊はすでにミュラーに呼応して内側から包囲網を突き崩す余力はすでになくなっていた。

「ちょ、直撃きます。」

グリューネマンの旗艦は柱が倒れ、グリューネマンは下敷きになる。

「閣下、閣下!グリューネマン閣下!」

グリューネマンの口からは血が流れる。担架だ、担架!という声が艦橋に響く。

「さ、参謀長、し、指揮権をゆだねる。」

「指揮権引き継ぎます。」

参謀長が敬礼して答えた。

 

同盟軍でミュラー艦隊の攻勢をもろに受けたのは、ライオネル・モートン提督の分艦隊であった。苛烈きわまる攻勢で、3690隻を数えたモートン分艦隊は一時間後には、1560隻にまで撃ち減らされていた。

 


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