Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第171話 金髪さんの作戦見破ります。

4月29日、同盟軍は、第8陣を突破していたが、数光秒先に第9陣の光点が広がっている。

「なんという深みと厚みだ...。重厚な縦深陣をひいてくるだろうとは思っていたがこれほどまでとは....。」

 

メルカッツが腕を組む。老提督の脳裏にはこの時点でいくつかの仮説があったがどれが正しいのか判断の材料がそろっていない状態だった。

「まるでパイの皮をむくようだ。あとからあとから防御陣が現れる。」

「際限がありませんな。」

ムライとシェーンコップが会話をかわす。

ヤンはメルカッツの顔に視線を送る。元帝国軍の宿将は軽く頷く。そのときだった。通信士官がロフィフォルメからの通信によってコンソールが点滅しているのを認めてヤンに報告する。

「ヤン提督、西住提督からです。解析して映像を出します。」

みほの顔が映し出される。

「あの...ヤン提督はいらっしゃいますか。」

「ミス・二...どうしたんだい、西住大将。」

ヤンがかすかに顔を赤らめて、みほへの呼び方を訂正すると、みほも階級で呼ばれて少し恥ずかしそうにかすかに顔をあからめる。

「ラインハルトさんがなにをしようとしているのかわかった気がします。」

みほの顔が映ったスクリーンにヒューベリオンの幕僚たちの視線が集中する。ヤンはみほに促す。

「うん、続けてくれ。」

「ラインハルトさんの狙いは、わたしたちを消耗させることです。それも物理的だけでなく心理的にもです。わたしが作戦名をつけるとすれば、パイの皮作戦というかミルフィーユ作戦というような感じです。ひとつの陣が突破されると次の陣があらわれるしくみです。」

「そのとおり。」

メルカッツがつぶやき、自分の仮説が正しかったことを確認するように軽くうなづく。

「帝国軍は前方からやってくるのではないんです。そうだとしたらセンサーに反応しますし、ラインハルトさんも戦況を把握するのが難しくなるはずです。帝国軍は、薄いカードのように左右にならんでいるんだと思います。」

「なるほど、左右からスライドしてきてわが軍の前方に現れるということか。よく考えたものだな。」

「はい。これをなんとかすればラインハルトさんの本陣をたたけると思います。」

ヤンはため息をついた。

(なるほどな。こういう陣形であればローエングラム公は、戦況を把握しつつ、左右に控えた部隊を横に移動させて際限なく同盟軍の前に立ちはだかせることができるわけだ。しかも恒星風に見舞われる不安定な星域では単純な命令で援軍が来るまで持ちこたえていればいいというわけか。)

「帝国軍、ワルキューレ隊が接近してきます。距離1光秒。その数180。」

「ポプラン、コーネフの両戦隊に迎撃させろ。」

ヤンは、そう命じると、指揮デスクからシートに降りる。次の戦術を考える集中を維持するために黒ベレーを顔に乗せた。

 

「ウィスキー、ラム、アップルジャック、各中隊そろっているな。敵にのまれるなよ、逆にのみこんでやれ。」

「了解!」

空戦が始まると、ポプランを二機のワルキューレが追いかけてくる。しかし、ポプランはその身軽さでワルキューレを追尾させながら敵艦に接近していく。そしてその直前で急上昇した。追尾していたワルキューレ二機のうち一機はもろに戦艦に激突して火球に変わり、もう一機は、上昇しようとして失敗し、やはり戦艦の船体にこすって火花を散らしたのち火球に変わった。

「こりゃあ撃墜した数にはいらないかな。」

などとつぶやいていたが、遠方で僚機が次々に火球に変わっていくのを認めて愕然とする。「いったい何が起こっているんだ?」

 

帝国軍ホルスト・シューラー中佐は、

(そうそう同じ手を食うかよ。)とほくそえみながら部下たちに命じる。

「叛乱軍のやつらは三機一体の戦法でやってくる。だからそれを逆手にとってこちらが三機一体でやつらを引きずり出すのだ。無理に撃墜する必要はない。三機一体で撃墜できそうもないなら、味方の砲撃の射線のなかに誘い込んでやるのだ。」

「了解。」

 

「ずいぶん減ったななあ。ええ?」

出撃した時には、160機だったのが半数になっている。

「アップルジャック中隊モランビル大尉であります。アップルジャック中隊の生存者は小官以下二名のみであります。ほかはすべて戦死しました。ほかはすべて...。」

急激に声が弱まる。ポプランの心に不吉なかげがよぎる。

「どうした?どうした?おい?」

戻ってきた声は先のものとことなっていたが苦痛と打ちのめされたような疲労感は共通していた。

「小官はザムチェフスキー准尉であります。アップルジャック中隊の生存者は、たったいま小官一名のみになりました。」

ポプランは、音を立てるように息を吸い込み、右のこぶしを操縦盤にたたきつけた。

ポプラン戦隊が半数を失ったことは同盟軍を戦慄させるものだったがさらなる凶報が待っていた。ポプランは士官食堂で、コールドウェル大尉からコーネフの戦死を聞かされることになる。

 

さて、一方艦隊戦では、同盟軍が帝国軍の第9陣を突破したところだった。みほの意見を聞いてヤンは眠そうな目で-実際睡眠不足で疲れて眠くなっていたのだが-幕僚たちを見渡し、作戦の変更を告げる。

「ローエングラム公の戦術は、左右に配置された横列陣を繰り返し用いた極端までの縦深陣でわが軍に消耗を強いることにある。このまま前進するのは意味がないが、停滞していても時間を稼がれるだけで結局のところ彼の術中にはまることになる。したがって彼の重厚きわまる布陣をいかにくずすか考えた。恒星バーミリオンから6光分の位置に小惑星帯がある。恒星バーミリオンは本来は寿命の長い赤色矮星だが、まだ若い星だからいわゆる原始惑星系円盤の名残を残す小惑星帯があるわけだ。これを利用しよう。また計算によるとこれから10分後に恒星表面にフレアが起こり、恒星風が吹く。強力な放射線と磁気嵐、電波障害が起こるだろう。それがやんだ後、また7分後に恒星風が吹く。ローエングラム公は、本来周到な準備と攻勢を旨とする指揮官だ。当然恒星風のデータはあつめているだろうし、小惑星帯のことを知っているだろう。しかし若い閃光星や無人の原始惑星系円盤のある危険な恒星の周辺をフェザーンは航行につかわないだろうから、本来の交易ルートから外れている。したがって詳細なデータは不足するはずだ。10日程度の観測では正確なデータには程遠い。恒星風がやんだら小惑星帯を真っ先に探ろうとするはずだ。そこへつけいるチャンスがある。」


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