Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第18章 決戦!バーミリオンです(前編)。
第164話 金髪さん、作戦を定めます。


さて、帝国軍の諸提督たちは、艦上の人となり、仮元帥府のさらに仮元帥府である総旗艦ブリュンヒルトにあつめられている。

「今回の反乱勢力はしっぽをなかなかつかませんな。」

「参謀長はおそらく知っているだろう。蛇の道は蛇だ。そのようなことは考えさせておけばいい、」

「それにしても...先日の補給物資の奪取の失敗...ワーレンほどの用兵巧者がやられるとはな...。」

「いや用兵巧者だからこそ、逆手を取られたのだ。その点シュタインメッツやレンネンカンプも同様だ。」

「ローエングラム公がおっしゃったことがある。やつらは、集結地と補給地を変えて移動しながら戦うだろうということだった。そうすれば、敵に出現位置や行動を悟られにくいし、補給に困ることもない。」

「つまり、同盟領それ自体がやつらの基地になっているということか...。」

難攻不落と称されるイゼルローンをあっさり陥落させたと思ったら。今度はあっさりと放棄してみせたヤン・ウェンリーである。空恐ろしいほどにハードウェアの根拠地に固執しないことを徹底している。しかも同盟基地は、名声あるヤンとみほのためなら、二の句を告げずに喜んで補給してくれるだろう。

 

「やつらの兵力は、3万隻程度。われらの1/3の兵力だ。なのにその少数をさらに分散させてわが軍を翻弄している。やつらが好きな時に好きな場所に出現させることができるにしてもだ。」

「ふつうなら各個撃破で粉砕してしまうところだが、なぜかわれわれの兵力を知ったうえで、やつらは攻撃をしかけてくる。門閥貴族のどら息子と戦ったときは、その馬鹿さ加減に失笑を禁じ得なかったが、ペテン師やら小娘やらがいかに智謀の主といっても各個撃破すらできずにかえってしてやられているとは、情けない限りだ。」

ファーレンハイトが水色の瞳を光らせて提案する。

「いっそ84ヶ所の基地をすべて占領するか破壊するか?そうすればやつらを干上がらせて城下の盟を呑ませられるのか....」

「机上の空論だ。全軍を挙げればウルヴァシーが空になる。かといって短期間に84ヶ所をすべて抑えるためには、兵力分散は避けられないから、それをすればヤンに各個撃破の好機があることを教えるだけのことだ。」

「では、ロイエンタール提督は、手をこまねいて敵の蠢動を見過ごすとおっしゃるのか。」

「そうは言わぬ。追ったところでやつは逃げるだけだ。かといっていたずらにうごけば、先日のようにやつらに機会を与えることになる。」

「とはいってもわれらの物資は冬眠を決め込むほどは豊かではない。」

「だからヤン・ウェンリー、黒髪のモグラを誘い出して包囲殲滅する。問題はどんな餌をつかってやつを釣り上げるかだ。」

「とにかくヤン艦隊の主力さえたたけば、同盟軍は辞書の中だけの存在となる。やつを斃さなければ、我々に最終的な勝利はない。」

ミュラーの砂色の瞳に沈痛の色が浮かぶ。

帝国軍の目は、同盟政府や首都よりもヤン・ウェンリー一党に向けられていたが、そうでない者も一部にはいる。

「こうなった以上、ヤン艦隊などほうっておいて、敵の首都をつくべきです。」

西住まほ中将である。

「たしかに貴女の意見には一理ある。しかし、フェザーンからであっても4000光年以上、これでは補給がもつまい。敵もそれを知っているから、飢える前にどうしても引き返さざるをえまい。われわれの大部分が引き返したらいずこからヤン一党が現れて首都を回復し、同盟を再建する。それを倒すためにまた遠征することになる。」

「ミッターマイヤー提督、失礼を承知で申し上げますが、どうも私には、子羊がオオカミを恐れるか、猫を虎のように恐れているようにしか思えないのですが...。」

「逸見准将、申し訳ないが、あなたがどうして降格されることになったのか、その理由を貴女自身の舌で証明している。戦う上で最も必要なのは補給、そして敵の情報だ。われわれが最も恐れているのは、本国と前線との距離だ。それが理解できぬのであれば貴女と語ることは何もない。」

そこへラインハルトがやってくる。

「卿らよく来てくれた。作戦を定めた。一か月をいでずしてヤン一党は、宇宙から消滅するだろう。大将以上の階級の者は会議室へ集合せよ。」

 

「卿らに問う。宇宙の深淵を超え、一万数千光年の征旅をなしてきたのは何のためだ。ヤン・ウェンリーと栗色の髪の小娘に名を成さしめるためか。卿らの武人としての矜持は羽をはやしていずこへ飛び去ったのか?」

ヤン一党に名を成さしめた形となったワーレン、シュタインメッツ、レンネンカンプ三提督の視線は下へ向いてしまう。しかし、ワーレンは決然と頭をあげて若すぎる金髪の主君を直視する。

「閣下の常勝の令名を損ない、罪の大なるを肝に銘じております。であるからこそ、あえて申し上げます。新たなる勝利をもって敗北を償うことをお許しいただきたい、と。」

「期待しよう。だが、そろそろ私自身が出てらちをあけたいのでな。」

「ロイエンタール!」

「はっ。」

「卿は、リオ・ヴェルデ星域に赴き、そこの敵補給基地を攻略するとともに、周辺星域を制圧し航路を確保せよ。」

ロイエンタールは、返答を飲み込み若い主君を思わず見返す。

「わかるな?これは偽態だ。他の者にもそれぞれ艦隊を率いてわたしのもとから離れてもらう。わたしが孤立したとみれば、ヤン・ウェンリーは穴倉から野原へ出てくるだろう。そこへ網を張ってやつを撃つのだ。」

提督たちの視線が交錯する。

「すると閣下は、閣下自身がおとりとなり、直属の艦隊のみでヤン・ウェンリーの攻勢に対処なさるおつもりですか?」

提督たちの気持ちを代弁する形で、ナイトハルト・ミュラーが若き主君に問うと、ラインハルトはそうだ、とばかりに軽く頷く。

ミュラーは思わず声を高めざるを得ない。ヤンとあの小娘の恐ろしさは身をもって知っている。

「それはあまりにも危険すぎます。どうか私だけでも前衛としてそばに残ることをお許しください。」

ラインハルトは一笑する。

「無用な心配だ。わたしが同数の兵力では、ヤン・ウェンリーに勝てぬとでも思うか?ミュラー。」

「いえ、そのような...。」

「それにつれていく者は決定している。」

「それは...。」

「入ってきてくれ。」

ラインハルトは後ろの扉に向かって呼びかけた。

 


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