Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第163話 陰謀魑魅魍魎です。

「いいものを見せてあげよう。」

ゼフィーリア、ルパート、エリオットの後ろからにやついた顔のニヒトが現れ、立体ホログラムで、ラインハルトが襲われた様子が映しだされる。

「惜しかったではないか。いますこしで...。こんどこそはしくじるなよ。」

ニヒトとエリオットはにやけ顔を隠さない。

「実はねフォーク君。」

エリオットがつぶやき、総大司教は、いずこからかすばやくマジックハンドが伸びてきて四肢を抑えられる。次の瞬間、タンクベットのような機器の中に放り投げられる。機器の扉が閉まる。

「われわれのほうは、もうひとつ密命を帯びていてねえ。」

 

「アムリッツアで散華した2000万将兵の魂をなぐさめてほしいのだよ。」

ほくそえむトリューニヒトの立体ホログラム画像が映し出される。

 

「金髪の孺子を脅したうえに地球教の総大司教として宇宙を支配する夢をみたのだからもういいだろう、フォーク君。そういうことだからね。悪く思わないでくれたまえ。」

タンクベット状の機器がウィンウィンと音を立てて作動し始める。

「ぎゃあああああ、消さないでくれ、消さないでく....」

フォークの人格のデータが消されて、総大司教のローブの中に小型装置が埋め込まれその記憶はその装置に記録される。

「裏切り者どもが...。」

「あんたは、われわれの思うがままだ、総大司教。せいぜい勝手に陰謀をめぐらしているがいい。」

「ゼフィーリア殿、例の場所へお願いする。」

ゼフィーリアがうなづき、鎌をふるうと空中に穴が開いて、ニヒトの姿はその穴の中に消え、数百光年、数千光年をあっというまに移動した。

 

帝国軍の艦艇はいったん同盟軍のいなくなった上空に上がり、地上部隊と降下猟兵でなんとかウルヴァシーの反乱勢力を何とか鎮圧した。

「クラインゲルト大佐がなくなったか?」

「はい。敵との銃撃戦で...。」

「彼を少将に昇進させ、提督の列に加える。生きて昇進したかっただろうし、わたしも生きた彼にふさわしい地位を与えたかったが...。」

「オーベルシュタイン!」

「はっ。」

「これほどのことが起きているのにいつまですておくつもりか。お前がもっている情報を全部出せ。」

「ニヒトをとらえましょうか。」

「できるのか?」

「...残念ながら...ただ、次こそは...。」

(そんなことはもうお見通しなのだが..。)

屋根裏で物音がする。ニヒトは敵を斬り伏せて逃げる。短期間に多くの敵を倒さねばならない。当然のようにその時の短剣には、かすり傷でも致命傷になるよう毒が焼き付けてあった。

オーベルシュタインはすべてを知っていたが表情を崩さない。

「彼は暗殺者としては頂点を極めている。わたしに対して確実にかすり傷ですませているのはその証拠だ。彼の凶器に毒が焼き付けてあれば死ぬのはわたしだった。問題は依頼主だ。徹底的にさぐらせろ。」

「もう調べはついております。」

「だれだ?」

「最初は、アドリアン・ルビンスキーと地球教総大司教、二回目はヨブ・トリューニヒトと地球教総大司教です。しかも一度目と二度目の総大司教の中身は半分異なります。」

「ほう。」

ラインハルトはほくそえむ。

「あのトリューニヒトの首はどうなのだ?」

「トリューニヒトの髪の遺伝子から合成したクローンです。」

「なるほどな。報道機関に偽情報を流すとともに身の安全を図って姿をくらませたというわけか。あの救国会議のときのように。」

「御意。それから二度目の総大司教は、アムリッツアで敗北しながらもライトバンクという別人物に成りすまし、政界へ進出し、救国会議の首班となり一時期は皇帝を僭称した人物、アンドリュー・フォークの人格が半分混じっていたようです。」

「人格が混じっていた?」

「はい。おそらく本人の脳をスキャンしたのでしょう。劣悪遺伝子排除法逃れで帝国内では黙認されている技術です。表向きフェザーンと同盟では禁止されていますが。」

「だれがそのフォークとやらの脳をスキャンしたのだ?」

「ゼフィーリアという女で、時空を自由に移動できるということです。地球教で時空転移技術を開発した「エリオット」「ワルフ仮面」のグループと総大司教のグループは対立していましたが、ゼフィーリアが前者に加わって総大司教の身柄を手中に収めたようです。ゼフィーリアは、ルビンスキーの息子ルパートと行動し、ルビンスキーとは利用し、利用され、敵対もする間柄のようです。」

「なるほど。背景の事情はわかった。問題は、わたしが不名誉な逃避行を行うことになったのは、背後にいる彼の依頼主によるものであることは卿も承知しているのだろう。」

「御意。」

「ニヒトは自分の力を完璧に誇示したいだけのことだ。しかし、彼が完璧であってもその依頼主はかならずしも完璧ではない。今後わたしへの警護は、その依頼主の手の者を防ぐためのものにとどめよ。お前はあやつを相手にするのではなく、陰で操る依頼主をたたくことを考えろ。いいな。」

「御意。」

(つまんねえな。さて帰るか。)

 

議長官邸の秘密の密室で、トリューニヒトは、小型ホログラム再生機で、ラインハルトを殺し損ねた、あえて殺さなかった動画を見せられた。

「ほほう、それでものこのこ帰ってきたというわけか。」

「口に気を付けることだ。お前などいつでも殺せるんだけどなあ。厚顔無恥な政治屋さんよ。」

トリューニヒトは恐怖を覚えた。どんな諜報者でもニヒトを殺せないのはトリューニヒトも自覚していた。憂国騎士団=地球教徒の活動が沈静化していたのは、皮肉にもニヒトの監視をさせようとしたのが返り討ちにあっていたからだった。

「どれだけの報酬が...。」

「これだけだ。」

「十億ディナールだと...。」

「一億でなんとかならないか...。」

無言は同意であったが、「名も無き者」は、政治屋にくぎを刺すのを忘れない。

「ふん。とりに来たところを襲ってくる奴がいたら証拠をつきつけるよ。政治屋さんよ。」

「わかった。」

有権者には決して見せないにがにがしい表情をしていることは政治屋には屈辱だったが誰にも見られないことが彼にとってせめてもの救いだった。この場所ではなんでもやり放題なのだから。

 

同盟では、報道機関がトリューニヒトが暗殺者から一命をとりとめ復帰したことが報道され、歓声をあげるサクラとともに、元気よく笑顔で片手をあげている姿が放映された。またかっての救国会議の主犯ライトバンクがフォークであり、フェザーンに亡命して地球教徒になっていたのを捕らえて処刑したことを、もちろんのこと総大司教ではなく、フォークが銃殺された合成画像がつくられて放映された。


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