Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

163 / 181
第162話 金髪さん、かろうじて脱出です。

光条の槍がラインハルトの乗る地上車に後方、両脇から次々に襲いかかる。

「失礼します。閣下」

ミュラーがラインハルトとエミールにおおいかぶさる。

光条が至近におそいかかり、ミュラーの頭と背中をかすめる。ミュラーの砂色の髪が飛び散り、その背中の軍服の布地が高熱のため炭化していた、

「ミュラー!無事か?」

「恐れながら、小官の背中の皮は厚うございますゆえ、ご心配なく。」

ミュラーが銃を構えて周囲をみわたす。

「それにしても、これは基地全体が閣下の命を狙ってるとしか思えません。」

「だれが...。」

「わかりません。」

ワーレンが助手席の通信システムを操作していた。

「ザ...ザ...ザ....ザ....こち...ブリュン....ザイド....ございます。」

「おお、なんとか通じたぞ。」

「そちらの様子はどうか。」

「うち...こう...敵に...ザザ...占拠....もよう。応戦....。」

「雑音を除いて再生しなおします。」

「こちらブリュンヒルト,ザイドリッツ准将でございます。宇宙港は、敵に占拠された模様。本艦は、ただいま応戦中です。」

「なんと...。」

「ブリュンヒルトは、ここから4kmほどの湖水へ着水します。座標送ります。」

そうしている間にも敵の銃から発せられた光条が横殴りに襲いかかってくる。

ラインハルト一行は地上車を乗り捨てて、ブリュンヒルトへ向かう。

すると物陰から人影が飛び出す。

ミュラーが銃を構える。

「閣下、閣下、よくご無事でいらっしゃいました。リュッケでございます。」

ミュラーは胸をなでおろし、ラインハルトはリュッケに問いかける。

「シュトライトは?」

「シュトライト少将らは、この先で閣下をお待ちです。」

「では、すぐブリュンヒルトを出発させよう。」

「それはお待ち下さい。」

ワーレンが制止する。

「もし、この叛乱行為が突発的なものでないとしたら衛星軌道上にすでに敵がまちかまえているやもしれません。」

「敵とはだれか?」

「わかりません。同盟の連中にしては緻密すぎます。武装兵たちの様子からするとサイオキシン麻薬の密売組織かあるいは...」

「フェザーン、もしくはフェザーンの影の組織か...。」

「可能性はあります。」

「実は、わたしも寝込みを襲われそうになったことがある。」

「いずれにせよ、ブリュンヒルトへまいりましょう。地上であってもあの艦内ならば安全です。対策はそのあとでよろしいかと。」

とびかう光条が森に火災を起こさせていた。火の粉が散る中をラインハルト一行はブリュンヒルトへ向かう。

「そこにいるのはだれだ?」

「?」

「皇帝...?元帥....。」

ちょび髭の男はにやりと笑みをうかべて、銃をかまえる。

そこへ銃声とともに光条がその男をおそい、叫び声がする。

「お前に金髪の孺子の首はわたさん。」

激しい銃撃戦が行われ始める。

ミュラーの右腕を光条が貫く。キスリングが右ほおに、リュッケが左手に浅い銃創を受けてやけどしている。

「閣下、このすきに逃げましょう。」

「うむ...。」

ちょび髭の男がたくみに敵の射線を避けながら撃ち返し、ひとり、また一人と倒していく。

「ミュラー提督」

「なんだ?クラインゲルト大佐?」

「また新手が来るのは見えています。わたしが残ってやつらを防ぎます。提督は閣下をお守りしてブリュンヒルトへお連れ下さい。」

「何を言う。前途有望な卿を残してはゆけん。」

「ミュラー提督、実はわたしは軍に仕官したのが遅くて、提督より五歳年長なのです。」

「卿には、婚約者がいるではないか。身軽な自分が残る。」

「提督は右腕を負傷しておられます。しかも多くの将兵に責任を持つ身ではありませんか。鉄壁と称されるあなたでなくて、だれが閣下を守るのですか?」

ラインハルトは、このミュラーより五歳年長という若い大佐が翻意しないのを知り、そ

の手を握った。

「卿が防衛システムを提案しなかったら同盟軍の前に9万隻の艦艇が飛び立つこともできないままいたずらに撃沈されるところだった。礼を言う。」

「いえ、当然の提案をしたまでです。」

「卿を死後に提督の列に加えることを望まぬ。いざというときは逃げよ。同盟に捕虜になっても構わぬ。捕虜交換で帰還したら必ず厚く賞するだろう。それに卿ほどの才能があれば同盟でも重く用いられよう。しかし、わたしは卿がどんなに遅くなっても構わぬから戻ってきてほしい。多数の反対にもかかわらずわたしや帝国軍のことを考えてくれた卿こそ帝国軍に必要なのだ。」

「閣下、恐れ入ります。私も生きて昇進したいと存じます。」

若い大佐は自分よりもさらに若い金髪の元帥に微笑をたたえて応える。

「まいりましょう、閣下。」

クラインゲルトを名残惜しそうに見つめながらラインハルトはミュラーに手を引かれていく。若き大佐は、否とも諾とも言わずに敬礼して自分よりさらに年下の主君を見送った。

 

クラインゲルトは、巧みに木陰に隠れ、数十人にも及ぶ襲撃者たちを次々に撃ち倒していく。

ブリュンヒルトが早く離水しないかときどきその方向を見てしまう。

そんな彼を狙う襲撃者が放った光条が明後日の方向を向き、その直後に敵がいまわの際に放ったうめきが聞こえると思うと、最初にラインハルトを狙ったちょび髭の男が笑みを浮かべてほくそ笑んでいる。とにかくこの場は助けられたのだから、軽く黙礼するとちょび髭の男が好意的にも見える笑みで返す。

ブリュンヒルトが無事飛び立ったのを見たとき、若き大佐の額を光条が貫く。

「どうやら生きて提督の列に加わることはかなわないようです...すみません、閣下...。」

襲撃者たちは射撃の名手である帝国の若き士官に致命傷を負わせたはずだと思っていたが、正確無比な光条が襲ってくるように感じ、近づくことができなかった。激しく燃える枝が立ち尽くしている若き少佐の上に落ちかかった時、ようやく恐るべき射撃手が死んだことを確認したのだった。

 

「ニヒトはどうした?バグダッシュは?」

「二人とも行方不明です。」

「ふん、いずれ場所が知れる。」

「!!」

「なんだお前は?」

叫ぶ「総大司教」の前には、青みがかった黒髪の美女ゼフィーリア、ルパート、エリオットと呼ばれている若者が立っていた。

 




バグダッシュ、クラインゲルトを援護しつつ、機会を利用してたくみに姿をくらましました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。