Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第161話 刺客です。

「撃て!」

ラインハルトが命じ、横殴りの光条の雨に、同盟艦隊は被害をだしつつも退却していく。

「追撃して一隻残らずほふりますか?」

「その前に亜空間ソノブイを放出しろ。」

ラインハルトは、同盟艦隊の動きから暗黒物質を塗りたくった機雷と次元潜航艇が隠れているのではないかと推察し、その予想は的中した。

「亜空間に、敵艦反応。??」

「どうした?」

「敵亜空間潜航艇、ワープしました。ワープトレース追跡不能。」

「ランテマリオでも使われた暗黒機雷ですね。」

「そうだ。これは指向性ゼッフル粒子で焼き払うことは可能だが、敵艦隊は機雷を焼き払う前に砲撃し、さらにその直後にワープしようとしている。」

「なるほど...。」

 

ウランフの罠は、帝国軍の射程距離ぎりぎりにまで後退し、暗黒機雷をまいてそれを帝国軍が指向性ゼッフル粒子で焼き払う前に先手を打って機雷を爆発させ帝国軍に被害を与えつつワープで逃げるというものだった。指向性ゼッフル粒子が引火しやすいため、少数の艦艇の主砲でも引火できるうえに、逃げ遅れた艦艇も爆発の煙幕で逃げやすくなる。

 

ビューフォートは、ウルヴァシー上空に出現する。ウランフから伝えられた熱源反応のある場所に魚雷を発射する。

そのときだった。ノイエ・ハルスケッテが作動した。

「アルテミスの首飾り」の連携する戦闘衛星の機能のほかにその鏡面装甲を生かして敵を攻撃する反射衛星砲が熱と光の巨大な槍となって同盟軍を襲う。

 

しかし、ビューフォートは巧みにその鋭鋒を避けて熱源反応のある場所に魚雷を撃ちこむ。そうすると帝国軍基地から高射砲やミサイルが発射され、ワルキューレも発進される。ビューフォートは亜空間に逃げ込んで次の攻撃目標に向かう。

 

「閣下、基地が襲われています。」

「敵は亜空間潜航艦。こちらの砲撃タイミングの前に逃げるので、攻撃しきれません。」

「偵察衛星より報告。敵艦隊の背後にも暗黒機雷群。」

(なるほど背後に回っても攻撃できないというわけか...。)

 

ウランフは、

「敵がバカでなければ、背後から回っても攻撃不能なことは気づくはずだ。指向性ゼッフル粒子をまいたらこちらの思うつぼだからな。」

と盤古の艦橋でつぶやく。

「ころあいをみてワープで撤退する。あとはビューフォートに任せる。」

「了解。」

 

ラインハルトは正確にウランフの狙いを読み取った。同盟軍はワープして次々消え去っていく。

「わかった。これ以上の攻撃は無用だ。すでに敵はワープトレースを消して逃げ去った。」

 

ウルヴァシー上空の防空システムは、いったん稼働するとビューフォートの辣腕でも攻撃は困難になった。ラインハルトの艦隊からも亜空間SUMや亜空間爆雷が投下される。

「さすがローエングラム公だな。つけ込む隙がない。」

ビューフォートはつぶやく。

「本隊が退却したから任務終了だ。ワープせよ。」

「了解。」

 

帝国軍は後退し、ウルヴァシーに戻った。

「所属不明艦接近」

「停船せよ。しからざれば攻撃す!」

「こちら第99特殊部隊。ナイン少佐である。入港許可願いたい、」

「わが軍のハーメルン級駆逐艦です。」

「入港を許可せよ。」

 

「ナイン少佐です。ローエングラム公にお目にかかりたい。」

「なにゆえ、閣下に謁見を望むのか?」

「敵元首ヨブ・トリューニヒトの首をとったのだ。報告にあがりたい。」

 

「閣下、そのように申しております。謁見を許可しますか。」

「よろしい。敵は元首が襲撃され重態だと各メディアで放映している。情報統制を行っているのだろう。DNA検査で首改めを行えばわかることだ。」

総参謀長オーベルシュタインの目が光った。

「閣下、罠かもしれませぬ。」

「第99特殊部隊、ナイン少佐も実在しているのだろう?」

「はい...しかし、わたしは、怪しいと感じています。」

「怪しいと感じている?オーベルシュタイン、理性よりも感性を重視するとは卿らしくない発言だな。まあ、気を付けることにしよう。」

 

「閣下、これがヨブ・トリューニヒトの首でございます。」

「よし、軍医、首改めを行え。」

「はっ。」

軍医が動いた瞬間だった。

「ナイン少佐」がラインハルトに襲いかかる。

オーベルシュタインの義眼が光り、帝国軍の影の部隊があらわれるが、「ナイン少佐」は身軽に回転するように空中をとび、すべての攻撃を避けて、あっという間に斬り伏せてラインハルトに迫る。

「閣下!」

エミールが薬箱を投げつけ、「ナイン少佐」-ニヒト-はそれを避けるとともに、ラインハルトの首筋にナイフによる浅い切り傷をつける。血が傷口からにじむ。

「貴様」

ラインハルトを避ける射線から彼の部下たちはニヒトに対し、銃撃を行う。

しかし、つぎの瞬間、光条があたって数か所に焼け跡がついたからくり人形だけがその場にあった。

「ふっふっふ。金髪の孺子よ。おまえの首はいつでもとれるぞ。」

「そういうお前は、この間の...。」

「よく覚えていたな。ニヒトだよ。」

「お前は、わたしをみこんで殺さないという話ではなかったのか?」

「新たな依頼主が現れてねえ。まあこれからの宇宙の支配者を倒した方が面白いことになりそうだからねえ。」

そう言い残してニヒトは消えた。

 

しかし、これで終わりではなかった。

 

当日午後11時ころ、近侍のエミール・ゼッレ少年がレモネードを置いて退出し、図書室兼談話室にラインハルトが一人残る。

ウルヴァシー基地の様子がおかしいことに気が付いたのは。ミュラーとワーレン、フリードリヒ・フォン・クラインゲルトだった。

午後11時40分ころ、事情をきいたエミールが、緊張した面持ちであらわれる。

「どうした、エミール?」

「閣下、ミュラー提督、ワーレン提督、クラインゲルト大佐が至急お話があるそうです。お通ししてよろしいでしょうか?」

「閣下、至急出立の準備をなさってください。警備兵のようすがなにやら不穏です。」

ラインハルトは、ワーレンを一瞥して、読みかけの本を閉じて立ち上がる。エミールが上着を差し出す。

「ご苦労、ミュラー、何事が生じたのか?」

「出撃命令があるわけではないのに、基地内外に兵士たちの動きがものものしい様子です。演習だというのですが、そのような命令を出した将官はおりません。しかもヴィジホン、一切の通信機器が外部とつながらなくなっています。安全のため、ひとます総旗艦ブリュンヒルトに戻られるべきと愚考します。」

ラインハルトは、ミュラー、エミール、キスリングと親衛隊員とともに地上車に乗り込んだ。

「シュトライトは?、リュッケはどうした?」

ミュラーが沈痛な表情で答える。

「わかりません。閣下。私どもの置かれた状況すらわかりません。」

「だが、危険がということはわかっているわけか。」

ラインハルトが答えて、ミュラーが軽くうなづく。

そのとき装甲車のサーチライトが地上車を照らし、銃声と光条が地上車とその乗員をおそう。命中しなかった光条が地面に命中すると煙をあげている。

地上車の自動回避システムで直撃を免れるが、

ファンファン、ウーウーいいながら武装兵を乗せた装甲車が追いかけてくる。

「一個連隊はいそうですな。」

キスリングがつぶやいた。


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