Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
ワーレンは金髪の若き主君にひざまずき上申する。
「我々がこれまで集めた情報によりますと同盟軍は国内に84ヶ所の補給基地、物資集積所を設けております。わが軍が補給部隊を攻撃されたからには、目には目をもって応じ、彼らの補給基地を襲い、物資を強奪してきたいと存じます。」
「そうだな。ヤン艦隊は、我々のガンダルヴァとフェザーンからの補給線を監視していればよいが、われわれは同盟全域をみなければならない。しかし同盟の戦力がすべての基地を守れないのも事実だ。わかった。やってもらおう。」
「恐れ入ります。」
「人口が多くないが、家畜や農業がさかんなタッシリ星域をねらう。全艦タッシリ星域へ転針。」
「敵艦隊発見。タッシリ星域から3光秒、2時の方向7光秒。」
「なんだ?あれは?」
球形のコンテナが800個並んでいる後ろに護衛用艦艇が艦列を組んでいる。まるで女王蟻に仕える侍従のようににすら見える。
「凹形陣をとれ。敵を包囲殲滅し、物資を奪う。」
「御意」
一方同盟軍である。
「よし。停止。さて、我が艦隊の得意技だ。」
「なんです?それは?」
「宇宙一の練度を誇る我が艦隊こそ可能な技、逃げるふりだ。」
逃げるふりというのは、行軍を行う上で、練度が高くないと退却が崩壊につながる最も難易度の高い技術である。これが得意だった島津軍は、釣り野伏せで九州の覇者になり、関ヶ原の合戦では、島津の脱き口と称される退却を行った。
陣形を広げようとして、隊列が薄くなる。いかにもコンテナがじゃまだなあ、というつぶやき声さえ聞こえそうな感じで右往左往する。
「敵は、隊列を乱した。いまこそ好機だ。撃て!」
帝国軍が発砲する。
「よし、逃げろ。」
アッテンボローが命じて、ほうほうのていと言った感じで逃げ出す。
それがあまりにも真にせまっていたので、ムライ中将は、
「うちの艦隊は逃げる演技ばかりうまくなって...。」とぼやいたほどである。
ワーレンはだまされたものの、100%でないところがさすがにラインハルト麾下に名を連なる名将たち一角をしめる人物であることを証明する。
最初は、勢いに任せた追撃を黙認していたが、艦列が伸びきらぬうちに
「停止せよ。もうこれ以上敵を追っても意味がない。物資を強奪せよ。」
ワーレンはコンテナを艦列の中央にとりまくと、ガンダルヴァに向かおうとする。
同盟軍が追いすがってくる。
「コンテナを守りつつ後退せよ。」
ワーレンは旗艦サラマンドルを最後尾に配置して、逆激の態勢をとり、整然とした陣形と砲火を同盟軍にみまった。
ワーレンの攻勢に対し、アッテンボローは命じる。
「たじろいで、閉口したようにいったん後退しろ。敵艦隊とゼロ距離を保て。」
ワーレンにはその動きが、距離を保っておそろおそるついてくるように見える。
「未練がましいことだ。まあ、貴重な物資を奪われたのだから無理はないが...。」
とつぶやいたとき、悪寒が走った。
敵将アッテンボローの口元がゆるみ、つぶやきがもれる。
「そろそろだな...。」
「!!」
「コンテナから攻撃です。」
「なんだと!」
本来スパルタニアンに装備されていた機銃が自動射撃システムで光条を発し、帝国軍艦艇の装甲を貫き、切り裂いた。
「駆逐艦一隻大破!駆逐艦二隻、巡航艦三隻損傷!」
「コンテナの中に戦闘要員か...。われわれの物資ほしさを見透かしての小細工か...」
(まてよ...。)とワーレンは考える。
(あのペテン師のことだ。もし砲撃して爆発物だったら一巻の終わりだ。)
「ワルキューレを出せ。敵コンテナの機銃の位置を確認し、出力を絞って機銃のみを破壊するのだ。」
ワルキューレが出撃し、コンテナの機銃を破壊する。
しかし、ヤンのしかけた罠はどこまでも巧妙だった。
作戦会議の際に
「敵が砲撃してくれれば、もちろん爆発するが、ローエングラム公麾下の提督たちはそんな単純な思考をする人物は限られる。」
「ビッテンフェルト提督はもう亡くなっていますからね。」
ヤンはうなづき、
「もし爆発物かもしれないと用心した場合、自動射撃システムの機銃をとりはずすか、出力を絞って攻撃するだろう。それで起爆装置を作動させることにしてある。」
と語っていたとおりだった。コンテナ中の液体ヘリウムは爆発した。しかもその爆発は連鎖して、帝国軍をまきこんだ。
「くっ。慎重を期して射撃システムだけを破壊したはずなのに...してやられたわぁ。」
ワーレンはくやしがるが後の祭りだった。
帝国軍の艦艇は爆炎を噴きあげ、次々に火球にかわっていく。爆発破壊をまぬがれた艦でも艦列が乱れ、せめて、衝突を回避しようと帝国軍のオペレーターたちはコンソールと格闘するがそれを見逃す同盟軍ではなかった。
同盟軍の艦列からはなたれた数十万本のエネルギーの光条の豪雨が横殴りに帝国軍に襲いかかる。コンテナの爆発の火球が次々に生産され続けているうちに、今度は、横殴りの光の槍の豪雨に貫かれた艦艇が次々に火球に変わって輝き、漆黒のはずの宇宙空間を昼間のように照らす。その光芒は、そのまま帝国軍の悲鳴であり、血のしぶきだった。
「撤退だ。損害を減らすよう艦列を立て直せ。それから敵の動きを観察せよ。」
ワーレンは、全面壊走にならぬようかろうじて艦列を整え、敵がロフォーテン星域方面へ向かっていることを確認した。
アッテンボローからの報告を受け、スクリーンからは、部下たちの熱狂的な叫びが聞こえてくる。
「ローエングラム公の怒りと矜持もそろそろ臨界点に達するだろう。物資も長期戦をささえるほどの量はない。近日中に全軍をあげて大攻勢をしかけてくるはずだ。おそらくこれまでにない苛烈な意思と壮大な戦法をもって...。」
周囲の将兵の驚いたような表情と視線が自分に向いていることに気づき、ヤンは頭をかいた。どうやら心の中で語るはずの言葉が無意識に口をついて出てしまったようだった。