Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第157話 ライガール・トリプラ星域会戦です(後編)。

「敵、つっこんできます。」

「なんだと!!」

不承不承後退しているように見えた第14艦隊は、凸形陣の先端をきりのように編成して猛烈な斉射を行ってきた。

 

「と、突破されました。」

「敵展開します。」

「なんという迅速な展開だ。」

 

「撃て!」

みほの命令一下、第14艦隊は、ヤン艦隊ゆずりの一点集中砲火をおもうさまシュタインメッツ艦隊に浴びせる。集中砲火のクロスファイアポイントが移動し絨毯爆撃のように帝国艦隊を襲った。第14艦隊の艦列が半球状に帝国軍をブラックホールの事象の地平線内部、脱出不能な危険地帯に追い込み、次々火球に変えていく。

「みほさん、西住流みたいですね。」

華がほほえむと、みほも苦笑いする。

 

さてラインハルトの大本営である。

「シュタインメッツ艦隊が敵を補足したそうです。」

「どこだ。」

「ライガール星系から15光年、トリプラ星系から15光年の位置です。」

「そこには何がある?」

「ブラックホールがあります。」

ラインハルトは敵の取るべき戦法をその天才で即座に見破った。

「至急、援軍を向かわせろ。」

「だれを向かわせますか?」

「先般のイゼルローン攻防戦で、レンネンカンプが失策をおかしたときいている。彼に名誉回復の機会を与える。単純な挟撃戦で敵を葬るチャンスだ。」

「御意。」

 

「レンネンカンプ提督。」

「はっ。」

「卿に名誉回復と復仇の機会を与える。ライガール-トリプラ間を徘徊している敵をシュタインメッツとともに捕捉撃滅せよ。」

「はっ。」

 

「みぽりん、後背に敵艦隊だよ。挟み撃ちにされちゃうかも。」

「後背というとどのくらいの距離なの、計算してくれる?」

「だいたい3時間前後?」

みほは、いっかいうなづき、

「じゃあ、2時間で敵をたたいて、1時間で逃げましょう。」

「了解。」

 

前方からは第14艦隊の砲撃、後方にブラックホールで帝国軍はにっちもさっちもいかない。

「た、たすけてくれ!引きずり込まれる!」

帝国軍の通信回線は悲鳴であふれた。すさまじい潮汐力が、鋼鉄の戦艦をガムのようねじって引き裂いていく。

 

「全艦、双曲線軌道にのって脱出せよ。ブラックホールの引力を逆用し船の推力にまさる速度をえて、脱出するのだ。」

「敵の放火のまっただ中になります。」

「このまま座して死を待つよりましだ。復唱は?」

「はっ。全艦、ブラックホールの双曲線軌道を計算せよ。スウィング・バイで、ブラックホールから脱出する。」

 

帝国艦隊がなりふりかまわず双曲線軌道を使って脱出を試みる。

「なかなか大胆な作戦ですね。」

優花里がつぶやく。

「ブラックホールを使ったスウィング・バイ?」

「うん。でも生き残るにはそれしか手がないと思う。やはり、ラインハルトさんの部下はすごいなぁ。」

「ただでは負けない?」

沙織以外のロフィフォルメの艦橋メンバーはうなづく。

「ねえ、スウィング・バイってなあに?」

「武部殿、それは....。」

「長い。沙織、要するに...。」

なんとなくわかってなさそうな沙織に、みほが図を指さして説明する。

「沙織さん、ブラックホールの引力を利用して、スピードをつけてこのように逃げるってこと。」

「へええ、すごいねえ。」

「アメリカの探査機ボイジャーが木星や土星を探査した時も惑星の引力で、日本の小惑星探査機「はやぶさ」は、地球の引力でスウィング・バイして加速した?」

「なるほど...。」

 

さて、シュタインメッツ艦隊は、半数をブラックホールに飲み込まれて喪い、残り半数のうち6割を第14艦隊の砲撃で失った。なんとか脱出できたのは、全体の2割という惨々たる有様だった。

 

「みぽりん、うしろの敵艦隊の司令官がわかったよ。」

「誰ですか?」

「ヘルムート・レンネンカンプ大将だって。」

 

「レンネンカンプ提督ですか...。」

みほは、優花里、エリコと顔を見合わせる

「先般、ヤン提督とアッテンボロー提督の作戦でイゼルローン回廊で罠にはまっています。」

「あの手を使う?」

エリコがほほえむ。

「そうですね。」

みほがほほえみながら答えた。

 

ラインハルトの元帥府では...

「ライガール-トリプラの敵艦隊の指揮官が判明しました。」

「誰だ?ヤン・ウェンリーではないのか?」

「いえ...例の小娘のようです。シュタインメッツ艦隊からの報告です。」

「逸見准将を呼べ。」

「はっ。」

 

「逸見准将。小娘は、ライガール-トリプラ両星系の中間地帯にいるということだ。出撃するか?」

「はい。」

「しかし、間に合わないかもしれぬ。そのときは敵の罠におちいらぬよう、ただちに帰還するのだ。」

「御意。」

ラインハルトはうなづき、

「命令だ。逸見准将、直ちにライガール-トリプラ両星系へ向かい、レンネンカンプ、シュタインメッツ両提督を救援せよ。ただし、もし救援に間に合わない場合はただちに帰還せよ。」

「はっ。」

 

 

「閣下、敵艦隊捕捉しました。」

「旗艦は...シュタインメッツ艦隊からの連絡通りアンコウ型....小娘の艦隊です。」

みほは、帝国軍に「(小賢しい)小娘」「栗色の髪の小娘」と呼ばれている。

「どうせなら、黒髪のモグラのほうを相手にしたかったが...。」

「提督...あの小娘は油断なりませんぞ。現にイゼルローンでペテン師と協同作戦をしてケンプ提督が亡くなり、ミュラー提督が重傷を負っています。」

 

「!!」

「その後ろにヒューベリオンを確認。」

「小娘にペテン師か...。」

 

「敵が射程に入る前に、主砲を三連斉射してください。それからライガール星域方面に逃げますが、ゆっくりと逃げてください。鬼さんこちら作戦2です。」

同盟軍は突き進んでくる帝国軍に押されるように後退を続ける。

 

レンネンカンプの胸中にはヤンの旗艦が見えたことで、イゼルローンで敵を追いかけようとして逆撃をくらった記憶がよみがえる。

「...。」

(今度は、何をたくらんでいるやら...。)

「罠の可能性がある。全艦、0.2光秒後退せよ。」

 

「なんだ?なんだ?後退だって?」

「だからなんでも罠の可能性があるって話だ。」

「相手は、叛乱軍のペテン師ヤン・ウェンリーだから油断ならないらしい。」

「しかたないな...つまらないことで死にたくないし。」

「用心にこしたことはないしな。」

帝国軍は不承不承といったかんじでゆるゆると後退しはじめる。

 

「帝国軍、後退を開始しました。」

「いまです。撃て!」

第14艦隊からの光条の槍の豪雨が横殴りに帝国軍に降り注ぎ、突き刺ささる。

「なんだ?なんだ?」

帝国軍艦艇は引き裂かれ、爆発光がきらめき僚艦の乗組員の目を灼く。爆発光は煙のかたまりとなり、金属の破片をまき散らした。

帝国軍は後退から、被害を出しながら逃走に移った。

「攻撃しつつ後退してください。」

第14艦隊は火力を減殺させずに巧みに後退していく。

「4光秒まで後退。陣形を再編せよ。」

シュタインメッツがこのように命じ、ようやくおちつきをとりもどして陣形を再編した時には、第14艦隊の姿は消え去っていた。


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