Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
ヤンは、ぼやく。
「あれだけの物資の補給船団をやられたんだ。ローエングラム公はだまってはいまい。なんらかの手を打ってくるはずだ。しかし、勝てば勝つほどより強い、優れた敵が出てくるのか...。だんだん高額な借金をして高い利子がついてくるみたいでばからしくなってくるな。」
「いよいよぼやきのユースフ二世ですね。」
「!?」
「どうかしましたか。」
「いや、ユリアン、どうしてここにいるんだ?」
「どうしてって言われても...。」
「お前、辞令出ていないだろう。」
「でも任地は帝国軍に占領されていて脱出しなければならなかったんですが...。」
「そうか...少佐と相談するか...。」
「はい。」
「グリーンヒル少佐、ユリアンの人事だが。」
「はい、実はわたしもハイネセンを出てから気が付きまして至急長官に連絡をとりました。ミンツ中尉は、フェザーンで入手した情報をヤン元帥の戦略決定の資料として提供すべき義務があるので、第13艦隊に出向を命じる、以後の異動については、あらためてハイネセンで命じる、ということでご承諾いただきました。」
「....。」
「中尉への昇進辞令はさすがに電子文書というわけにはいきませんが、今回は本来の駐在地が失われたのでやむをえない措置です。」
ヤンが口びるを動かすものの、言葉を発しないのでフレデリカはいぶかってたずねる。
「...? ユリアンが戻ってきて嬉しくないのですか?」
「いや、うれしいとか、うれしくないとかということじゃなくて...。」
ヤンは、もごもごとつぶやいていたが、戦術戦略ならともなく、人事やデスクワークは得意ではない。今更正論を唱えたところであまり意味がないと考えると、頭を切り替える。
「さて、少佐、次なる敵襲についての索敵網の構築だ。う~ん、それともいっそ敵を挑発してみるか。うん、将官クラスを集めてくれ。」
会議室に集まったのは、シェーンコップ、フィッシャー、アッテンボロー、みほ、キャゼルヌ、杏である。
「これから帝国軍は、攻勢をかけてくるだろう。補給物資の確保、それとも掠奪、われわれを索敵しての直接攻撃...いくつも考えられるが...。」
「あの...ちょっとかわいそうかもしれませんが.....。」
ヤンがうながすとみほは答える。
「ライガール・トリプラ星系の中間にブラックホールがあります。シュワルツシルト半径は9キロほど。危険宙域の半径は3200光秒。およそ9.6億キロです。」
「なるほど...。」
「ガンダルヴァからは、いくつかの星系の補給基地をねらってくる可能性があるね、タッシリ星域、イジリ星域、カダメス星域、テガーザ星域、シンゲッティ星域、ウワラタ星域...。」
「イジリ、テガーザは塩鉱のほか軍事上貴重な物資に転用できる鉱石が多い。占領をねらってきてもおかしくない。」
キャゼルヌが話す。
「それから、半砂漠化が進んでいるところは、古代壁画があり、奇岩が連なり、観光地であるとともに家畜を多く飼っていて、食糧豊富なタッシリ星域もみのがせないだろう。」
「カダメス、シンゲッティ、ウワラタは交易の結節点。経済的に豊かで、進取の気性があり、人口が多く、情報が流れやすいから占領支配には向かない。帝国軍が過疎地であるガンダルヴァを拠点にしたのは、支配した場合に不満や反乱が起こりにくいからだな。」
「うん。イジリ、テガーザ、タッシリ星域付近に索敵網を張り巡らせる。おそらく撤退の擬態ができる方がいいだろう。ここの艦隊指揮は、アッテンボロー中将に任せる。」
「それから西住大将、提案したようにライガール・トリプラ星系周辺に索敵網をはり、帝国軍が現れたら、ブラックホールへ誘引してたたいてくれ。敵の予想される攻撃パターンについてあらかじめ作戦案を考えてみたが、ミズキ中佐と検討を加えてもらってもいい。」
「角谷中将」
杏はほしいもをかじりながら答える。「は~い。」
ヤン艦隊以外なら許されないだろう。
「もし、敵が二個艦隊を繰り出してきた場合に備えた索敵網を構築してほしい。そしていずれかの艦隊が攻撃された場合、わたしとともに救援をお願いしたい。」
「わかった~」
「それでは、解散。」
3月1日のことだった。
「シュタインメッツ閣下。索敵網に敵艦隊捕捉。」
「位置はどこだ。」
「ライガール星系から15光年、トリプラ星系から15光年の位置です。敵艦隊の至近距離にブラックホールがあります。シュワルツシルト半径は9キロほどですが、中心核の質量は、6京トンの100億倍。危険宙域の半径は3200光秒、キロに換算すると、およそ9.6億キロです。」
「10億キロ以内には接近しないようにせねばならんな。」
「どうやら旗艦の形状はアンコウ型。栗色の髪の小娘の艦隊と思われます。ブラックホールから10億キロぎりぎりに展開しています。」
「とにかく接近してたたかねばならん。」
「了解。」
「敵は、凸形陣を編成しつつあります。」
「やつらはブラックホールを後背に布陣しているということか。」
「後背に危険地帯をひかえることにより、こちらからの攻撃手段の選択幅を限定することができます。そのことでこちらの動きの意図を把握しやすくなるということでしょう。後背へ回り込めないのですから。」
参謀長のナイセバッハが答える。シュタインメッツはうなづき、
「全艦、凹形陣を編成し、敵を半包囲せよ。こしゃくなアンコウを海から陸にあげて、びくに放り込んでやるのだ。」
「了解。」
「MN2回路を開いてください。射程距離になったら鬼さんこちら作戦です。」
「みほりん、距離20光秒。射程距離になったよ。」
みほは、うなづき、
「全艦、撃て!」
と命じた。
「撃て!」
帝国軍旗艦フォンケルの艦橋でもシュタインメッツの手が振り下ろされる。
「微速前進。このプログラムで包囲網をより精緻に構築するのだ。蟻の這い出す隙間もないように。両翼を展開せよ。」
「麻子さん、おいつきそうだけどおいつかれないように後退させてください。」
「わかった。」
スクリーンに映し出されたシュタインメッツの艦隊をみて優花里が感心したように話す。
「さすがですね。蟻のはいでる隙間もないような陣形です。」
「よく計算されている陣形?。」
エリコが感想を述べる。
みほはかるくうなづく。
「なんか虫取り網でわたしたちをつかまえようとしているみたい。」
沙織がつぶやくと、
「沙織さん、MN3回路を開くようにつたえてください。穴あけ作戦です。」
「了解。」
みほは、後退しつつも、凸形陣の先端をきりのように編成していく。
「撃て!」
第14艦隊は、猛烈な斉射を行いつつ突進していった。