Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第155話 補給艦隊襲撃です。

帝国軍は、同盟領征服の実を確固とするために、まず3000光年近い航路を支配しつつ補給を確保しなければならなかった。それには、2000万人にのぼる兵力を維持する食料のほか、武器弾薬、兵器プラント、植物工場、各種資材、液体水素などのタンクとして、ニッケル隕石を利用した巨大な球形コンテナ240個を推進ユニットをつけて運んでいく必要がある。その任にあてられているのは、800隻ほどのの巡航艦と護衛艦であった。

 

ヤンは、会議室に将官をあつめる。みほと杏に指示をする。

「帝国軍は、フェザーンから2000万人の将兵のための食糧と艦隊を維持するための弾薬などの物資を運ばなければならない。その長大な補給線こそが急所となる。よって帝国軍の撤退という目的を果たすためには、その補給を維持させないことが目標となる。よって、トータス特務艦隊、第14艦隊、第13艦隊を帝国軍が中継に使う可能性が高い星域、そして発見したらすぐに攻撃できる位置に配置する。」

 

「トゥール・ポワティエ星域、ムナイドラ星域、タルシーン星域、メッシナ星域に分散配置、そして敵を発見次第、急行する。偵察衛星、監視衛星はこのように配置。」

「「了解」」

かっての第6次イゼルローン攻防戦でヤンがラインハルトの側面逆進背面展開を見破ったときにみせた精緻な水も漏らさぬ監視網であった。しかも3万隻という兵力を使っている。

 

一方、帝国軍は、ニューイヤーパーティにもみられた功をあせる若手将校のうち一人、ゾンバルト少将が補給部隊を守る任務に手を挙げた。どんな地味な任務でも自分を売り込みたいというわけであった。

「卿が補給部隊を守る任務に就きたいというのは分かったが、敵には、先般のランテマリオで、痛撃をあたえたとはいっても、確認されただけでも総数5万隻以上の戦力を有している。しかもヤン・ウェンリーとあの小娘、ミホ・ニシズミの恐ろしさをよく認識することだ。敵はかならず補給を狙ってくる。常に本隊との連携を絶やさず、危険を感じたら直ちに救援を求めることだ。」

「もし失敗したら、この不肖な命を閣下に差し出し、もって全軍の綱紀を糺す材料としていただきます。どうかご安心を。」

その高言に、ミッターマイヤーやロイエンタールらの眉をしかめた。ミッターマイヤーは、「閣下、補給は生命線です。2000万将兵の1年分の食料と弾薬、プラントが失われると大きな打撃です。戦功などあとでいくらでもたてられますが、補給が失われれば、敵の先年のアムリッツアの醜態を再現することになりかねません。彼はまだ若い。ここは、わたしにおまかせを。」

ラインハルトは豪奢な金髪をゆらして

「たしかに補給は重要だ。しかし、ここで疾風ウォルフを補給維持のために投入したとあれば、物笑いの種となろう。ここは、若手を育成する意味もある。いまは控えよ、ミッターマイヤー。」

「御意。」

「ゾンバルト、高言するからには責任をとれ。」

「はっ。」

ゾンバルトは、自信満々に敬礼し、出撃した。

 

ゾンバルトの補給部隊は、あっさりヤンの索敵網に捕えられる。

「シラクサ星域にて帝国軍艦隊発見。繰り返す。シラクサ星域にて帝国軍艦隊800隻、補給プラントの護衛のもよう。」

「了解。現地へ急行。」

 

「6時、8時、2時の方向に多数のワープアウト反応。」

「6時に数2000、8時に数2000、2時に数2000。」

「!!」

「艦種識別。叛乱軍。」

「て、敵だ。」

 

「桃ちゃん、あれが敵旗艦だよ。狙って。」

「桃ちゃん、言うな。」

「かーしま、撃てばあたるから慎重にね~。」

「はい、会長わかってます。」

 

帝国軍艦艇とコンテナは、6000隻の十字砲火を浴びて爆発し、たちまちのうちにいくつもの火球に変わっていく。しかし、桃が狙ったはずのゾンバルトの旗艦には全く当たらなかった。ゾンバルトは、真っ青になり逃げまわった。戦死を免れて胸をなでおろしたときには、補給プラントすべて破壊されており、再び背筋に冷や汗が流れる。

 

「まあ、ここまでやれば十分だね~。プラントは全部破壊したし。」

杏は、あいかわらず干しいもをかじっている。柚子が同意する。

「旗艦は沈んでませんが、指揮系統は寸断されています。充分だと思います。」

「じゃあ、全艦ワープだよ~。」

「了解。」

 

「ゾンバルトからの定時連絡はどうか?」

「1時間前の連絡がなく、すでに30分経っています。」

「トゥルナイゼン中将、最後の定時連絡は2時間半前のシラクサ星域だったな。」

「御意。」

「ただちに現地に急行し、戦況を把握せよ。敵が撃滅可能か判断し、困難ならば援軍要請を許可する。もう間に合わないかもしれんがな...。」

「はっ。」

 

トゥルナイゼンが急行した時にはすでに、コンテナは残骸になっており、護衛艦は30隻にまで撃ち減らされて主人にはぐれた犬のように戦場をうろうろしている。同盟軍の姿はすでにない。

 

「トゥルナイゼン閣下...。」

トゥルナイゼンとゾンバルトは、スクリーンに映った相手の顔に憂いの色が浮んでいるのを見ることになった。トゥルナイゼンは珍しく重くなった口を開く。

「ゾンバルト...おって、元帥閣下の措置を待つことだ。卿にとって好ましいものとなるとは限らないが...」

「はっ...。」

 

「ゾンバルト、卿は失敗した。補給路を狙うのは敵としては当然の戦法だ。わざわざその点を注意したにもかかわらず、また高言にもかかわらず、油断から貴重な物資を損なうとは弁解の余地なし。自らを裁け。」

ゾンバルトは、毒酒による自裁を命じられたのだった。提督たちは粛然とした。本来なら性格上助命を嘆願する提督たち、たとえばミッターマイヤーも弁護しなかったのは、ここで弁護すれば軍律のけじめがつかないからで、非情なようだがやむを得ないからであった。

 

「これまで確たる方針をたてずにいた私にも責任があるのは否めない。しかし、一時的な侵攻と寇掠をこととするならともかく、征服を恒久的なものにするには、慎重を期さねばならない。すなわち、敵の組織的な武力はこれを徹底的に覆滅しなければならない。」

(一戦ごとに補給地と集結地を変えるというのだな。さがしだして叩き潰してやる。)

ラインハルトはその天才でヤンの戦術を見破る。自分が同じような状況で寡兵を率いる場合は同じようにするだろう。

「シュタインメッツ提督。卿の艦隊で、狡猾な黒髪のモグラをたたきつぶせ。」

「はっ。」

シュタインメッツは、出撃すると、まず索敵の網を張り巡らせた。


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