Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

155 / 181
「どなたですか。」
みほは気配を感じて声をかける。
「さすがだな。」
「あなたは...。」
「帝国軍にあんたの姉のような人物がいることは知っているか。」
「はい。」
「あれは、作り物さ。」
みほは、思わず瞠目する。
「驚いたか。これを見ろよ。」
小型映写機から驚くべき画像が映し出される。
なんとⅣ号とティーガーⅠが破損して煙をたゆらせている。砲塔に赤い縁取りに白い212...どう考えても姉のティーガーⅠだ。その少し上空に孔が開く。孔からは、華麗な装飾を施した大鎌をもった清楚なワンピースのドレスをまとった青みがかった美しいワンレングスの黒髪の女が現れた。その女は、まほの濃いこげ茶の髪を集めて、再びその孔に入って姿を隠して消える。
それから銀色の無機質の壁にあいた部屋へ行き、みたこともない装置にその黒髪を入れるとまほがつくられていくのだ。
「遺伝情報で、17歳現在の姿が再現されていったらしい。」
「こ、こんなこと...ひどい...。」
「帝国軍には、お前の姉にべったりだった銀髪の女がいるだろう、」
「はい。」
「あの女に伝えてやれよ。」
「あの....あなたは...。」
「俺か? 俺は、「名も無き者」だ。」

さて、宇宙暦799年、帝国暦490年2月上旬、同盟領ランテマリオ星域である。
「エリカさん。」
「なに...。」
「あの...この世界にいるお姉ちゃんは、お姉ちゃんではないんです。あなたのようにこの世界に飛ばされたんじゃないんです。」
「なに言ってるの?わたしを動揺させるつもり?」
エリカはあざけるように言い返す。
「その手には乗らないわ。わたしは、以前と違ってそんな挑発には乗らない。でもあなたは絶対に許さない。」
エリカはひるまずに同盟軍に攻撃を加えて、トータス特務艦隊に後背を襲われながらも戦果を挙げていた。しかし、みほとヤンの攻撃で疲労の極にある帝国軍は動揺しはじめていた。

※読者とゼフィーリア、一部の地球教徒しか知らない第44話で起こった出来事が登場人物たちに公に明かされた。



第154話 青みがかった黒髪の美女と「名も無き者」再び蠢動です。

さてランテマリオ会戦が終わって数週間たった二月末、オスカー・フォン・ロイエンタール上級大将と、ヘルムート・レンネンカンプ大将が惑星ウルヴァシーに到着する。イゼルローンには、コルネリアス・ルッツ大将が残留している。

ラインハルトは、惑星ウルヴァシーに軍事拠点の建設をすすめる一方、軍の最高幹部たちを集めて、中期的な戦略の立案と決定を行っていた。

惑星ウルヴァシーの衛星軌道上には、総旗艦ブリュンヒルトが浮かんでいる。作戦会議には、帝国軍の最高幹部たちが顔をそろえ、ミッターマイヤーとロイエンタールも握手して再会を祝しあった。

中期的な戦略については、第一案として、まず全力を挙げて、敵同盟の首都星ハイネセンを制圧するか、もう一案として、他の星系を制圧して、首都星の孤立を図って、征服を確固たるものにするかという二案が出されていた。

 

多くの場合、ラインハルトは、会議に先立って自らの決断を胸におさめているのだが、このときは白紙状態であり、どことなく気の乗らない様子で、諸提督の意見を聞いているだけという彼らしくない状況であった。

「ここに至っては逡巡する必要はいささかもない。一挙に敵の首都を撃って征服の実を挙げるべきである。そのためにこそ一万数千光年の征旅をおこなったのではないか。」

「ここにいったたからこそ短兵急な行動は避けるべきである。先日のランテマリオ会戦では相手を圧倒したとはいえ、まだ敵はあなどりがたい力をもっている。同盟領は広大であり、首都を制圧したところで、同盟自体が瓦解するとは思えない。はるか昔のナポレオンは、敵の首都であるモスクワに至ったものの、もぬけの空で、遠大な補給線の維持と冬将軍に苦しんだ。最近で言えば同盟のアムリッツアの二の舞になる可能性が否めない。」

「首都を抑えたところで、地方叛乱の頻発で手を焼くことを考えたら、周辺星域を制圧して、首都の権力者どもを物心両面から追い詰めて奴らの方から和を乞わせるべきだ。」

「敵の首都を一気に制圧した場合、敵の情報網及びその中枢を抑えることができるし、権力者どもを従わせればほかの星系はいいなりになるしかない。また、周辺星系を抑えても敵首都の権力者どもにはひとごとだ。かってのゴールデンバウム王家や貴族どもにとってそうであったように。首都にある政府関係の建物を破壊して脅しをかければ、権力者どももわが帝国の威光に従わざるを得ない。」

活発な議論が交わされたものの、結論は出ず、会議は閉じられた。ラインハルトは食欲がなく、夕食も味覚が鈍っている感じであった。翌朝、ラインハルトは起き上がれず、身体の不調を訴える上司に、様子がおかしいことに気が付いたキスリングは医師を呼び、38度を超える高熱を発していることが判明した。医師の診察の結果は過労ということだった。思えば以前寝込んだ日から7年間、ラインハルトは走り続けてきたのである。彼自身の判断を要する政戦両略の仕事がいつもかたわらにあって、つねに高みを目指してきた。

 

ラインハルトは、久しぶりに十分な睡眠をとり、姉と赤毛の親友ジークフリード・キルヒアイスの夢を見た。姉はオニオン・パイ、ケルシーのケーキを焼いてくれている。子どものころと副官だったころと上級大将になったころのキルヒアイスが走馬灯にように現れ、笑みを浮かべている。ラインハルトはなつかしさとともにぐちをこぼしてしまう。

「お前が生きていてくれたら、こんな苦労をしないですむのだ。お前に遠征軍の総指揮をとってもらって、内政に専念するか、その逆に政務と補給をお前にゆだねて、外征に専念するかどちらかにできるのに...。」

 

「どうかしましたか、閣下」

「ああ、逸見准将か...。なんでもない。」

「閣下、熱がありそうです。汗もにじんでおられます。」

「わかった。そこのエミールに汗をふくよう、それから替えの下着をもってくるよう伝えてくれ。」

「はい。」

エミールは、エリカが心にうずまく思いと何らかの決心、しかもランハルトだからこそ理解してもらえるだろう思いを金髪の若者に伝えたいために来たのを察して、替えの下着をわたして引き下がった。

「!!」

「どういうつもりだ。こんなことで昇進を有利にするわたしではないのは知っているだろう。」

エリカが背をぬぐい、替えの下着をていねいにおく。

「はい。」

「たしかに今回の会戦では、評価すべき戦果を挙げたのは確かだが、完勝にまで至らず残念だったな。」

「いえ...閣下。西住みほ...あの栗色の髪の小娘は、わたしの尊敬する隊長を偽物と言ってきました。隊長の妹にもかかわらず肉親の情がない。」

「あなたが以前の世界であの娘との因縁があったのはわかるが、そのようなことを言うな。ただ、あの娘は、わたしとあなたから今回完勝の手をはねのけたのだったな。わたしが、ヤン・ウェンリーに感じていることをあなたはあの小娘に感じているのか...。」

「はい、自分でもよくわからないのですが、この悔しい気持ちはそうなのかもしれません。わたしは、一層励むつもりですが、かなわなかったときには閣下に必ずあの娘を斃していただきたい...。」

「わかった。しかし、逸見准将、わたしがあの娘を麾下に招きたいと言ったらあなたは怒るだろう。」

「はい。」

「わたしは、優秀な人材を招きたいと常々思っている。しかし、メルカッツを招くことがかなわなかったようにあの娘はこちらにこないような気がするな...。」

「...。」

「あなたがあの娘を斃すことがかなわなかったら、わたしが斃そう。あの娘は、キルヒアイスがわたしの半身だったように、ヤン・ウェンリーにとっての半身に思えてならない。だから案ずるな。わたしは、半身のようだった友人からも運をもらっている。彼は、生命も未来もわたしにくれたのだ。わたしは、二人分の運を背負っている。誰にも負けはせぬ。」

ラインハルトは遠征軍2000万将兵と帝国人民250億に責任を負っている。善政を行い、遠征においては、的確な指揮で戦果を挙げて勝利し、戦いが終わったらなるべく多くの将兵たちを家族のもとに帰してやらなければならない。しかし、今は、自分と同じ複雑な思いを抱えている少女を安心させる必要があると金髪の若者は強く感じていた。

 

 

 




2月14日...
「ヤン提督、買い物ですか。」
「ああ、ミス・ニシズミにもらったのでね。お返しをと...。」
「!!」
「どうした?ユリアン?」
「あの、このボコショップの店主さん...。」
ユリアンはデグスビイにもらったゼフィーリアの写真を見せる。
「たしかに...よく似てるな...。」
「2年前にも、イゼルローンにボコショップがあって(※第45話参照)、去年は、ミス・ニシズミと背景にして写真をとりましたよね。」
「ああ、あとで探してみるか...。」
そして二人はその写真を確認して、あっけにとられざるを得なかった。
あの女、青みがかった黒髪の美女ゼフィーリアと瓜二つの女性店主が写っていたのだ...

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。