Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
さて、ユリアンは、フェザーン駐在弁務官ヘンスローの身を守って、敵地となったフェザーンから無事脱出に成功したことから中尉に昇進した。ヤンは、ユリアンを『
「さあ、ミンツ中尉、貴官の武勇伝をうかがいますかな。」
「からかわないでください。」
ユリアンは、フェザーンでの出来事を語り始めた。
「なるほど...ミズキ中佐は、そら恐ろしいな。」
「ミス・ニシズミとメルカッツ提督も一枚かんでおられるようですよ。」
「いや、いまの同盟の状況で、わたしの望んでいることを最大限実現したというのは凄いことなんだ。一指揮官であるわたしの力ではにっちもさっちもいかないことを彼女はソフトウェアの操作で実現してしまった。」
「ところで、提督」
「なんだい?」
「イゼルローン要塞を敵の手にお返しになったでしょう。なにかお考えあってのことと思いますが教えていただきますか。」
「ふむ、特許を申請しようかな。」
ユリアンがあきれたふうだったので、
「すまん、ただ罠をしかけたのさ。まず低周波爆弾を要塞各所に簡単には見つからないがよく探せばわかるようにしかけて、実際のところは...ごにょごにょ」
それを聞いたユリアンはいっそうあきれたように肩をすくめる。
「それは、ほとんどペテンですね。成功したら帝国軍はさぞ腹がたつだろうなぁ...。お人がわるいですよ。」
「結構最高の賛辞だ。これを知っているのはシェーンコップ少将とグリーンヒル少佐だけ。お前で3人目だ。役に立たないにこしたことはないが、必要になるかもしれないから憶えておいてくれ。」
ユリアンは喜んで承知したが、旅の収穫を問われて思い出した。
「地球教の司教デグスビィに会いました。もっとも本人は聖職者ではなく背教者だと言っていましたが。」
「ほう、そんなに卑下する理由がなにかあるのかな。」
「ヘンスロー弁務官と同様にルビンスキーの息子で補佐官であるルパートに酒と麻薬と女性をあてがわれて、あともどりできないように弱みを握られていたようです。ルビンスキーとルパートは暗闘していたようで、信じられないことですが、ゼフィーリアという大鎌をもって瞬間移動できる女性やニヒトという大昔東洋の国の忍者のようにどこへでも侵入できる人物がからんでいたそうです。また、一説によるとミス・ニシズミやチームあんこう、トータス特務艦隊の人たち、帝国軍のイツミ・エリカ准将、ミス・ニシズミのお姉さんと考えられるニシズミ・マホ中将が時空を超えて過去からきたのは地球教の特定グループの技術開発によるものだということのようです。」
「そういうことだったのか...。フェザーンの裏になにか論理的でないもの、影のようなものを感じていたが、ようやくピースがそろったよ。ユリアン、ありがとう。」
「なんとかミス・ニシズミをはじめとする皆さんを過去へ戻してあげたいですね。」
「そうだな...しかし、どうすれば地球教の連中にそれをさせられるのかな。」
「地球教も総大主教派と反総大主教派にわかれ、過去からの時空転移技術を開発した反総大主教派についたゼフィーリアが前の総大主教を斃したそうですが、実は恐ろしいことを聞きました。」
「それは、何だ?」
「実は、新総大主教の正体が...フォーク准将、なのではないかと...。」
「なんだって!!」
さすがのヤンも驚く。
「正確にいえば、ゼフィーリアが総大主教を斃した時に、実は総大主教の人格の半分は地球教が始まって以来から受け継がれてきたものであることが判明し、新たな総大主教を創るためにフォーク准将の脳にスキャンをかけて人格を総大主教と融合させたということのようです。つまりフォーク准将の身体が総大主教の依代として利用されているということのようです。」
「どうして、その主教はそこまで話したんだろう。」
「もう自分は地球教の主教には戻れない、精神も身体もぼろぼろで、永くはない。死に場所を探しているがその前に地球教とフェザーンによどむ膿をすべて吐き出してから死ぬ、自分が生きていたという証にしたいと言っていました。若い君はなにか人を信用させるものがあると。そしてすべての事象の水源は地球と地球教にある、過去と現在の裏面を知りたかったら地球を探れと...」
「地球にすべてがね...。」
「また彼はこうもいいました。地球に対する恩義と負債を人類は忘れてはならないのだと。」
「それは正論だが、正しい認識が正しい行動を生み出すとは限らない好例だろうね。」
ヤンはそう言ってから、紀元前七千年から文明は始まったが、それから地球上で政治経済の中心は地球上でも移動した、宇宙暦ができて800年近い、いまさら地球というゆりかごにもどることはできない、それを陰謀によって行おうというのは悪質な反動でしかないと締めくくった。
「しかし、だからといって有効な打つ手がない。」
「では、地球のことは放っておくのですか?」
「そうもいくまい。うん、バグダッシュに調査させよう。あの男は戦闘そのものよりもその手のことが得意だろうからな。さしあたり、ハイネセンにいる元フェザーン弁務官事務所の連中と接触させる。あとは彼の才覚で毒蛇のしっぽくらいはつかんでくれるだろう。」
「バグダッシュ大佐ですか...。」
ユリアンの口調には控えめな不同意が含まれていたが
「ほかに人がいない。それにユリアン。」
「はい。」
「バグダッシュと対決したことがあったろう。」
「はい。」
「シェーンコップは褒めていたが、あのまま戦い続けていたらまちがいなくユリアンは殺されていた。彼は諜報員として修羅場をくぐってきた。ましてやフェザーンや地球教には、お前も知っての通り凄腕がいるんだろう。」
「はい...。わかりました。」
ユリアンの口調にはやや悔しさが含まれていた。
「ところでユリアン。」
「はい。」
「ローエングラム公を斃せば、帝国軍は空中分解するだろうから自由惑星同盟にとっては有益だろう。しかし人類全体にとってはどうだろう。」
ヤンはおさまりの悪い黒髪をかきまわすと
「帝国の民衆にとっては明らかにマイナスだ。強力な改革の指導者を失い、政治的な分裂、そして確実に内乱が起きるだろう。その被害を受けるのは民衆だ。そこまでして同盟の目先の利益を求めなければならないのかな。」
「でもそんな点にまでかまってはいられないでしょう。帝国のことは帝国にまかせるしかないと思いますけど...。」
ヤンは憮然とする。
「ユリアン、戦っている相手国の民衆なんてどうなってもいい、という考え方だけはしないでくれ。」
「....すみません。」
「いや、謝ることはないさ、ただ国家というサングラスで事象を眺めると視野が狭くなるし、遠くも、また物事の本質も見えなくなる。できるだけ敵味方にこだわらない考え方をしてほしいんだ。お前には。」
「はい。そうしたいと思います。」
ヤンは国家至上主義の考え方には、激しい嫌悪感を覚えるものの、国父ハイネセンは素直に敬愛していた。だからこそその産物である民主主義体制を守るということで気持ちを妥協させていたものの、ラインハルトを仮に斃せたとして、その勝利の結果が帝国の民衆に及ぼす影響を考えると心の翼が泥で濁った雨水で重く湿ってしまうような感覚を覚えるのだった。