Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第16章 正規軍の蠢動開始です。
第152話 昇進です。


ランテマリオ星域から離脱した帝国軍は、2.4光年を移動してガンダルヴァ恒星系第二惑星ウルヴァシーに対し降下作戦を開始した。人口は10万人程度の過疎地であり、未開拓の土地と豊富な水、鉱物資源のある星であり、かって惑星開発の企業が注目して、事業を起こしながらも失敗したため、放置されて、過疎化していたため、軍事拠点としてはもってこいだった。ラインハルトは半永久的な軍事拠点を築こうと考えていた。同盟征服前は、その版図をすべて征服するための基地、補給を兼ねた軍事拠点、征服後は武力叛乱、対海賊行為に対する軍事拠点とする想定であった。

 

一方、ヤン、みほ、杏、ビュコック、ウランフ、モートン、カールセンは、ハイネセンに到着して2時間後、前3者は、それぞれ元帥、大将、中将の辞令を受けた。とくに杏は半個艦隊しか指揮できない中将であり、報償的な意味合いの強い昇進であった。後者は昇進ではなく勲章といくばくかの報奨金である。

「返上するほど無欲になれないからもらっておくが、いまさらたいしてあるがたくもないな。ビュコック提督のおすそわけと思うことにしようか。」

元帥の辞令を受けたヤン、大将の辞令をうけたみほは、国防委員会から差し向けられた地上車に乗って、国防委員会ビルにむかう。ヤンの同行者は、ワルター・フォン・シェーンコップ中将とフレデリカ・グリーンヒル少佐である。西住みほ大将の同行者はエリコ・ミズキ大佐と秋山優花里大佐である。国防委員会ビルの前には赤っぽいツインテールの少女がいた。角谷杏中将である。6人は杏にかるく敬礼し、杏も答礼する。7人は期待にあふれた視線のシャワーを浴びつつ、委員長室に向かい入れられた。アイランズは、7人に席をすすめるとつぶやくように話した。

「ヤン元帥、西住提督、角谷提督、わたしは祖国を愛しているのだ...私なりにね。」

ヤンの表情筋は、微妙な動きをしめして、それを見て取ったシェーンコップは人の悪い笑みをかるくひらめかせたが、ヤンとみほは、アイランズの言葉に、トリューニヒトにはない誠意を感じた。

「ヤン元帥、西住大将、角谷中将、きみたちもこの国を愛しているだろう?だとしたらわれわれは進んで協調しあうことができるはずだ。」

「「民主主義の成果を守るために微力をつくします。」」

ヤンと同時に同じ発言をしてみほはかすかにほおを赤らめる。

「わたしも、いや政府をあげて元帥と大将の努力に報いよう。なんでも遠慮なく言ってほしい。」

「ヤン元帥、西住ちゃん、委員長さんは、なんでも言っていいって。」

杏が人の悪い笑みをうかべる。

「すまん。協力できることは実はあまり多くない。だが、最善への努力をするつもりだ。」

「さしあたり、負けたときのことだけを考えていただきましょう。勝てば、しばらくは安心できるはずです。平和外交をするなり、軍備を再建するなり、そこからは政治家の領分で軍人が口出しすることではありません。」

「勝つと約束してほしいというのは愚かな願いだろうな。」

「約束して勝てるものなら、いくらでも約束したいのですが...。」

「まったくだ。つまらぬことを言った。忘れてもらえばありがたい。いずれにせよ、元帥と大将を以前のように拘束しようとは思わんから...。」

「もし戦術レベルの勝利によって戦略レベルの劣勢を補うことが可能であるとすれば方法はただ一つです。」

ヤンとみほは、軽く顔をみあわせ、お互いに軽くうなずく。

みほが口をひらく。

「その方法は、ラインハルトさんを戦場で倒すことです。」

みほの顔にかすかに苦渋が浮かぶ。やはり悪人でもないのに人殺しのような発言をすることは本当は心優しい彼女にとって苦痛なのだった。一方、国防委員長の顔にとまどいの色がゆらゆらと浮かぶ。今度はヤンが発言する。

「ラインハルト・フォン・ローエングラム公は独身です。わたしの狙いはそこなんです。」

アイランズは途方にくれたように黒髪の学者風の青年元帥と襟に大将の階級章をつけた栗色の髪の少女を見返した。

「もし、ローエングラム公が死亡して、妻子、それも後継者となるべき男児がいれば、部下たちはその子をもりたてて将来来るべきローエングラム王朝を続けていくことが可能です。しかし彼には子がいない。したがって彼自身が死ねば、ローエングラム体制は終わりです。部下たちの忠誠心と団結力は、求心力を失って空中分解せざるをえません。復讐心にかられて一時的な反撃はしてくるでしょうが補給を絶てば恐るるに足りません。結局彼らは誰のために戦うのか問い直すために帝国へ帰還せざるをえません。」

かっては、派閥抗争、猟官、利権のみにむけられていたはずの、アイランズの両眼に理解と賞賛の光が宿った。彼は心地よい興奮にかられ、繰り返し頷く。

「そうか、まさに元帥の言う通りだ。ローエングラム公という恒星があってこそほかの惑星が輝くのだからな。彼さえいなくなれば帝国軍は空中分解し、同盟は救われる、」

「彼らを何らかの形で分散させ、各個撃破していけば、鋭気と覇気に富むローエングラム公のことです。必ず私を斃そうと出陣してくるにちがいありません。それこそが唯一の勝機です。」

「部下たちが倒されれば、彼自身が出てこざるを得なくなる。理にかなっている。」

「まあ、これは、どちらかというと戦略や戦術というよりも心理学の問題ですがね。」

ヤンはもっともらしく腕をくんでみせた。

国防委員長の執務室を出たヤンとみほたちの前に人影が現れ、シェーンコップは銃をかまえた。それは、国防委員会につめているというジャーナリストたちだった。彼らは、ヤンとみほに、市民に勝利して見せると約束してくれ、それともできないのかと問い詰めてくる。ヤンは、毒舌の溶岩を吐き出しそうな欲求にかられ、みほは、おびえてしまう。

 

「元帥閣下は、お疲れでいらっしゃいますし、軍の機密に関することは一切お話しできません、もしわが軍を勝たせたいとお考えなら、どうかご理解の上お引き取り下さい。」

フレデリカ・グリーンヒル少佐の冷静な声とへイゼルの瞳ににらまれて、非礼な客たちはたじろがざるをえなかった。シェーンコップは、

「かよわい女の子をこわがらせるんじゃない。」と一言言って、ジャーナリストを押しのけ、ヤンとみほは、その場を無事にやりすごしたのだった。

 

 

 

 


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