Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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「エリコの微笑みβじゃ。」
帝国軍のシステムの三重のプロテクトがやすやす突破され、帝国軍のシステムがかき乱される。
「ほ、砲撃が不能です。」
「通信不能!」
帝国軍の通信回線と火器管制システムが手動を含めて沈黙する。
同盟軍からの一方的な砲撃と誘導性機雷、亜空間キャニスターの魚雷、次元潜航艇の魚雷が次々に帝国艦隊の艦艇を火球に変えていく。

以前、キルヒアイス艦隊にてエリコの電子攻撃にしてやられ、それを徹底的に研究していた士官、ウェストパーレ男爵夫人の甥にあたるシャトレー・フォン・ウェストパーレ中尉は、名門貴族であるにもかかわらずラインハルトについたトゥルナイゼンとは別の意味で変わり種で、叔母に似て反貴族、反特権階級の意識が強く、少年時代はハッキングで帝国内の不正を暴いて、足跡を残さないという凄腕であった。士官学校でも情報戦、電子戦を専攻し、ラインハルトに共鳴して、キルヒアイス艦隊に所属したが、コルマール星域などエリコの電子戦に苦汁をのまされてきたゆえにそれを徹底的に研究した。そして、尊敬していた亡き上官(およびその旗艦)にちなんで「バルバロッサ」というソフトを開発し、ラインハルト艦隊の全旗艦に導入するすることを進言し、それが採用されたのである。そのため、僚艦が次々に火球に変えられても帝国軍の諸提督はあわてなかった。
「オルタナテイヴ・システムを立ち上げろ、「バルバロッサ」発動。」

帝国軍が次々に火球に変えられていたころ、ビューフォートは、予備兵力として配置されている、両舷に212と表示された黒十字槍騎兵艦隊の旗艦、ヴィットマンティーガーを発見した。
「敵予備兵力の旗艦です。」
「わが軍にとどめをさすつもりなのだろうが、こちらがとどめを刺してやる。七番艦、三番艦、六番艦、「「ビールケース(亜空間キャニスター)」放出!、火炎瓶(亜空間魚雷)をやつらにお見舞いしてやれ!各艦、あの旗艦を狙え!」
「「「了解!」」」
亜空間を泳ぐサメたちは、亜空間キャニスターを放出し、亜空間魚雷が、キャニスターと次元潜航艇から発射される。

「!!」
「魚雷、感あり。200!」
「逃げられるか?」
「至近です。間に合いません。」
ヴィットマンティーガーの艦内に轟音が響き、柱が倒れた。
艦長席のまほは、重傷を負って横倒しになり、半分うつ伏せのように倒れる。
「閣下!西住閣下! 」
士官たちが悲鳴のように凛々しく美しい上官の名を呼んだ。
「担架だ!担架」

「ヴィットマンティーガー被弾!」
「隊長!」
エリカは叫んでしまう。
「敵潜航艇発見!」
「たたけ、沈めろ!」
「はつ」

「亜空間爆雷多数。亜空間アスロック接近。」
「逃げろ、ワープだ。」
「間に合いません。」
「三番艦撃沈!」
ビューフォートは苦虫を噛むような表情になる。

「敵艦、撃沈反応あり。二艦は、かき乱されていますがワープトレースあり。」
「逃げられたか...。」
エリカも苦虫を噛む表情になった。

まほは、額から血をしたたらせながら通信士官を呼ぶ。
「指揮権を引き継ぐ。エリカを呼べ。」
「はっ。」

「ヴィットマンティーガーより通信。」
「つなげ!」
エリカは重傷を負ったまほをみて動揺して叫ぶ。
「隊長!いえ閣下」
「エリカ、お前に指揮権をゆだねる。落ち着け、ローエングラム公の命令を待つのだ、」
「しかし、隊長...。」
「いいか、お前は知っているだろう。撃てば必中。守りは固く、進む姿は乱れなし。鉄の掟。鋼の心。」
「はい。」
「それから、疾きこと風の如く、徐かなること林の如し、侵掠すること火の如く、動かざること山の如し。」
「はい。孫子の軍争編第七です。」
「実はこの続きがあってな、動くこと雷霆のごとしだ。いまは林や山の如く静かに動かずにいることだ。いざ動くときは、火の如く、雷霆の如く動け。西住流の、お前の力を見せてやれ。わかったな...。」
まほは絞り出すように話すと気を失って画面は消えた。

このときは、帝国軍ラインハルト艦隊が一万五千隻を喪ったが、今はエリカ率いる黒十字槍騎兵が猛攻を加え、それに続いて帝国軍が同盟軍を血祭りにあげていた。敵将ビュコックは、自決を覚悟して自室へ向かおうとしていた。



第151話 再び戦況の逆転?です。

そのときだった。

「!!」

黒十字槍騎兵の背後にワープアウト反応がある。

「今更、どこの味方だ?」

6000隻に達するそれは、緑色であり、舷側には亀のマークがついている。

「艦種識別...て、敵です。数6000」

 

「撃てえええ」

「桃ちゃん当たってない。」

「桃ちゃん言うな。」

「かーしま、変わって。」

「はい。会長」

トータス特務艦隊の放った乱れ気味の光条がするどい照準の光の槍の雨に変わる。

同盟軍は、トータス特務艦隊の救援でかろうじて建て直し、今度は挟撃された黒十字槍騎兵が炎上し、次々に火球に変わる。

「くっ。」

エリカは思わず下唇を噛む。

「援軍とはいえ少数だ。おそるるに足らぬ。挟撃せよ。」

帝国艦隊は、トータス特務艦隊へ襲いかかろうとしたその時、

「フェザーン代理総督のヴォルテックが暗殺されました。」

「フェザーン方面からの補給艦隊全滅しました。」

との報告が挙がる。しかも宙域全体にわかるような通信波だった。

「こんなときに....」

 

「8時の方向、巨大な物体が0.5光秒にワープアウト」

「巨大なエネルギー波発射反応!」

巨大な光の奔流が帝国軍を襲い、帝国軍の艦艇は一挙に3000隻を失った。

そこへ

「7時の方向、ワープアウト、艦艇多数。」

「艦種判明。同盟軍1万4千隻、旗艦はゼートフェル(あんこう)型です。」

「また巨大な物体がワープアウト、最初と同じ大きさ直径8km、全長20km。また高エネルギー波発射反応!」

「回避しろ!」

「間に合いません。」

帝国軍はふたたび3000隻を失った。二発のコロニーレーザーと補給艦隊全滅の報、そして新たに出現した艦隊の光条の槍、自由奔放に動き回って攻撃してくる戦闘衛星で帝国軍は背後から襲われ、勝利一歩手前で動揺する。

「補給艦隊が全滅したそうだ。」

「フェザーンへの道が絶たれる。帝国に帰れなくなるぞ。」

「何を恐れるか。この期に及んで同盟軍の新規兵力が出てきたところで各う個撃破するだけのことだ。うろたえるな。秩序を維持しつつ後退せよ。」

ラインハルトの叱咤でようやく帝国軍が艦列を整え後退しようとしたとき、

「5時の方向にワープアウト反応。」

「性格不明の艦艇1万1千隻」

帝国軍は通信波を送ったところ、再び光条の豪雨となって帰ってくる。

「て、敵です。」

 

帝国軍の艦艇内で不満の声があちこちからもれる。

「情報部は何をやってるんだ。同盟軍の数は、5万隻程度じゃなかったのか。」

「あれを見ろよ。ヤン・ウェンリーの旗艦ヒューベリオンだ。」

「ゼートフェル(あんこう)型は小娘の旗艦だ。」

「敵の増援はもう3万隻にのぼるじゃないか。それに同盟にはメルカッツが亡命していたよな。」

帝国軍の将兵は、勝利目前になりながらも亜空間からの攻撃と戦いつつ正面の5万隻と戦っていたのである。敵の2倍弱という数の優勢を誇りながらも疲労が蓄積していた。そこへ補給が途絶えたことと3万隻もの増援とコロニーレーザー連射による攻撃で、数の上の優位もくずれようとしている。

 

同盟軍は、帝国軍の乱れを見逃さない。

「今だ!撃て!」

ウランフ、カールセン、モートンが命じ、正確な火線が光の槍の豪雨となって帝国軍に襲いかかる。

 

後方と前方からの攻撃で帝国軍の諸提督は艦列の維持に精いっぱいな状況になる。

 

「閣下。動揺がおさまりません。補給路が絶たれ、こちらがやつらのアムリッツアの二の舞をなぞりかねません。」

「大軍の弱点がここにきて出たか。」

「ほぼ勝利目前ながらこうも乱れるとは、いささか勝ちなれて逆境に弱くなりましたようで...。」

「無理もない。まさかこんな小細工をする余裕が敵にあるとは思わなかった。いずれ陽動にすぎぬだろうが、この際用心しておくことにしようか。」

「御意。それにしてもこれは、やはりヤン・ウェンリーの仕業でありましょうか。」

「こんな小細工をたくみにやってのけるのは、あのペテン師と小娘どもしかあるまい。」

「御意。いったん兵をおさめましょう。」

ラインハルトは、軽くうなずいた。

(なんという進撃速度だ。イゼルローンからこんな短時間に2万隻以上を動かすとは...。)

それでも帝国軍艦隊は、装甲の厚い艦を外側にして、巧みに整然と退却していく。

 

一方のヤンは、帝国軍の光点を見て、その退却ぶりが見事だという感慨こそあったものの、ほっと胸をなでおろしたというのが本音のところだった。帝国軍に勝利の寸前で心のスキができた瞬間を襲って、補給が失われるとともにフェザーンへの退路が絶たれる、敵にはとっておきの部隊ないし兵力が充分にあることを絶妙なタイミングで帝国軍の将兵たちに信じ込ませることに成功したのだ。疲労と望郷の念がわけばいかな精強な帝国軍でも動揺して烏合の衆となる。そうなったら兵をおちつかせるために退却するしかない。

 

(こっちは、引き返すようだからいいが、イゼルローンをとったロイエンタール軍が、ハイネセンに殺到してくるかもしれないな。)

「全艦隊首都へ向けて転針」

「はい。」

「りょーかい。」

みほと杏が返事をし、3万隻がハイネセンへ向かう。

首都から進発したビュコック率いる同盟軍艦隊との通信が回復するとヤンはその安否をたずねる。

「ペルーンが見当たらない?そうだ。ボロディン提督が亡くなった。」

「そうですか...。」

「むざむざ生き残ってしまったよ。部下を大勢死なせてふがいないことだ。」

「なにをおっしゃいます。生きて復讐戦の指揮をとっていただかなくては困ります。」

「フィッシャー少将。」

「はっ。」

「最後衛をまかせる。万一帝国軍が転進追撃した場合にそなえるんだ。」

「了解。」

「「わたしたちも。」」

杏とみほが許可をもとめる。

「わかった。お願いする。」

「美少女に頼まれたらいやとは言えないと?」

シェーンコップが軽口をたたく。ヤンは微笑んで

「まあ、そういうことにしておくさ。」

 

こうして、のちに双璧の対決と呼ばれた第二次ランテマリオ星域会戦と区別して、第一次ランテマリオ星域会戦、一般的に、ランテマリオ星域会戦と称される戦いは終結した。この戦いについては、結局帝国軍が退却し、同盟側としては、防衛目的を達したことが戦術的に意味があるのか戦略的に意味があるのかで歴史家の評価がわかれた。のちのバーミリオン星域会戦とともに論議のまととなり、多くの著作が著されのである。戦術的には、帝国軍が撤退したから同盟軍の勝利、戦略的には同盟の戦力をそぎ落とし、バーラト和約による事実上の同盟の降伏の要因をつくり、まともに戦っていたら帝国が勝っていたとみなして帝国軍の勝利とみなす論者、また帝国軍を撃退したことから戦略的に同盟軍の勝利、これはあくまでもビュコック率いる同盟軍とラインハルトの帝国軍の戦いであるから戦術的に帝国軍の勝利とみなす論者もいた。いずれにせよ後世の歴史家に禄を与える会戦となったのである。

 




シャトレー・フォン・ウェストパーレのイメージとしては、ログホラのシロエが穏やかな顔をした状態のキャラとして考えています。まあ絵的にあわないので、画像自体は茅場晶彦あたりでもいいのですが(決してヒースクリフではない)...。シロエの本名城鐘恵から城=シャトーのイメージで名前を考えました。あとウェストパーレ家はラインハルト側についているだろうという想像です。

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