Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第148話 必殺!エリちゃんの微笑みです。

一方の同盟軍である。

「帝国軍は、ポレヴイト星系にて集結し、戦闘用艦艇94,000隻弱、補給、病院船3万5千隻、全軍再編成ののち、ランテマリオ星域を通過し、バーラト星系へ向かってくるものと予想される。」

JL77基地が帝国軍の妨害電波になやまされつつ送ってきた情報が統合作戦本部と宇宙艦隊司令部との合同会議の席上に提出される。」

「直進するとすれば、ランテマリオ、ジャムシード、ケリム、そして一路ハイネセンに向かってくることになる。」

「敵は直進してくるだろうか?迂回路をとる可能性は?」

「敵は正面からくる。敵はわれわれより大軍じゃ。ローエングラム公の性格から考えて迂回路をとる可能性はない。敵は正面からくる。われわれはこれをたたく。」

「ジャムシードからこちらの星域は、すべて有人惑星をもっています。人心から考えても時間的に考えても、もはや辺境とはいえないランテマリオが敵を阻止する絶対防衛線でしょう。」

統合作戦本部長であるドーソンは、政治力学で職に就いたにすぎず、国防委員会の指示や部下の進言でただ文書を決裁するだけで指導力などかけらも示すことができなかった。かえって、幸か不幸か宇宙艦隊司令部としては、戦術レベルの話にしぼられて逆にやりやすくなったともいえた。「戦って勝たざるをえぬ」立場に同盟軍はたたされ、「負けたらどうする」とはだれも言わなかった。

 

当初、チュン・ウー・チェンは、戦闘の開始時期をヤン艦隊の戦力が到達する時期までなんとかして遅らせられないかとシュミレーションしてみたが、すくなくとも半月かかるという結果となった。そうなるとハイネセンが帝国軍に占領されて一貫の終わりになるということになり、出撃せざるを得ないということになった。

 

国防委員会は、ハイネセンの住民を山岳、森林地帯に避難させ、各惑星には戦火を避けるために無防備宣言することを認めた。

2月4日、第一、第十、第十二、第十五、第十六の五個艦隊、5万2千隻は、ハイネセンの衛星軌道上から一路ランテマリオへ向かう。

この年、73歳になる老提督は、同盟政府より辞令を受け、元帥に昇進している。

「これは生きて帰るなということかな...特進の前渡しということで...。」

「いや、単なる自暴自棄でしょう。」

大将に昇進した総参謀長チュン・ウー・チェンは、胸に着いたパンくずをはらい軽口をたたく。チュン・ウー・チェンは、士官学校の教官になったとき、出入りのパン屋に間違えられ、食堂につれていかれたという逸話を持ち、このような非常時でなければ大将にまで昇進しなかったであろうというのが後世の歴史家の見解の一致するところである。

 

ところでビュコックの副官であったファイフェル少佐があまりの激務とストレスのために心臓発作を起こし、軍病院にはこばれたため、スーン・スールズカリッター少佐が新たにビュコックの副官になることになった。変わった姓ということで、なかなか名前を正確に呼んでもらえず、辟易していた若き少佐に対し、ビュコックは、

「申し訳ないが、少佐、今後スール少佐と呼ばせていたただけないか。わしはこの歳でな、覚えられないのだ。毎回名前を間違えそうでな。本当に申し訳ないが...。」

「いえ、長官。卒業生総代で名前を呼ばれて爆笑されたりとか、父親が三人いてその姓を重ねて名乗ってるとかたちの悪いことを言われてきました、ぜひとも今後そうさせて

いただきたいです。」

 

ランテマリオ星域に近づき、先行偵察艇から帝国軍の位置と陣形についての情報がもたらされる。艦橋に設置された十二のスクリーンが全面稼働し、画像が映し出される。

 

「帝国軍の陣形は、いわゆる双頭の蛇です。だとすれば中央突破を図ることは敵の望むところ。危険が大きすぎると小官には思われます。」

「おそらく、いや、疑いなく貴官のいうとおりだろう。だがほかに取るべき戦法はない。敵の陣形を逆用して中央突破を図り、各個撃破を図る以外にあるまい。」

といいつつも、

(ビューフォートが、2万隻弱を沈めたというのにまだこれほどの戦力があるのか...。)

二倍近い戦力差にため息が出る老提督である。

 

2月8日正午...

「敵艦隊、6.5光秒」

接近するにつれて敵艦隊中央部は非常に分厚いということが判明し、もし短時間い突破できないと敵の左右両翼と包囲されていきなり全滅の可能性がある。

(敵に先制させて受け流して、左右両翼の背後に回り込むべきだろうか...)

「敵艦隊まで5.3光秒、イエローゾーンに突入。」

ビュコックはそのように考えながらも、白く目立つラインハルトの旗艦を認める。

「煙幕と妨害電波を一斉照射。「エリコの微笑みα」(ミズキ中佐のウィルス)放出。狙うは敵旗艦ただ一隻じゃ!」

「敵艦隊まで、あと5.1光秒、レッドゾーンに突入。」

「撃て!」

「撃て!」

ここで「エリコの微笑みα」が威力を発揮する。なんと恐るべきことにエリコが自分がいなくてもボタン一つで帝国軍のシステムを狂わせるプログラムを同盟軍艦艇に備え付けたというわけだった。

「閣下、妨害電波と火器管制システムへの侵入が激しく光学標準しか使えませんが暗くて標準がつけられません。」

「敵は、自分たちの射線を隠せないのだ。スクリーンから敵の攻撃パターンを解析し、砲撃せよ。」

「はっ。」

「巧妙だな。なかなか楽しませてくれるではないか。」

 

ミッターマイヤー艦隊の通信士官が司令官に告げる。

「敵は、第一の頭、元帥閣下の指揮する艦隊を攻撃しています。」

「うぬ。さすがに老獪な戦略眼だ。ほかの部隊が、到着するまでのタイムラグでいっきにかたをつけようというのだな。」

帝国軍艦隊の動きは迅速であった。とくに胴体が疾風ウォルフの名に恥じない三つの目の頭になる。

ラインハルトの艦隊は、老提督の奇襲にたじろぎ、大蛇一つ目の頭に亀裂が入り打ち砕かれんかのように思われたが、冷静さをとりもどして回復しつつあった。そこにミッターマイヤーをはじめとする射線が加わる。同盟軍は、艦列をととのえ、ラインハルトの艦隊を中心にした円の半径に艦列をならべ、ミッターマイヤーの鋭鋒を避け、敵の背後に回り込もうと試みる。

 

 




字数調整のため、末尾部分を次話にくりこしました。ご容赦ください(12/14,2:00amJST)

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