Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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前書きと本文に4ヶ月近い時間差がありますが、本文はもう年末になってますw

ユリアン、メルカッツの壮行式の数日前...
ビュコックへの親書に作戦データをつけたあと、ヤンとみほは顔を見合わせ、そういえばと思い出したのはフェザーン航路局の同盟領航路データのことだった。
みほがヤンに
「エリちゃんに聞いてみます。」
といい、
「そうだな。よろしく頼む。」
と廊下でわかれた翌日だった。
「エリちゃん、なんとかフェザーン航路局の航路図データを消去できないかなあ。」
帝国軍から、ヤンに対してのペテン師と同様、畏敬やらそれと裏表の蔑視やらが含まれた「栗色の髪の小娘」の二つ名で呼ばれている少女は、同盟随一のIT通にしてECIの申し子と呼ばれる黒髪の少女に話しかける。
「うん。可能?メルカッツ提督?」
「うむ。」
「帝国軍の軍服のデータをいただきたい?」
「シュナイダー。」
老練の提督は艦隊の指揮権をあずかった場合は、戦術指揮に専心できるものの、帝国軍に対し完全には虚心でいられない部分があったので、そういった部分の判断をゆだねるために若き副官に声をかけた。
「フロイライン・ミズキ、どのようなお考えですか?」
「このパソコンとこれに仕込む?そして同盟弁務官事務所に置く?」
彼女は、自分の目の前のパソコンとノートパソコン、指輪のような銃を指し示す。
「なるほど...。帝国軍の将兵が来た場合にパソコンを作動するとデータが消えたり、指輪の銃が発動するわけですね。」
エリコがうなづく。
「機器を操作するのにわざわざ軍服を脱ぐことはない?」
シュナイダーは、無言の上官にかわって承諾の返事をする。
「わかりました。帝国軍に一泡吹かせてやりましょう。わたしとしては、どうも先のない正統政府にメルカッツ閣下を行かせなければならないうっぷんをなんとかしたいと思っていました。協力させていただきます。」
メルカッツも有能な若き副官の言葉に目を細めてうなづき、帝国軍の軍服のデータや写真を提出した。
「全部そろうとまではいきませんが、こういうものもありましたので参考までに。」
シュナイダーは、手元にない軍服の画像についてはスケッチを手渡す。

エリコは、自分のパソコンからオープンプロクシを巧みに使い、航路局のプロテクトをかいくぐって、フェザーン航路局に帝国軍の将兵が操作した場合に航路図データが消えるようマルウェアを仕掛ける。しかも航路図と同時にマルウェアは削除され、足跡を残さないというものだった。また、ユリアンに手渡す予定のノートパソコンは、弁務官事務所の防衛システムにつなげるためのものだ。

「この間のものができた?」
エリコはみほとヤンにみせて操作して見せる。
「なるほど…これはすごいな。」
ヤンはひとことつぶやき、
「これくらいはやらせてもらわないとな。あまりにもこちらに分が悪すぎる。わかった、ミス・ミズキ」
「これは君から渡してくれ。わたしがわたしてもいいがその手の記憶力はないし、説明に困るんでね。補給データと艦隊作戦データとはわけが違う。なにしろハイネセンの街中でもまいごになるくらいだから。」
こうしてエリコから直接ユリアンにノートパソコンが手渡されたのは壮行式の前日だった。(第135話前書きに続く)



第137話 商都フェザーンに「ジーク•カイザー」の歓声が響きます。

ユリアンが今度は周囲を見回すが、だれもが白けた様子で明後日の方向を向いているありさまだ。

「ご決心ください。帝国軍はすぐにでもやってきます。時間がありません。」

「き、君ごときの指図は受けん。」

ヘンスローは不意に高ぶった声でどなったが、自分で自分の声に驚いた様子で、周囲を見回し、額の汗を拭く。

「指図はともかく、君の提案は聞くべき価値を含んでいるようだ。コンピューターのデータを消したとして、君、責任はとってくれるだろうな。」

ユリアンはあきれてしまった。同盟が滅亡したらこの男は責任をとれるのだろうか。

「別の方法もありますよ。コンピューターのデータをそのままにして帝国軍に降伏するんです。貴重な情報を提供したということで寛大な措置をとってくれるかもしれません。」

ユリアンは毒のある冗談のつもりだったが、ヘンスローは、沈黙して露骨な打算の表情を浮かべたので、ユリアンは、ますますあきれてしまった。

「わかりました。僕が責任を取ります。コンピューターのデータを消去させていただきます。」

弁務官事務祖納の情報管理室、すなわちコンピューター室でデータを消去して、ユリアンは、エリコから預かったパソコンをひらいた。指輪には、暗視センサーのみのもの十数個とセンサーのほかにミニブラスターになるものが二十数個ある。アンスバッハがキルヒアイスを殺害にするのに用いたものとほぼ同じものだが、ユリアンは知る由もない。帝国軍の軍服をみたらパソコンから自動的に発射指令が送られる仕組みである。また弁務官事務所のパソコンを操作していたら防御システムがあることがわかった。正門前に十数丁の地下に装備されたライフルと玄関下の爆破装置にエリコのパソコンを無線LANでつなぎ帝国軍が来た時に反応するようにした。

 

そうこうしてもどってくると、ヘンスローだけがぽつねんとソファーに呆然と座っていた。綱紀がゆるみきっていると感じていたが、想像以上の無責任ぶりだった。職場放棄は処罰の対象になりうるのに、それを歯牙にもかけないような感覚。同盟の将来を見限ったようにさえ思えて、ユリアンは心が寒くなる。

「君、たのむ。わたしを安全なところへ連れて行ってくれ。」

(はっきりいって、足手まといだが見捨てるわけにもいかないし...。)

「あと30分ほど待っていてください。それから動きやすい服装に着替えて、護身用のブラスターと現金をおもちになってください。」

ユリアンは、今度は、木立にセンサー装置の指輪をとりつけたライフルを十数丁潜ませ、二階の窓に荷電粒子ライフル一丁と指輪を十数個、廊下に十数個を取り付け、エリコのパソコンの無線LANでつないだ。

 

ユリアンは、独立商船ベリョースカの船長代理マリネスクと腕利きの航宙士ウィロックと契約するのに成功し、フェザーンの宇宙港がすべて帝国軍の管制下におかれ、旅客便は全便運休で商船は飛び立つことができない状態になる寸前に、ぎりぎり脱出できた。

 

ラインハルトが側近の幕僚たちとフェザーンの土を踏んだのは、12月30日の夕方であった。ミッターマイヤー上級大将とミュラー大将が4万名の警備兵とともに若い帝国軍最高司令官を出迎える。のちに皇帝となる黄昏のなかにたたずむ金髪の若き元帥の姿を見た兵士たちはそれを誇りに思い、妻や子に語ったと伝えられるが、そういった兵士たちのなかから歌うような抑揚をともなった歓呼の声が流れ出し、一瞬ごとに熱を帯びていく。そしてついに「皇帝万歳(ジーク・カイザー)! 帝国万歳(ジーク・ライヒ)!」の歓呼になっていく。

金髪の若者はいぶかった様子だったが、ミッターマイヤーが

「彼らはあなたのことを皇帝と呼んでいるのです。わが皇帝(マイン・カイザー)と...。」

「気の早いことだ。」

ラインハルトが兵士たちに手を振るといったんはしずまりかけた歓呼の声は再び吹き上がる。

皇帝万歳(ジーク・カイザー)! 帝国万歳(ジーク・ライヒ)!」

歓呼の声はしばらく鳴り響いた。

 

ラインハルトは、接収した高級ホテルに臨時の元帥府をおいて、まずフェザーン人がこれまで保障されてきた市民的権利は、帝国軍の進駐によってもそこなわれるものではないことを宣言した。

ミッターマイヤーは、自治領主ルビンスキーを捕え損ねたこと、航路局と同盟弁務官事務所のコンピューターから航路図を得られなかったこと、同盟弁務官ヘンスローもいまだに捕えていないことを述べて謝罪した。

ラインハルトは、一瞬形の良い眉をしかめた。

「ミッターマイヤー、そうだからといって卿が手をこまねいていたわけではあるまい。」

「恐縮です。おっしゃるとおりにフェザーン商船やボルテック、また自治領主府のコンピューターにあった部分的な星図を手に入れ、つぎはぎだらけですが、合成するとある程度の星図になります。」

ラインハルトは苦虫をかみつぶすような表情をしたが、敵がかなり上手であることも同時に理解していた。

「なかなかうまく行かないものだな。この場合は敵が上手だってことだ。卿にできなければ、ほかの何人にとっても不可能であろう。それにデータが入手できない事態に気が付いたら迅速な対処をおこなったわけだ。非常に残念ではあるが、いちいち陳謝は不要である。」

(フェザーンの黒狐は捕まえられなかったか...。)

「どう思う?フロイライン。黒狐の思惑を?」

ラインハルトの陣営でフロイラインと呼ばれ政戦両略について的確に答えられる女性はひとりしかいない。若すぎる帝国元帥の副官で帝国宰相の秘書官である聡明な伯爵令嬢である。

「現時点での敗北を認め、ボルテック弁務官では抑えられない事態が必ず来ると見越しているのでしょう。それでいったん身を隠しているのですわ。ローエングラム公に望まれるかフェザーン市民に望まれるかどちらであるにしても...。」

「そんなところだろうな...。」

「ただ、やつらはなにかを隠しているな。あの会議の際の影の者...。」

宇宙暦798年、帝国暦489年は、宇宙に混迷と戦火の嵐が吹き荒れ始めてそのまま年を越し、宇宙暦799年、帝国暦490年が明けようとしていた。

 


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