Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
帝国軍は、制圧目標の再確認を行う。自治領主府、同盟弁務官事務所、航路局、公共放送センター、中央通信局、六ケ所の宇宙港、物資流通制御センター、治安警察本部、陸上交通制御センター、水素動力センター。これらを制圧すればフェザーンの機構を手中に収められるはずだった。
「特に重点は、自治領主府、同盟弁務官事務所、航路局だ。それぞれのコンピューターを押さえ、情報を入手しなければならん。これは絶対の条件だ。わかるな。」
バイエルライン、ビューロー、ドロイゼン、ジンッアーらの幕僚たちは、司令官の鋭い眼光に対し、
「「「「はっ」」」」
と緊張した面持ちで答えた。
同盟領の地理をおさえることによって適切な作戦と補給計画が立てられ、同盟軍と互角な戦いができる。しかも自国の地理、軍事力、経済力に関する情報が敵の手に渡ることによる心理的なダメージも無視できないだろう。
帝国軍はまず、航路局をおさえた。つぎに自治領主府である。これは、破壊されたマジックミラーとおびただしい血痕が確認されたほかはもぬけのからだった。
次に、グレーザー大佐が、同盟弁務官事務所を包囲した。
ババババババ....
弁務官事務所の周囲の木立から銃撃が起こる。
そこを兵士たちが応射するといくつか爆発音がして銃撃がやむ。
建物からは光線が数十か所から発射されるのに混じって一丁の荷電粒子ライフルが発砲される。
しかし2~3分ほどですべての発砲がやんだ。
どうやら狙って発砲しているわけではないようだった。
帝国陸戦部隊は進もうと動きだす。
すると今度は地下からなにやら現れて銃撃が再びはじまった。
「タイジンジライデナイコトヲアリガタクオモエヨ」
という機械的な帝国語のアナウンスがどこからともなく聞こえる。
兵士たちは銃撃を避けて、地下から出てきた自動発射のライフルをひとつづつ破壊する。
玄関をヒートガンを向けて破壊する。
「気をつけろよ。今度はどんなわながあるかわからん。」
「なにか罠を見破るいい方法はないか。」
「ミニロボットを通過させてみましょうか?」
「やってみろ。」
ミニロボットは玄関を無事に通過する。
「だいじょうぶなようです。」
その返事を聞いたグレーザーはふと思いつき、
「このマネキンにためしに帝国軍の軍服を着せて通してみろ。」
といい、兵士たちはラジコンにマネキンを乗せて玄関に通してみた。すると室内で銃撃がはじまり、玄関の奥で爆発した。
グレーザーは、
「いくつか、はしごを持ってこい。」
といい二階の窓から兵士たちを部屋に侵入させた。
「だれもいません。」
「さっきのライフルです。これは....。」
「センサー付きの自動発射装置です。なにか回路につながっています。」
その回路をたどってみろ。
「こ、これは...ノートパソコン。」
「触れるな。何か長いものをもってきて開けろ。」
「そんなものはありません。」
するとノートパソコンはひとりでに開く。
「あぶない。離れろ。」
画面にはアニメのようにデフォルメされたエリコがあかんべーをしている顔が現れ、
「ザンネンデシタ、マタゾウゾ」
と帝国語でつぶやくやいなや爆発した。
「消火しろ、メインコンピューターをさがせ!」
「!!」
廊下に出ると光線があちらこちらから放たれる。
幾人かの兵士がうめいて倒れる。
よく見ると壁につけられた指輪だった。
何人か戦死者を出しながらようやくグレーザーは技術士官とともにコンピューター室へたどり着く。
「メインコンピューターはどこだ。」
「ありました。」
「航路図はあったか?」
「いえ...すべて消されています。」
航路局を制圧した部隊からミッターマイヤーに報告がなされていた。
「し、司令官。」
「どうした?」
「ど、同盟領の航路図が...航路局のコンピュータからすべて消されています。」
「同盟弁務官事務所のほうはどうだった?」
グレーザーがうめくように答える。
「こちらも...全部...。」
グレーザーは同盟弁務官事務所で起こった一部始終を話した。
ミッターマイヤーは、
「そうか...。油断ならないな...。」
とつぶやき、
「やむをえん。ボルテックとフェザーン商人たちに協力させて極力同盟領の航路図を集めろ。」
と命じた。こうして集めた航路図はつぎはぎだらけで1/3といったところだった。しかしないよりまましだし、首都星ハイネセンまでまがりなにりもたどりつけるようになっている。
一方で、ミッターマイヤーは、フェザーン本星での経済統制を行わなかった。銀行は封鎖されず、商店は営業していて市民たちは胸をなでおろした。一方で、軍司令官名で布告をだし、正当な理由なく商品の値段を上げ、売ることを拒否する者は厳罰に処するとした。その布告が発せられて一時間後に、商店では、作ったばかりの価格票を取り去って、もとの値段に書き換えるか、もとに戻すかがなされた。
28日には、第二陣のナイトハイト・ミュラーが到着した。
ミュラーを出迎えたミッターマイヤーは固く握手をかわす。
ミュラーは自分より階級が上のミッターマイヤーの出迎えに恐縮しつつも、よく統治がゆきとどいていることに賞賛を送った。
「まあ、いまのところはな。ただ恥ずかしいことに完璧とはいかないな。残念なことにこういう時には小悪党が出るものだ...。卿ならわかるだろう。」
「なるほど...。多少気の毒ではありますが軍規の乱れは占領地住民の不審を生みます。一人甘くすると次が起こるし、不審や不満が増幅される。元帥閣下でもわたしでも同じ処置をしたでしょう。」
「なんにしても、戦わぬとは肩がこるものだ。」
はちみつ色のおさまりの悪い髪をもつ青年提督は、微笑をうかべ両肩を軽くまわしてみせた。
さて4日前、帝国軍の侵入を目の当たりに見たユリアンは、ランドカーを拾ったものの渋滞に阻まれうごけなくなってしまった。
「しかたない。准尉、降りよう。」
「歩きますか?」
「いや、走ろう。」
弁務官事務所に入ると、ホールに集まって右往左往している人々がいる。
ヘンスロー弁務官をみつけると敬礼した。
「弁務官閣下。申し上げます。弁務官事務所のコンピューターのデータをすべて消去する必要があります。」
「消去する?」
「そのままにしておいたらすべての情報が帝国軍に利用されてしまいますよ。」
ヘンスロー弁務官はあえいで視線を無目的に泳がせる。その様子は誰か代わってやってくれる者がいないか探しているように思えた。