Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第133話 ふたたびイゼルローン攻防戦です(その2)

「な、何ごとだ。」

「て、敵です。敵の強襲揚陸艦です。」

電磁石でトリスタンに節減し、酸化剤が噴きつけられると同時にヒートドリルがトリスタンの船体に打ちこまれる。2分後には、直径2mの孔が開けられて、装甲服をまとった「敵兵侵入!敵兵侵入!非常迎撃態勢をとれ!」

船内は激しい銃撃戦と白兵戦にいろどられる。

光線の豪雨の中をローゼンリッターは、レーザービームは鏡面装甲を施した盾でふせぎながら突き進む。炭素クリスタルトマホークで敵兵をなぎ倒し、切り飛ばしてトリスタンの船内は血しぶきが舞い、内壁は鮮血で深紅のまだらに塗りたくられる。

「雑魚にかまうな。目標は敵の司令官だ。艦橋をさがせ。」

ローゼンリッターがぞくぞくと乗り移ってくる。

 

「やつらを生かして帰すな。俺が指揮を執る。」

参謀長ベルゲングリューン中将は、船内通信機をとり自ら白兵戦の指揮を執る旨通達する。

 

帝国軍は艦内通路の両脇からローゼンリッターを囲もうとするが、シェーンコップはトマホークを左右に振るって一閃、あっというまに二人の兵士を斬り倒す。血潮を浴びつつも三人目が襲いかかるがトマホークの柄で横転させる。

前方からの兵士の群れを見て、横に会った扉の中にはいる。中にいた帝国兵はプラスターをかまえるが、それよりもはやくトマホークが左右にふるわれて四人の兵士が倒れる。

 

立っているのは装甲服に着替えようと手にとった細面の士官とシェーンコップだけだった。

士官は黒地に銀の装飾をあしらった帝国軍士官の軍服で、将官であることをあらわす金色の階級章がついている。その瞳は、見誤りようもない金銀妖瞳であり、シェーンコップは確信を強めた。帝国標準語で話しかける。

「ロイエンタール提督...?」

「そうだ。叛徒どもの猟犬か?」

シェーンコップはトマホークを構えなおし、

「わたしは、ワルター・フォン・シェーンコップだ。死ぬまでの短い間覚えておいてもらおう。」

言うが早いか鋭いトマホークの一閃がロイエンタールに襲い掛かる。

ロイエンタールは、バック転をして素早く後ずさってプラスターをかまえる。

そのときにはトマホークが再びロイエンタールの頭上に振り下ろされようとしていた。

ロイエンタールは身を沈める。

頭髪が数本斬られて空中に舞う。沈めた身体を反転させてプラスターを精悍な侵入者に向かって撃つ。

シェーンコップはトマホークを自らの顔面にかざして光の剣を防いだ。トマホークの柄が折れて、刃がこぼれ落ちる。

柄だけになったトマホークをシェーンコップは正確に投げつけて、ロイエンタールの手からプラスターが弾き飛ばされる。シェーンコップは腰のホルスターから戦闘用ナイフを抜いた。ロイエンタールはそばに倒れていた兵士の腰から戦闘用ナイフを抜き取った。

突く、弾く、斬りつける、なぐ、受け止めて巻き込もうとする、弾きかえす、再び斬りつける、弾く...苛烈な斬撃と完璧な防御がくりかえされる。

ドタドタと軍靴を踏み鳴らす音がして、ローゼンリッター連隊員が数十名やってくる。防御指揮官を探しに戻ってきたのだ。帝国軍兵士たちが追いすがってくる。狭い部屋で混戦となり、両軍とも味方に当たるかもしれないのでナイフやトマホークを思うようにふるえなくなる。怒号が室内を満たし、もみあいになる。たまに戦闘ナイフを抜き取った者が相手に斬りつけるが続かない。帝国軍兵士の群れは、数にものをいわせローゼンリッターに距離をとらせず思うように攻撃させないようにして、同盟軍を装甲服着衣室から追い出した。

 

ベルゲングリューン中将がようやく金銀妖瞳の上官を見出し、

「閣下御無事でしたか?」

と声をかける。

「ああ。」

ロイエンタールは、半ば上の空で返事をし、手くしで髪を整え、金銀妖瞳には自嘲めいた光が浮かぶ。

「やつらが噂のローゼンリッターか?」

「そうらしくあります。距離をとらせるとトマホークやすさまじい剣技でやられるので身動きできなくさせました。」

「わかった。艦列を後退させろ。俺としたことが功を焦って敵のペースに乗せられてしまった。旗艦に陸戦部隊の侵入を許すとは間の抜けた話だ。」

「申し訳ございません。」

「別に卿の責任ではない。気にするな。俺が熱くなりすぎたのだ。すこし頭を冷やして出直すとしよう。」

 

さて、強襲揚陸艦でイゼルローンに帰投したシェーンコップはヘルメットを腕に抱えて装甲服のままで、不敵な笑みをうかべて、ヤンに報告する。装甲服は血痕にまだらにいろどられている。

「お疲れ様。」

「今一歩というところで大魚を逸しました。まあ、旗艦への侵入を果たして敵を少なからず動揺させたのは確かですから、0点ということにはならないでしょう。」

「そいつは惜しかった。」

「もっとも先方もそう思っているかもしれません。なかなかいい技量をしていましたし、わたしの攻撃も再三かわされました。」

「歴史を変えそこなったということかな。」

ヤンが笑うと、シェーンコップもにやりと笑い返した。二人ともこのときは冗談まじりの軽い気持ちだった。

 

帝国軍艦隊は、乱戦状態から、戦いながらも整然と隊列を組みなおして後退する。その鮮やかさはロイエンタールの非凡な指揮能力を示していた。

ヤンは、後退に乗じて追撃戦を行おうとしたが、つけ込む隙を見いだせなかった。いつでも逆撃できるぞ、というかまえである。ヤンはそれと悟ると、こちらもアッテンボローとフィッシャーの芸術的な後退でイゼルローンに帰投する。

 

ヤンは指揮卓の上にあぐらをかいて、不快げに紅茶をすすっている。

「いくらでも優秀な敵というものはいるものだな。」

キャゼルヌがまずそうにコーヒーを一口飲んで論評する。

「あのまま攻撃し続けてくれればよかったのだが、さすがに帝国軍の双璧と呼ばれる男は違うな...。」

 

「閣下。」

「なんだい。」

「今は、要塞対艦隊で戦っていますが、艦隊対艦隊で戦うとなった時、ロイエンタール提督に勝てますかな。」

シェーンコップが、勝てますよね、そう信じていますよという含みをもたせた、彼らしい遠慮のなさすぎる質問をした。

「う~ん、わからないな。先だって戦ったケンプは、空戦隊出身なこともあって、最初から艦隊指揮官だったロイエンタールにくらべて明らかに用兵の柔軟さで劣っていることを感じたが、それでもかろうじて勝てたのだし、運しだいでどうころぶか...。」

「期待外れなことをおっしゃらないでください。私はいつか言いましたが、あなたはローエングラム公にも勝てると思っているのですから、その部下如きに勝てなくてどうします。」

「君がそう思い込むのは自由だが、主観的な自信が客観的な結果を導き出せるわけじゃない。実際のところ、ロイエンタールの用兵は、ローエングラム公と比べても遜色のない完成度だ。」

 

「さてと...艦隊を300隻程度の船団に編成してくれ。敵を攻撃しつつ後退し、主砲の射程内に引きずり込む。」

「アイアイサー」

 

アッテンボローが艦隊の半数ほど5400隻を300隻ごとにわけて、敵に砲火をあびせて誘いをかけ、巧みな後退でトゥールハンマーの射程にさそいこもうと試みた。


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