Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第132話 ふたたびイゼルローン攻防戦です(その1)

ユリシーズの報告を受けて、ヤンは会議室に幕僚たちをあつめた。

「帝国軍は3万隻。今年の春のケンプ艦隊をうわまわる大兵力だ。これが旗艦の画像。」

グレーの船体に青く斜めの二つの帯が描かれている。

「これは、ロイエンタール提督の旗艦トリスタンだ。双璧の一人か...。」

「閣下、これは、ローエングラム公の大規模な戦略の一環なのでしょうか。」

フレデリカにたずねられて、ヤンはうなづいた。

「どうもユリシーズを哨戒行動につけないほうがよさそうですな。あの艦が哨戒に出るたびに敵を連れてくる。」

ムライ参謀長が腕を組んで冗談とも本気ともつかない台詞をつぶやくように言う。

「まあ、ものは考えようさ。ユリシーズを哨戒行動に出したときは通常より一レベル高い警戒態勢しておけば効率的だろう。」

ヤンは、シェーンコップとキャゼルヌに警戒態勢強化と戦闘配備を命じる。

「これを首都に送ってくれ。」

ヤンは、通信局長に命じた内容を要約すると次のような内容だった。

イゼルローンに敵襲。敵の艦艇3万隻余。指揮官は、オスカー・フォン・ロイエンタール上級大将。帝国軍の双璧と称される優れた指揮官である。この攻撃は単独のものではなく、フェザーン回廊からの攻撃と連動したローエングラム公の壮大な戦略構想の一環であろう。フェザーン方面の帝国軍の艦艇数は八万八千隻と推定される。フェザーン回廊出口付近の防備を固められたい。

ビュコック司令長官は国防調整会議で孤軍奮闘に近い状態だ。ウランフ、ボロディンにも同じことを伝えてある。無益だと思いつつも、すこしでも首都の意見がまともな方向に動いてくれるすることを祈らずにおれないヤンだった。

 

ロイエンタール艦隊は要塞前面に展開する。その重厚かつ整然たる布陣が、イゼルローン要塞のスクリーンに光点の群れととして映し出される。

(堂々たるかつ戦理にかなった布陣だ。)

ヤンは、ロイエンタールの手腕にうならざるを得ない。アムリッツアで戦ったキルヒアイス艦隊の重厚で戦理にかなった布陣が思い出される。それだけで相手がいかに強敵であるか認識せざるを得ない。

 

帝国軍旗艦トリスタンの艦橋では、ロイエンタールがその金銀妖瞳で、スクリーンに映し出された球体を見つめている。大都市の人口に匹敵する彼の部下たちが司令官の砲撃命令を待ち構えている。

やがて、司令官の右手が鋭く空を切って振り下ろされる。

「ファイエル!」

三十万を超す砲門が一斉に無音の咆哮をなし、光の槍が吐き出される。

その半分は流体金属に吸収されるものの、砲台や銃座が相当数破壊することに成功する。

「小ゆるぎもしませんな。」

参謀長ベルゲングリューン中将が、あらためて感嘆の念を口にせざるをえないという感じでつぶやく。

「するわけがない。まあ、はでにやるのも今回の任務のうちだ。せいぜい目を楽しませてもらうことにしようか。」

「ルッツ提督に連絡してくれ。所定の計画にしたがい、半包囲体制をとるように、とな。」

 

イゼルローン要塞のメインスクリーンには、帝国軍からの光の槍が雨のように降り注ぎ、砲塔や銃座の爆発光や爆発煙が映し出されていた。

ヤンは中央指令室で、指揮卓の上で片膝を立てて座り込みそのひざにひじをついて、ほおづえをついて、メインスクリーンと敵の艦列が映し出されているサブスクリーンを見ていた。

通信士官がヤンに伝える。

「アッテンボロー少将からのからの通信です。」

「つないでくれ。」

「艦隊はいつでも出撃できますが...。」

「よし、敵の艦列の動きによく注意してくれ。いくつか敵がとりそうな作戦を送っておく。」

「了解。」

ヤンは、自分ならここでトゥールハンマーの射程ぎりぎりで半包囲か...陽動ならばそんなところだろう...と考えていた。

アッテンボローとフィッシャーによる駐留艦隊は、半包囲をなんとかおさえられたものの、トゥールハンマーの射程ぎりぎりで両軍混戦状態に陥った。

こんな状態では、とてもトゥールハンマーで敵を追い払うどころではない。

「やってくれるじゃないか。」

ヤンは感嘆せざるを得ない。

(ほうっておくよりはましだったか...。敵は自分が優位に立ったことを確信しているだろう。そこにつけ込む隙をみいだせないだろうか...)

ヤンはひとつの策を思いつくと同時に、

「司令官」

と精悍な防御指揮官の呼ぶ声がする。ヤンが振り向くとシェーンコップがほくそえみながら指をつきたてている。

ヤンも笑みをうかべ、同意して作戦を許可した。

 

(これでトゥールハンマーが使えないだろうから増援を出すしかない。さて、どう出てくるかな。魔術師ヤン)

ロイエンタールは艦橋でほくそえんでいた。魔術師だの奇跡のヤンだの呼ばれている男が次は何を仕掛けてくるだろうかと楽しげに待ち構えていた。

 

アッテンボローとフィッシャーに率いられたイゼルローン駐留艦隊は、巧みな艦隊運動で帝国艦隊と互角に戦っている。

灼熱の光条の豪雨が帝国艦隊の艦艇を襲い、装甲とエネルギー中和磁場の負荷を超えたとき引き裂かれ、火球となって四散し、爆発煙をまき散らす。その繰り返しである。

駆逐艦数隻にまとわりつかれた戦艦は、ミサイル発射孔に核融合弾を撃ち込まれて四散する。同盟艦隊も、降り注ぐ光の槍がエネルギー中和磁場の負荷を超えて、船体が引き裂かれて火球となって四散し、爆発煙をまき散らす。帝国軍のグレーの船体の破片と同盟軍の緑の船体の破片が飛び散って宇宙空間にただよった。

 

「叛乱軍、新規兵力です。500隻程度。」

「!!」

「どうした?」

「せ、戦艦ヒューベリオンです。」

ロイエンタールは口にこそ出さないが驚く。智将と聞くが、意外に陣頭の猛将という面があるのだろうか...

「全艦前進!最大戦速!」

旗艦トリスタンは、ヒューベリオン目指して前進する。ヤンを捕えるか殺す...

帝国軍の全将兵が渇望する武勲をたてる絶好のチャンスに思われた。

 

「射程距離に...。」

オペレーターが言いかけたその時だった。

ガガーンン...

鋭い衝撃が走り、トリスタンの船体が激しく揺れた。

 


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