Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
出向者の壮行式は盛大と言っていい規模で行われた。ヤンもメルカッツも、シュナイダーも、ユリアンも一人として式典好きな者はいなかったが、二秒スピーチで知られるヤンが、慣例を破って3分を超えるスピーチを行ったのが参列者を少々驚かせたが、その間に六回も「政府の強い希望により」というフレーズがくりかえされた。参列者は、イゼルローン要塞内に限って言えば司令官を好いていたから、その見え透いた大人げない心情に共感し、表だって同情を含んだ苦笑をする者と心のなかにおさめる者にわかれた。
9月1日正午、メルカッツ、シュナイダー、ユリアン、マシュンゴは、巡航艦タナトス3号に乗り込み、イゼルローンを離れた。
壮行式が終了したあと、フレデリカがヤンの私室をおとずれてみると、黒髪の青年司令官は、デスクに両足を投げ出し、ブランデーグラスを片手に窓の外の星の海をさえない表情で眺めていた。机には1/3ほど中身の減ったブランデーの瓶が大きな顔をしている。
「提督...。」
一瞬ためらった後にフレデリカが声をかけると、ヤンはいたずらが見つかった少年のような恥ずかしげな表情をうかべた。
「行ってしまいましたわね....。」
「うん...。」
ヤンはフレデリカの言葉にうなずくと、空になったグラスを机の上に置き、いったん酒瓶をつかんで持ち上げたが、なにを思ったか元に戻し、ぽつりとつぶやく。
「つぎに会うときはもう少し背がのびているだろうな...。」
それは、だれもが体験する経験上確実な予言だった。
さて、帝国では、平民たちがローエングラム公を支持するデモが行われていた。
「門閥貴族の残党どもを倒せ!奴らの復活を許すな!平民の権利を守れ!」との伝統的なスローガンとともに、「自由惑星同盟などと称する門閥貴族の共犯者を倒せ!」
とのスローガンがだんだんおおきくなっていった。
しかもラインハルトはご丁寧にもフェザーン商人たちから情報収集した同盟の腐敗ぶりを平民たちに報せ、専制主義自体は効率的な制度であって有能な人材に権力を集中させて効率的な政治を行えること、不敬罪は、門閥貴族などの反ローエングラム派に適用されるものであり、平民には言論の自由を保障し、政治批判については、施政に反映させることをことあるごとにメディアなどで報せていた。
9月10日、ラインハルトの元帥府の奥には深紅の金獅子旗が掲げられ、中央奥にラインハルト、16人の幹部及び将帥が二列に並んでいる。
「卿らに集まってもらったのは、自由惑星同盟を僭称する叛徒どもに対して武力による制裁を加える。その具体的方法について意見を聞くためだ。」
「わたしの腹案をまず述べておこう。それは、過去くりかえされてきたようにイゼルローン回廊から侵攻するのではない。すなわちもう一つの回廊から侵攻することだ。」
提督たちの脳裏にPではじまるアルファベットの列が浮かぶ。
「そう、卿らの察する通り、フェザーン回廊から同盟領に侵攻する。フェザーンは政治的軍事的な中立を放棄し、われわれの陣営に帰属することになる。」
声のないざわめきが会議室の空気をかきまぜる。
ころあいをみてラインハルトが片手をあげて合図をすると、ギュンター・キスリング大佐に連れられて背広を着た会社員風にも見える男が入ってくる。
「彼が我々に協力してくれる、もちろん無償ではないがな。」
そのときだった。短剣が雨のように降り注ぐ。数人の黒い影が走り回って、いくつかの短剣は弾き飛ばされた。弾かれなかった短剣が床に刺さる。提督たちはなんとかそれを避けた。
「諸提督!避けられたい!ここは危険だ」
フェルナーが現れる。
しかし、暗殺者ニヒトはほくそえみ、帝国の陰の者の二十回近い鋭い短剣の突きを軽業師のようにたくみに手足、身体をひねってことごとく避けて、ラインハルトの脇腹に毒を焼き付けた短剣を突き刺すのに成功する。しかし一刺しがやっとで帝国の影の者に追われてすばやく消えた。
「ぐっ...。」
ラインハルトは倒れる。
「担架だ!」
担架を担いだ医者たちによってすぐに運ばれた。幸い傷は深くはなく、解毒剤で対処できることが間もなく判明した。
「この売国奴が!」
ビッテンフェルトは叫ぶ。ボルテックは蒼くなった。
オーベルシュタインが口を開いた。
「諸将、落ち着かれよ。これは、われわれを妨害するための陽動だ。すなわち、ボルテック弁務官の信用をうしなわせ、われわれの作戦を挫折に追い込むためのな。」
「だれがそのようなことを....。」
「われわれが一方的にフェザーン回廊を通して同盟領に侵攻することによって損をすると考える者は同盟以外にもいる。しかも一弁務官にその功をとられることを不愉快に思う者も。」
解毒は成功し、一週間でラインハルトは退院することができた。
「オーべルシュタイン!あれほど言っておいたのにどういうことだ。」
「御意。」
「まあいい。あの者は腕の立つ者だった。いままでわたしを狙った暗殺者の比ではない。あの技術だけみれば、めしかかえたいものだが...。」
「閣下!」
ヒルダが叫ぶ。
「冗談だ。フロイライン。あのようなものの手を借りずしても宇宙をこの手につかめる。裏で糸を引いている者を探し出せ!」
ラインハルトも得体のしれない影のようなものを感じた。
その夜、ククク...という声をラインハルトは寝室で聞き、起きた。
「お前か。」
「そうだ。よくわかったな。」
「あんたは、殺すには惜しい男だ。いろいろ見て分かった。」
「あいつは、最初報酬を渋ったんだよ。あんたを殺せるのは俺しかない、これだけのことをしてリスクを冒している、あいつには、あんた以外にも客はほかにいるんだよ、払わないならあんたを殺してその首をもっていこうかと言ったらあっさり出しやがった。なにしろ俺以上に腕の立つ奴はいないから。」
「だれがお前に頼んだ?」
「それは言えねえな。あんたを殺せなかったのは事実だからあいつとの契約をすべて果たしたわけじゃないからな。」
「ふっ、口の減らない男だ。どうだ?わたしに仕えないか。報酬はそれなりに出す。無理に殺しまでしなくてもよい。どんな危険な場所にも確実に情報収集して生きて帰ってこれる男が必要だ。旧主の復讐からも守ってやれる。」
「その申し出はありがたいが、自分で自分を守れるんでね。好きに生きるさ。じゃあな。」
一方、オーベルシュタインのもとにも訪問者が現れた。