Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第127話 ユリアンさんがフェザーン駐在武官着任を決心します。

「残念ながらわからないな。ただミッターマイヤー提督以外のだれかだ。まあ誰が来てもやっかいだが、少なくともただの陽動にあの種の用兵の迅速さは必要ないからね。」

「陽動部隊でくぎ付けにして、その間にフェザーン回廊を通過って...。フェザーンは抵抗しないってことですか。」

「少なくとも実力で排除するのに、たいしてコストを要しないってことだろうね。それからまったく抵抗を考慮する必要がない場合すらも考えうる。」

「この間の事件からひそかに帝国とフェザーンが手を結んでいる可能性ってことですね。」

「そのとおりだ。ユリアン、現在の状況は固定し続けるものと先入観を抱きがちだが、銀河帝国は500年前にはなかったし、同盟もその半分の歴史しかない。フェザーンに至っては、一世紀そこそこの歳月を経ただけだ。」

「たしかにおっしゃるとおりですね。それにしてもローエングラム公とフェザーンが手を結んでいる可能性って言うのは確率的に高いんでしょうか。」

「A、B、Cの三勢力があるとする。これまでは、Aが強大になったら、Bを助け、逆にBが強大になったらAを助けることによってA,Bの共倒れか疲弊をねらってCは権益を拡大する手段を取るだろうが、万一Aの勢力が著しく強大化して、Bを助けてもAに対抗しえない場合、Cとしては、Aを助け、Bを滅ぼすという選択をするかもしれない。ここにバグダッシュがもってきてくれたデータがある。帝国:フェザーン:同盟の勢力比だ。現在こそ一時的にフェザーンの力が増しているおかげで47:18:35だが、1年後には、帝国内のドラスティックな改革の成果で、52:16:32になる。この傾向はとめられないし、フェザーンも承知しているだろう。」

「でも、AがBを滅ぼした余勢をかってCを滅ぼすことにはならないでしょうか。」

「確かにそうだ。フェザーンは政治的独立を失うことになるが、それに代わる条件を提示したのかどうか...もしかしてフェザーンの目的は、フェザーン自身の存続にはないのかもしれない。表からは見えない形で、新帝国内の経済的な権益を独占できればいいという考え方もある。歴史上そういう例もないではないからね...。」

「物質的な権益とか打算とかフェザーン自体の存続が目的でないとしたら、もしかして精神的なものでしょうか。」

「精神的なもの??」

「たとえばイデオロギーとか宗教のような...。」

「なるほど..実は、フェザーンについてなにか論理的でない影のようなものを漠然とだけど感じてはいたんだ。しかもフェザーンは地球出身の商人レオポルド・ラープによって設立されたという経緯がある。それだけの資金をどう集めたのか。それに目立たないが地球教や憂国騎士団がフェザーンとつながっているのではという論者が絶えたことがない。半信半疑で受け止められているけどね。しかし、ローエングラム公があの怪しげな地球教と手を組むというのはどうも考えにくいな...。」

 

「わかりました。僕がフェザーンへ行って、少しでも彼らの政策や政略について知ることができたら、それから帝国軍の動きを知ることができたらすこしでも閣下のお役に立てますね。それなら喜んでフェザーンにいきます。」

「ありがとう。でもユリアンがフェザーンに行った方がいいと思う理由はほかにもあるんだ。」

「??どういうことでしょうか ??」

「そう、どういったらいいかな。山を見るにしても一方から見ただけでは全体像をつかみにくいというか...なんというか、このままいくとわれわれはローエングラム公ラインハルトと死活をかけて戦うことになりそうだが、果たしてローエングラム公は悪の権化なのだろうか。」

「それは、違うと思いますが...。」

「そりゃそうだろうな。テレビじゃないんだから。むしろ今回自由惑星同盟は、帝国の守旧派、反動勢力と手を組んだ。歴史の流れを進歩、開明的な方向ではなく、逆流させる、不当にゆりもどす側に与したとみなすことができる。後世の歴史家に悪の陣営として色分けされるかもしれない。」

「そんな...まさか....」

「そういう観点も歴史叙述にはありうるのさ。ましてやこのままだと自由惑星同盟は生き残れないかもしれないし。だからユリアン、お前がフェザーンへ行って彼らの正義とわたしたちの正義との差を目の当たりにみることができたとしたら、それはたぶんお前にとってマイナスにならないはずだ。」

「同盟が生き残れない...ですか?」

「ああ、わたしが年金をもらう期間くらいはもってほしいとおもうけどね...。歴史的な意義からすれば、同盟は、ルドルフの政治思想のアンチテーゼとして誕生したんだ。」

「それはわかります。」

「専制に対する立憲制、非寛容な権威主義に対する開明的な民主主義、遺伝血統に基づく階級制や身分制、世襲制に対して社会的な平等、基本的人権の尊重、選挙権の付与、まあそういったものを主張して実践してきたわけだが、ルドルフ的なものがローエングラム公の手によって否定されれば、あえて同盟が存続すべき理由がなくなる。」

「....。」

「なあ、ユリアン、どれほど非現実的な人間でも不老不死は信じないのに、国家については永遠で不滅だと思い込んでいるあほうな奴らが結構多いのは不思議なことだと思わないか?歴史をみればわかるように国家には寿命もあるし、単なる道具にすぎないんだ。そのことさえ忘れなければたぶん正気をたもてるだろう。」

 

フェザーンの駐在武官は、首席が大佐であり、その下に武官が6名、武官補が8名で駐在武官団が組織される。首席駐在武官は、弁務官、首席書記官につぐナンバー3で、6名の武官は、士官で佐官と尉官が半数づつ、8名の武官補は、下士官で、武官と武官補の欠員補充がヤンにゆだねられたのだった。ヤンは、そこに姑息な作為を感じて不愉快になるのだが、人事で決定された以上は、少年のだ環境を改善しておくにはしくはないのだった。武官補の人選は、ルイ・マシュンゴ准尉にきまった。査問会のときにも片手で一個小隊といわれ、忠誠心、膂力、人格ともにすぐれた偉丈夫である。

それからヤンは、ビュコック司令長官に親書を書くことにした。ユリアンはいったんハイネセンで辞令を受けてからフェザーンに向かうだろうからその際に届けてもらうことが可能であろう。

 

親書には、ローエングラム公とフェザーンとが皇帝誘拐劇の裏で手を結んでいる可能性を指摘した。皇帝一派が無能には程遠いはずのローエングラム公の警戒網を潜り抜けて、フェザーンの旅券を持って亡命してきたこと、そして亡命政権を樹立するや否やそれを察知したかのような迅速さで、同盟が外交交渉を試みる余地をなくして宣戦布告を行ったこと、このことからイゼルローンに攻め込むと見せかけて、フェザーン回廊を突破して同盟領になだれ込む可能性が高いこと、それが同盟の虚をつくのみならず、フェザーンを補給基地にし、航路図情報など地理的な不利を補いうることなどで、それに対する対策をねってほしいことを要請し、ワンタイムパスワード付きで許可をクリックすれば自動的に削除される具体的な試案のデータも付け加えた。

ヤンはその試案作成にあたっては、みほとメルカッツ、エリコと密談を重ねた。近い未来、帝国軍が侵攻した暁にその威力を発揮し、耳目をそばたたせずにはおかない仕掛けをふんだんにつみこんでいた。

 


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