Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第126話 ハイネセンからの出向命令です。

「ユリアン・ミンツ准尉を少尉に昇進の上、フェザーン駐在弁務官事務所付き武官に任ずる。10月15日までに現地に着任せよ。」

「ウイリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ中将は、銀河帝国正統政府に軍務尚書として出向を命ずる。10月15日までに現地に着任せよ。」

「西住みほ中将は、首都防衛陸戦部隊司令官に任ずる。同じく、10月15日までに現地に着任せよ。」

 

これを見たとき、さすがのヤンも冷静でいられなかった。フレデリカやみほもヤンの顔を正視できないほどだった。ヤンは頭髪をかきまわし、彼らしくもなく憤怒の表情でベレーを何者かの首に擬してしぼり上げたほどだった。フレデリカはようやく上官に声をかけ、なんとか冷静さを取り戻したヤンが、ユリアンを呼んで、両人にとって不本意な命令を伝えた。

「こんな命令、断って下さい。」

思わず少年は叫んでしまったほどだった。

「ユリアン、お前はもう軍属ではなく正式な軍人だ。国防委員会と統合作戦本部の命令に従う義務がある。いまさらこんな初歩的なことを言わせないでくれ。」

「それなら軍属にもどります。軍属なら人事は現地司令官の意思ですから、こんな理不尽な命令に従わなくていいんでしょう?」

「そんなことができるかどうか判断がつかないお前じゃあるまい。第一、お前は志願して軍人になったのであって強制されてじゃない。当然命令に従う覚悟はもっていてしかるべきだ。」

ヤンの説教は、かっての被保護者で同居人の少年に対し、その表情、口調、言外に語りえないものにおいていくらかの共感と説得力をもったものの、少年はかたちばかりは完璧な敬礼をして、統合作戦本部の命令ではなく、ヤン提督の命令だからフェザーンに着任すると言い残してヤンの執務室を退出した。

 

「西住殿、これは...。」

「みぽりん、これは行かない方がいいよ。」

「わたくしもそう思います。」

以前は遠慮がちながら査問会に応じるように話した華も断固としてみほをハイネセンには向かわせないという表情で話す。

「ありがとう。」

「いい考えがある?」

「エリコさん。」

「トリューニヒトの公邸で起こったことをすべて録音録画してある?」

 

トリューニヒト政権が救国会議から政権を取り戻した時、フェザーン資本の援助を得ているマスコミを強化している経緯があった。トリューニヒトは、マスコミ上層部との会食や法令によって自派の政治家や軍人のスキャンダルを隠してきたが、もはや帝国と裏で手を結び始めたフェザーンの意向もあり、トリューニヒトのスキャンダル情報をフェザーンと帝国にも流すこと、メルカッツ提督だけでなく西住中将も現地から引き離すと、査問会のときのような帝国軍の攻勢が再びあったらどうするのかと脅しをかけた。すると命令の撤回が送られてきた。

 

士官ラウンジで沈んでいるユリアンにみほはみかける。

「ユリアンさん。」

「ミス...西住中将?」

「えっと...いつもの呼び方でいいです...。わたしだけ...ごめんなさい。」

みほはこくりと頭を下げた。ユリアンは両腕を上げ、両手のひらをみほに向けて恐縮する。

「そんなこと...謝る必要ないです。議長は、女の人にやってはいけないことをしたんです。むしろすっきりしています。僕のかわりにやっつけてくれて。」

二人は笑いあった。

「あの、わたし...。」

「?」

「フェザーンには、誰かヤン提督が信用できる人が行った方がいいと思います。高級士官だと目立ちます。先日ラインハルトさんの演説があったときにシェーンコップ少将とメルカッツ提督とお話したことがあって...。」

みほはその経緯を話した。

「あの、ラインハルトさんは、皇帝を誘拐した人たちがフェザーンから同盟に入っていくのを知っていたように思います。だからあんなに早く演説ができたんです。ということは、わざわざイゼルローン回廊を使わなくても同盟領に入れる手段があるかもしれないって思ったんです。」

「それって、さっき話していたようにフェザーン回廊ですか。」

「はい。」

「あの、もっと詳しく話していただけませんか。」

(これから先はヤン提督にお話ししてもらうべきこと。わたしはそのお手伝いをするだけ...。)

みほは、いくぶん話をそらす。

「あの、統合作戦本部や国防委員会はヤン提督の所にメルカッツ提督や私がいることで軍閥化することを怖がっているんだと思います。そんなことないのに。」

「そうですよ。イゼルローンの守りが弱くなるだけです。」

「だからヤン提督も理不尽で許せない命令と思っても、この機会をつかって自分が最も信頼できるユリアンさんにフェザーンに行ってもらいたいと考えたと思うんです。」

「そういうことですか...わかりました。ヤン提督と話してみます。」

ユリアンの顔はいくらか明るさをとりもどした。

 

ユリアンは、植物園でベンチに腰かけていたところ、ふと気配を感じ、ヤンが片手で缶ビールを持ちながら和解を求める様な表情でたたずんでいるのを見た。

「提督...。」

「ああ、座っていいかな、ここに...。」

「どうぞ。」

「なあ、ユリアン。」

「はい、提督。」

「お前をフェザーンにやるのは、何よりもそれが軍の命令なのは確かだが、信用できる人間にフェザーンの内情を見てきてもらいたいという気持ちがあるんだ。この時世だからね。」

「あの、西住中将から聞きました。このあいだの皇帝誘拐と正統政府ができたことに対してあれだけ迅速に対応してローエングラム公があの演説をしたとき、ヤン提督もフェザーン回廊からの帝国軍侵攻を予想なさったんでしょう?」

「そこまで聞いているのか...話が早いな。で、イゼルローンにはどうすると思う?まあ、ヒントを与えるとすれば、ミズキ・エリコ中佐のおかげで昼寝できるなあと思ったんだけどね。」

「提督!」

「冗談だ。でユリアンはどう思う?」

 

「あの、ミス・ニシズミがいるほうがいいということは、イゼルローンも無事ですまない可能性があるということですよね...。」

「そうさ。イゼルローンに対しては大規模な陽動部隊を送ってくる可能性が強い。ただ分かっていることは、この場合、用兵の迅速さは必要ないってことさ。」

「では、提督はだれが来ると?」

黒髪の学者風提督は、少し頭をかきながら答えた。


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