Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第125話 金髪さんの宣戦布告です。

「閣下、ローエングラム公ラインハルトが全帝国、全同盟に演説するようです。メインスクリーンに映しますので至急中央指令室へおいでください。」

 

メインスクリーンには、獅子のたてがみのようにすらみえる金髪の若者の姿が映し出される。

若者の蒼氷色の瞳の奥には、見る者を戦慄させずにはおかない苛烈な雪嵐を思わせる激しさが宿っている。ラインハルトが口を開くと純然たる傍観者でいられれば、それは音楽的にまで流麗な声が鼓膜を心地よく刺激するにとどまったであろうが、その内容は、苛烈そのものであった。

「わたしは、ここに宣言する。不法かつ卑劣な手段で幼年の皇帝を誘拐し、歴史を逆流させ、ひとたび確立された人民の権利を強奪しようと図る門閥貴族の残党どもは、その悪行にふさわしい報いを受けることになろう。彼らと野合し、宇宙の平和と秩序に不逞な挑戦をたくらむ自由惑星同盟と称す叛徒の野心家どもも同様の運命を免れることはない。罪人に必要なのは交渉でも説得でもない。ただ力のみが彼らの蒙を啓かせる。すなわち彼らの誤った不逞で愚かな選択は、正しい懲罰によって矯正されるのだ。今後どれほど多量の血が流れることになろうとも、責任はあげて愚劣な誘拐犯と共犯者にあることを銘記せよ...。」

ラインハルトの姿がメインスクリーンから消えた。

静かだった司令部がざわつきはじめる。

「みぽりん...怖い....。」

みほは苦笑する。

「武部殿...。」「沙織さん。」「沙織。」

「「「そんなに怖がらなくても...。」」」

「だってわたし第14艦隊旗艦の通信手だよ。旗艦って戦車道でいえばフラッグ車でしょ?狙われるじゃん。」

「武部殿、旗艦というのは指揮官が乗る艦のことで、もともとは17世紀から19世紀の単縦陣で戦った帆船の戦列艦で先頭にいて指揮官が乗っていて指揮官旗が立っている艦のことをそう呼んだんですよ。そして最初の旗艦がやられたら二番目の...。」

「秋山さん、長い。」

「す、すみません。」

 

一方では、シェーンコップがヤンに声をかけていた。

「つまり、ローエングラム公の宜戦布告というわけですな。いまさらという気もしますが。」

「形式がこれで整ったということだろうね。」

「またイゼルローンが最前線となりますかな。迷惑な話だ。この要塞があると思うから首都のお偉らがたは平気で愚行を犯す。いささか考えものですな。」

ヤンは一瞬何やらいいたげに口を動かしかけた。みほはそんなヤンをみて微笑を浮かべてうなずく。ヤンも苦笑してうなづきかえす。

 

「あ、あの...シェーンコップ少将」

「ミス・ニシ...コホン、西住中将?」

「ローエングラム公は、必ずしもイゼルローンを攻めないんじゃないかなと....。」

さすがのシェーンコップも思考の切り替えができないようだった。

「まさか、いや、そうか...。」

そうつぶやくと、同時に初老の提督の口から独特のだみ声が発せられる。

「なるほど....。」

「メルカッツ提督?」

「ヤン司令官も西住中将も同じことをお考えになったということですかな。すなわち、ローエングラム公はフェザーン回廊から攻めてくる可能性があると...。」

老練で知られる亡命の客将はかすかな笑みを浮かべてつぶやく。

「はい。」

みほはうれしそうに答える。

「さすがですな...そこまではっきりと...。」

シェーンコップは舌をまいた、という感じで応じる。

「わしもヤン提督のところへおうかがいする機会がなければそこまでは考えつかなかった。平時であれば帝国の一艦隊指揮官としてある程度の業績を残して大過なく生涯を過ごしたのだろうが...。」

「閣下...。」

「シュナイダー大尉、『友情は瞬間が咲かせる花であり、そして時間が実らせる果実』だそうだ。銀河系有数の名将の座右の銘とのことだが...。」

メルカッツは一見眠たげに見えるがおだやかな視線をみほにむけてかすかに笑みを浮かべる。

みほはかすかにほおを赤らめる。

「それは、誰の...。」

シュナイダーは、メルカッツの視線の先を見ようとするがはっきりわからない様子だった。

「卿は、わしが有意義な仕事ができるよう亡命をすすめてくれた。はっきりしているのは、われわれは、友情の果実を実らせるように、どこにいようと最善をつくすしかないということではないかな。」

ふたたびメルカッツはみほの方を向く。

「戦車道と言ったかな。「これからも戦っていきたいから...みんなと」。西住中将?。」

「はい。」

みほは、メルカッツが正統政府に加わることを決心したことを悟って、笑みをうかべつつもその目に涙がにじんだ。正統政府に加わったことでイゼルローンに再び戻れるか限らないのだ。

イゼルローンには、国防委員会からさらに「人事の爆弾」が投げ込まれることになる。

 

さて「銀河帝国正統政府」であるが、幼帝エルヴィン・ヨーゼフ二世の気かんぼうぶりには手を焼き、ついに精神安定剤で眠らせることにした。そして、幼帝への面会を求める同盟の政治家や財界人、言論人、また亡命政府への参加希望者は、寝ている幼帝の姿をドア越しに眺めやることで満足しなければならなかった。

やっかいなことに、誰もが理性ではなく感情によって判断と選択を行おうとしていた。感傷によって賛成し、生理的反感によって反対する。皇帝の亡命を認めることが、民主主義の存続と平和の招来にとって有意義であるのか否かといったより本質的な議論はなおざりにされ、賛成する者も反対する者も相手を中傷、罵倒するばかりで説得に手間をかけようとしなかった。

 

同盟政府は、ラインハルトの演説に対し、さらなる軍拡路線をすすめるのに先立ち、軍部に対する遠慮を捨て、政権の影響力を強めるためトリューニヒト閥で軍の上層部をすっかりかためることにした。クブルスリー大将は、病気を理由にした退官に追い込まれた。本部長代行だったドーソンが統合作戦本部長になった。平時であれば、さほど問題にならなかったであろうが、緊急時には最悪に近い人事であることを同盟政府は後に思い知らされることになる。

 

さて、国防委員会によって、イゼルローン司令部に投げ込まれた「人事の爆弾」とは、超光速通信によってもたらされた次のような辞令だった。

 


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