Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第121話 銀河帝国正統政府です。

「メルカッツ提督の意思?問題はないはずだ。これだけの地位を提供しているし、同盟も亡命政権を認めるならば、メルカッツを譲ってくれるはずだ。」

「なるほど...では、軍務尚書の統括する軍隊はどうなさるのですか?」

「亡命者を募って訓練し組織せねばなるまい。問題は費用だが...。」

「費用でしたら問題なく。必要な額を用立てて差し上げますゆえ、ご心配なく。」

「それはありがたい。」

ルパートが狡猾なのは、ここで無償で、と言わないことであった。

ルパートは、閣僚名簿の複写をレムシャイド伯に請うと、快く許可を得られたのでそれをもって、フェザーンのレムシャイド伯の別邸を辞して、シープスホーン地区にある広壮な邸宅の前に地上車を停めて門柱の前のセンサーに右手をさらした。青銅の門扉は音もなく開く。

ホールに客を迎えた女主人は、若者に話しかける。

「今夜は泊っていくんでしょう、ルパート」

「親父の代理としては力不足だがね。」

「馬鹿なことを言わないで。ま、あなたらしい言いぐさだけど。で、お酒にするの?」

「そう、まず酒だ。それと理性のあるうちに頼みごとをしておこうか。」

「なにかしら。」

「デグスビイという地球教の司教がいる。」

「ああ、知ってるわ。顔が異様に青白い。」

「奴の弱みをにぎりたい。」

女主人は、少々けげんそうな顔をする。

「味方にでもするの?」

「ちがう。手下にするんだ。」

「奴は禁欲主義の権化のようにみえるが、それが本物かどうかだ。偽物なら付け入るスキは十分にあるし、本物であっても時間をかければ変えることができるだろう。」

「かかるものはもうひとつあるわ。費用よ。出費を惜しんでいい結果だけ求められても困るわ。」

「心配するな。必要なだけ出してやる。」

「補佐官の給与ってそんなにいいの?ああ、いろいろ役得があるって言ってたわね。それにしても地球教だの亡命貴族だのにぎやかなことだわ。」

「百鬼夜行さ。この国ではいつだって誰かが誰かを利用しようとしている。俺は誰かを利用するが、その逆はごめんだ。」

ルパートは、緋色の酒を空のグラスに注ぐと氷も加えずに口の中に放り込むように飲んだ。

胃と食道に燃えるような刺激を感じた。最後に生き残るのは俺だと信じたいと感じていた。

 

さて、レムシャイド伯らに伴われて、皇帝エルウィン・ヨーゼフⅡ世が自由惑星同盟領に至ったのは、宇宙暦798年7月であった。

「こちら、フェザーンの貨物船ロシナンテ。寄港の許可を願います。」

「こちら自由惑星同盟、イレデンタ星系管制局。了解いたしました。指示に従って降下してください。誘導電波を送ります。」

イレデンタ星系は、フェザーン回廊出口からもっとも近い同盟領の星系で、入国管理局がある。

ロシナンテの船長ボーメルは、これでヤマネコのような「気かんぼうの大貴族のガキ」を追い出せると思い、胸を撫で下ろしていた。入国管理官は順番にパスポートを見ていったが、七歳の子供のそれを見て驚いた。

さすがに、エルウィン・ヨーゼフ・フォン・ゴールデンバウムが何者か知らない者はいない。敵国の皇帝だ。何が起こったのか...。

「主席管制官...これを....」

「!!...た、だだちに首都へ伝えろ!至急伝だ!」

「ぎ、議長、至急伝です。実は...。」

「なに...銀河帝国の皇帝が亡命?」

「はい。」

「ふうむ。アイランズ君をよびたまえ。」

「トリューニヒト議長、いかようでしょうか。」

「アイランズ君。これを見てくれたまえ。」

「!!」

さすがのアイランズの瞳孔もおどろきで大きく開かれる。

「そうだ。銀河帝国の皇帝自ら亡命してきたということだ。」

「で、わたしは何をすれば...。」

「統合作戦本部次長のドーソン君に伝えて保護させたまえ。クブルスリーに任せたら帝国につきかえすなどというつまらない常識論をいいかねない。これは政治なのだ。最大限に政治的効果を上げて次の選挙につなげるのだ。銀河帝国の皇帝すらもこの自由の国に庇護をもとめてきたと。」

「はい。わかりました。」

実は、ドーソンはこの手の秘密保持の業務については有能だった。

また、当初タスクフォースとして臨時に帝国憲法起草委員会が設けられ、生存権、議会の設置、主権在民、女性の権利などをもりこんだ憲法をつくってほしいと正統政府に要求したものの、帝国の国柄に合わないなど拒否され続けたので、結局ドーソン自らが説得に当たった。愚かなことに同盟政府は、帝国正統政府で立憲化され、同盟の傀儡であるゴールデンバウム朝が復活できるような気になっていた。あとで貴族連中をすげかえればいい、とにかく今は説得しないことには話にならないと、レムシャイド伯にドーソンはこう提案した。

「レムシャイド閣下。あなたがたを亡命者として受け入れているわけですが、帝国政府として復活した際に、皇帝の専制政治にもどすための亡命政権ということであれば賛成できかねますな。いまのあなたがたのいう「金髪の孺子」が独裁をしているのと変わらないことになります。」

「では、どのようにすればよろしいとおっしゃるのか...。」

「わが自由惑星同盟は民主国家です。憲法にあたる同盟憲章で、皇帝や独裁者が現れないようにしているのですよ。実際、皇帝や貴族中心の制度だから不満が募ってローエングラムの独裁が生み出されたのでしょう。そのようなことがおこらないためにも憲法が必要なのですよ。」

レムシャイド伯は、同盟も金髪の孺子に使嗾されて救国会議ができたではないか、と言いそうになるのをこらえた。ここで相手の機嫌を損ねてはいけないので黙っていたが、質問はせざるを得ない。

「そんなことをして神聖不可侵の皇帝陛下の、国体の護持を侵すようなことにならないでしょうか。」

「問題ないでしょう。現に閣下は閣僚名簿を作っておられるではないですか。憲法を定めて、この閣僚で政治を行えばいいのです。我が国にも平民の癖に戦争に参加したくないなどと身勝手な主張をする者どもがいます。国家あってこその権利ということがわかっていない愚か者どもです。あなたがたであれば皇帝陛下の神聖性を侵すことはないのでしょう。」

「それに選挙制度も工夫すればよろしい。教養と伝統をもつ貴族の皆さんがまずは政権を担い、平民に対しては範をたれる。そうすれば前進になります。まずは、われわれの民主国家の制度のほうがすぐれていることを示していただきたい。その協力は惜しみません。」

「わかりました。どうやら、金髪の孺子の力をおさえるにはほかに手段がなさそうだ。」

「ご理解いただけてなによりです。」

このような議論が三週間続いてようやく決着をみた。


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