Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第120話 なにやらごそごそやってます。

早朝の軍議を終えて、おさまりの悪いはちみつ色の髪の青年提督は、彼にとっては最も親しい友人でもある金銀妖瞳をもつ細面で黒髪のイケメン提督に話しかける。

「どうだ、うちへ寄って朝食をとっていかないか?」

「そうだな。ではあつかましいがそうさせてもらうか。」

「素直なことはいいことだ。」

「...たまにはな...。」

「それにしてもローエングラム公がこの大事に動じていらっしゃらないのはさすがだな...。」

ロイエンタールは、あいづちで返した。

「遠からず出兵があるかもしれんな。」

「ああ。卿もそう思うか。」

しかし、あの難攻不落のイゼルローンをどう攻略するつもりなのか、しかもあそこには、ヤン・ウェンリー、ミホ・ニシズミ、メルカッツという同盟最強の名将たちが待ち構えている。

しかし、双璧と言われるかれらでもフェザーン回廊を通過しての侵攻作戦には思い至らなかった。それを察していたのは、彼らが意識していたイゼルローンを守る魔術師、歴史家志望の学者風提督と栗色の髪の小娘であった。

さてフェザーン自治領主府では、禿頭の自治領主アドリアン・ルビンスキーが、細面の美男補佐官ルパート・ケッセルリンクから、幼帝とその誘拐者は、帝国憲兵隊の捜査網を潜り抜け、フェザーンの貨物船ロシナンテの密航専用室にいてフェザーン本星に向かっている。フェザーンで

は、レムシャイド伯らが自由惑星同盟領にはいったところで亡命を申し込む手はずになっていることを説明した。

「ふむ。ローエングラム公だが皇帝がいなくなったからといって、まだ自ら玉座に着くまい。だれか傀儡を立てるだろう。」

「私もそう思います。同盟を滅ぼすか、致命的な一撃を浴びせないうちは自ら皇帝に登極しないでしょう。」

「ケッセルリンク。」

「はい。」

「ボルテックは、金髪の孺子にフェザーン回廊の帝国領海並の自由航行権を要求されたそうだ。」

「はい。」

「金髪の孺子、なめるものではないぞ。」

「しかし、ボルテックの身柄はあのオーベルシュタインの手の者に守られています。」

ルビンスキーは不敵に笑い、指を鳴らした。

「アーリマン書記官。」

「!! どうして...。」

「こやつは同盟でこのたび左遷されたネグロポンティと組んでいたのに裏切った。だからリークがあったということだ。」

「うう...。」

「そろそろ明け渡した方が身のためだぞ。まあ今回はご苦労だったな。凄い奴を連れてきてくれたようだしな。」

「いっぺえ金くれるのか。」

「この者は?」

「地球のはるか過去、まだ西暦の時代、東洋の島国の山奥から連れてきた者らしい。」

「金ならたくさんやる。」

ルビンスキーは黒づくめで眼だけを露出された軽業師のような若者に声をかける。ラインハルトの写真を見せた。

「ニヒト殿。こいつを殺せ。」

ニヒト(無い)といわれた黒ずくめの軽業師のような男はほくそえむと姿を消した。

ルパート・ケッセルリンクは自治領主府を退出すると首都から半日行程のイズマイル地区にレムシャイド伯を訪れた。ランズベルク伯アルフレットらが。皇帝救出に成功したとの報を聞くと

「大神オーディンにもご照覧あれ。やはり正義はこの世にあった。」

と狂喜と言わんばかりの喜びようで、

「八十二年物の白ワインをもって参れ。」

と命じるとルパートの方へ向き直り、

「補佐官にはご協力を感謝する。今宵はこの喜びを分かち合おうではないか。」

とうれしそうに話しかける。ルパートはあくまでも冷静に

「閣下、恐縮ですが、くれぐれも皇帝救出の件は、自由惑星同盟に認めさせるまでは、くれぐれもご内密に願います。」

「わかっておる。補佐官には迷惑をかけない。ところで、亡命政府の閣僚リストをつくってみたのだ。応急な物なので不備な点も多々あるが...。」

「それはそれは、迅速な処置というべきで......よろしければリストを拝見させていただけますか?伯爵」

ルパートは、相手が見せたがっているのを承知で、その手に乗ってやった。レムシャイド伯は、白ワインで上気した顔で相好をくずした。

「うむ。本来は補佐官がおっしゃたとおり亡命政府ができるまでは、機密に属することだが、フェザーンには、これからも何かとお世話になることであろうし、正統なる銀河帝国政府の陣容を知ってもらった方がよいであろう。」

「むろん、私どもフェザーンは、伝統ある銀河帝国の正統を受け継ぐ閣下らを全面的にバックアップさせていただきます。政略上、ローエングラム公には弱腰の態度をとらざるを得ないこともありますが、あくまでも面従腹背、わたしどもの真の好意は、つねに閣下らのうえにあるとお考えください。」

ルパートは「銀河帝国正統政府閣僚名簿」を恭しく受け取り、視線を走らせる。

「人選には、さぞご苦労なさったでしょう。」

「なにしろ、亡命者の数は多くとも、陛下に忠誠を誓う者で、かつ一定の能力をもつものとなると限られてくるからな。この顔ぶれなら信用できるし、選ばれた者も信頼に応えてくれるはずだ。」

「一つお訊きしてよろしいでしょうか?」

「ん?なにかあるのか補佐官?」

「閣下が国務尚書として内閣を主導なさるのは当然のこととして、なぜ帝国宰相を名乗られないのですか?」

「それは考えないでもなかったが、補佐官。帝国では伝統的に宰相をおかずに、国務尚書が閣僚の首座として政務をおこなうのが通例で、先代のリヒテンラーデ侯もそうであった。それに倣うという意味と陛下のもとに忠誠ある帝国貴族を糾合するためには、あの不逞な輩、金髪の孺子と違い、私心がないことを示して、帝国の伝統を尊重して正統性を示すために立ち上がったことが自然に伝わる形をとったのだ。宰相になるのは、陛下を奉じてオーディンにもどってから、その功績をもって正式に任命されたいのだ。」

「なるほど....全宇宙に自らが正統な帝国宰相と名乗るほうが...などとわたしなどは考えますが...ところで、今回の陛下救出の功労者、ランズベルク伯とシューマッハ大佐の処遇はいかがなさいますか?」

「むろん忘れてはいない。ランズベルク伯には、軍務省次官、シューマッハ大佐は、提督の称号を与えてメルカッツを補佐させるつもりだ。ともに金髪の孺子と戦ったのだから。」

「メルカッツ提督の軍務尚書...能力の上からは当然のご人選とは存じますが、ご当人の意思と同盟の意向はいかがでしょう?」

ルビンスキーであれば聞き出さないところであるが、才気ばしったところのある若き補佐官は、皮肉を感じさせない口調で訊ね返した。

 


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