Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第119話 未明の軍議です。

さて、数人の侍女が彼らを目撃したが、狼狽するばかりであった。しかし、そのただならぬ態度から宮廷警護の兵士たちが異変に気が付いたときには6~7分経過していた。宮廷警護の新任の責任者ゲルラッハは、宮殿近くに与えられた自宅で寝ていたが、異変があるとの通報を受けて、駆け付けた。

「皇帝陛下は無事か?いずこにおわすのか?」

問われた侍従はしどろもどろだったがようやく

「も、申し訳けありません。なにやら、ぞ、賊が侵入して陛下をさらっていったようでございます。」

と答えた。

「じ、侍従殿、このことは探索が終わるまで他言無用に願いますぞ。」

「はい。」

ケルラッハと侍従は、保身のことを考え始めてお互いに目が泳いでいる。

兵士たちは宮殿じゅうを残留熱量測定装置やスターライトスコープで侵入者の経路を突き止めたものの、ジギスムント1世の銅像の付近で途切れているので、伝説の地下道があるのではと推定するが皇帝像に手をかけていいのかケスラーに問うた。ケスラーは、内心では動揺を禁じ得なかったが、宇宙港の閉鎖、幹線道路の検問、憲兵隊の出動を命じた。

7月7日、午前三時半、帝国宰相ローエングラム公ラインハルトは、ケスラーから皇帝が行方不明である、誘拐された可能性があると思われるとの通報を受けた。

金髪の若者は

(ほう、さっそくやってくれたか。)

と心の中でほくそえみ、着替えて元帥府へ向かう。

元帥府に着くと間もなくケスラーがゲルラッハを連れてやってきて、ケスラーが代表して不逞な侵入者に皇帝を奪われた旨謝罪した。

「ケスラー、私に罪を詫びるより、卿の責務を果たせ。陛下を帝都よりお出しするな。」

ケスラーは、一礼し、憲兵隊を指揮するために退出しようとすると、ゲルラッハも一礼して退出しようとした。

「ゲルラッハ警備隊長。」

「はっ。」

「卿は、退出せぬともよい。執務室で謹慎し、身辺を整理しておけ、思い残すことのないように。」

「なぜ...でございますか。まだ...。」

「わからないのか。卿は、直接貴族連合に加わったわけでないから監禁にとどめ、今の職につけてやったのだ。なのに今回の失態は看過しえぬ。誘拐に協力した証拠こそないが、警備に怠慢だったのは事実だ。異論があるか?」

「ほ、法の加護を...。」

あらかじめケスラーに命じて、逃げださないように控えさせていた憲兵に命じる。

「つれていけ。」

金髪の若き元帥の顔は、くすんだ金髪の美しい秘書官へ向けられ、その口から彼女への呼びかけが発せられる。

「フロイライン。」

「はい。閣下。」

「上級大将と大将の階級を持つ提督たちを集めてくれ。」

「かしこまりました。ローエングラム公。いよいよはじまるのですね。」

「そのとおりだ。フロイライン。」

秘書官である美しい伯爵令嬢に微笑を向けられると、金髪の若き青年元帥も笑みを返した。

元帥府のゴールデンルーヴェが掲げられた謁見の間に提督たちが向かい合って居並び、その中央奥に金髪の青年元帥が立っていた。

金髪の青年元帥は、提督たちを蒼氷色の瞳でながめわたして

「新無憂宮で、さきほどちょっとした事件があった。七歳の男の子が何者かに誘拐されたのだ。」

風もないのに室内の空気が揺れた。さすがの歴戦の勇将たちも息をのんではきださざるを得なかったからだった。

「ケスラーに探索させているが未だ犯人は捕らわれていない。卿らの意見を聞いて今後の事態の発展に対応したい。遠慮なく発言せよ。」

ミッターマイヤーが門閥貴族派の残党が皇帝を錦の御旗として勢力の糾合を図って復活をはかろうとしているのだろう、と発言すると賛同の声が起こる。犯人はだれだろうという声が起こると細面の好男子ロイエンタールが皮肉っぽく金銀妖瞳を光らせ、

「いずれ判明することだ。とくとくとして自分たちの功を誇るだろう。何しろ皇帝が自分たちの手元にあることを公にしなければ誘拐の目的が達成されないのだからな。」

「卿の言うとおりだと思うが、そうなれば我々の報復を促すことになるだろう。やつらはそれを承知しているのだろうか。」

「当面は我々の追及をかわす算段があるということか?」

「その自信の根拠は何だ?辺境に人しれず根拠地を気づくつもりなのか...。」

「そうなると第二の自由惑星同盟ということになるが...。」

そのとき冷厳な声が銀髪の総参謀長の口から発せられた。

「第二と言わず、自由惑星同盟の存在をこの際考慮に入れるべきだろう。」

「自由惑星同盟が...そんなことがありうるのか...。」

「門閥貴族の残党どもと共和主義者とでは、水と油に見えるが、ローエングラム公が覇権を確立するのを妨害するという一点で野合しないとは限らない。いまだから言うがその危険を避けるために昨年のリップシュタット戦役の間に奴らを分裂させる工作を行ったのだからな。自由惑星同盟もローエングラム公が帝国の事実上の支配者であることは伝わっておろうし、その力を弱めることができるのは魅力的だろう。それから犯人たちに対してもそう簡単には攻撃できない。」

提督たちにとっては、さすがに反動的な守旧勢力と共和主義者が手を結ぶなど意表をつくことであった。しかし、オーベルシュタインの言う通り目先の判断で野合する可能性もありえないことではないのも否定しきれず、空気は緊張を帯びた。

「ロイエンタールの言うように遠からず陛下の所在は明らかになろう。いま性急に結論を出すのは避けたいが、もし、自由惑星同盟を名乗る叛徒どもがこの不貞な企てに加担しているとすれば、奴らにはその代償を支払わせる。奴らは一時の欲に駆られて大局を誤ったと後悔に打ちひしがれることになろう。」

「皇帝不在の間は病気ということでとりつくろう。また国璽は宰相府にありさしあたって国政に支障はない。卿らには私から二つだけ要求する。ひとつは、皇帝誘拐の一件を口外せぬこと、もうひとつは、いつでも麾下の艦隊を出動できるよう後日の急に備えること。この二点だ。他のことは必要があり次第、追って指示する。夜も明けていないのにご苦労だった。解散してよろしい。」

 

提督たちは、きびすを返して退出するラインハルトを見送った。

 

 


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