Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第118話 「忠臣」たちによる「少年」の「救出」です。

一方、敵から「金髪の孺子」と呼ばれている、いまや帝国の政軍双方の実権をにぎる若者は、幕僚たちと今後起こりうる「忠臣による暴虐なる野心家からの皇帝の救出」について対策を協議していた。

「禿頭の黒狐めがやりそうなことですな。脚本と演出を担当して、踊るのは他人というわけですな。」

「舞台に立ては客席から狙撃もされよう。そういう危険は他人に冒させて舞台裏からたまに糸をひく程度ですまそうというわけだ。」

「で、どうなさいます?例の子どもは、「救出」させるおつもりですか?」

「そうだな。やらせてみるのも一興だろう。」

「宮殿の警備は手薄になさいますか?」

「その必要はない。手薄にしたらしたでさわぎたてる輩がでてこようし、今でさえ厳重とは言えない。あの程度の警備で、あの子どもひとりを誘拐できぬ輩と手を組めるか。」

「そうだ、オーベルシュタイン。今更だが忠義に燃えるへぼ詩人どもを引き続き監視して、万一フェザーンが口封じのために始末しようとしたら助けろ。」

「御意。助けておけば何かと役に立ちましょう。」

「まあ、今は様子をみるしかあるまい。しばらくはへぼ詩人たちの愛国的行動とやらを高みの見物と行こうか。」

「それは結構ですが...。」

義眼をひからせて鬢髪の参謀長は小さく咳払いをする。

「もし皇帝が誘拐されれば、宮殿の警備責任者は、当然ながら罪を問われることになりますな。モルト中将には生命をもってあがなってもらわねばなりますまい。」

「そのことだが、あの男を殺すのは惜しいし、その必要はない。以前の副宰相ゲルラッハを卿の部下が監視しているだろう。やつに宮殿の警備責任者を命じればよい。お前の罪を赦して、晴れて復帰させてやる、皇帝を守り、不逞の輩を捕えて始末するための名誉ある任務だとな。旧体制派にとってはうってつけだろう。それで責任をとらせるのもよし、共謀の証拠があればそれを理由に処断するのもよし。廃物利用にちょうどいい。」

「で、ゲルラッハの直接の上司はケスラーになりますが。」

「ケスラーは得難い男だ。憲兵総監まで重罪になったら兵士たちが動揺するだろう。戒告と減俸、その程度でよい。」

「閣下、お耳汚しながら、一本の木も抜かず、石もよけずに密林に道を切り開くことはできませぬぞ。」

「中学生向きのマキャベリズムなど語るな。その程度のことは承知している。」

「とおしゃいますが、閣下はときとして初歩的なことをお忘れになるように小官には思われます。人類の歴史が始まってこのかた、敵だけでなく味方の多量の屍の上に玉座が築かれてきたのです。白い手の王者などは存在しませんし、ときには死を賜るのも忠誠に酬いる道であることもお考えいただきたいものです。」

「では、卿もわたしのために命を差し出すこともいとわぬというのか?」

「必要とあらば...。」

「よく覚えておこう。もうさがってよい。」

オーベルシュタインは自宅に戻り、執事が夕食のワインの銘柄についてたずねると

「いや、もう一度ローエングラム公から呼び出しがあるはずだ。アルコールはやめておこう。料理も軽いものでよい。」

オーベルシュタインが軽い食事をすませたころ、ヴィジホンが鳴って、ラインハルトの主席副官シュトライトの肩までのすがたが映し出される。

「総参謀長殿。ローエングラム公が至急のお召しです。公は元帥府においででですのでご出頭願います。」

オーベルシュタインが元帥府に出頭すると、若き金髪の帝国宰相は

「...ひとつ忘れていたことがある。」

とひとことつぶやくと前置きもなしに用件をきりだす。

「なにごとでございましょう。」

「意外とは言わさぬ。予期していなければこんなに早く呼び出しに応じられまい。」

「おそれいります。エルヴィン・ヨーゼフ陛下に代わる新しい皇帝の人選お考えにならぬはずはないと考えておりました。」

「卿のことだ。候補者についてなんらかのこころあたりがあるだろう。」

「先々帝ルードヴィッヒ3世の第三皇女の孫がおります。父親はベクニッツ子爵で、昨年の賊軍には参加していません。象牙細工のコレクション以外に何の興味もない男です。女の子ですがこの際女帝もよろしいでしょう。」

「年齢は?」

「生後五か月です。」

「で、どうなさいます?ほかの候補者をさがしますか?」

「よかろう。その赤ん坊に玉座をくれてやろう。子どもの玩具にしては面白みに欠けるがそういう玩具をもっている赤ん坊が宇宙にひとりはいてもいいだろう。二人は多すぎるがな。」

「かしこまりました。ところでペクニッツ子爵ですが象牙細工の代金の一部が未払いで商人から民事訴訟を起こされています。どう処置いたしましょう。」

「原告の要求額は?」

「7万5千帝国マルクで...。」

「和解させろ。宮内省の予備費から金銭を出してやれ。」

「御意。」

オーベルシュタインは一礼し、今度こそ就寝するために退出していった。

 

さてランズベルク伯アルフレットとレオポルド・シューマッハが、帝国博物学協会から南苑の皇帝の寝所に近い場所に出る秘密の地下通路を、酸で溶解して証拠隠滅可能な使い捨て式地上車を使って、目標のジギスムント1世像の足元に出た。通路はそこで行き止まりになっており、アルフレットが皇帝救出の秘密通路の出入りのために先祖から受け継いだという指輪を通路の行き止まり部分の天井に当てると、その低周波で天井が開いた。皇帝の寝所である建物はそぐそばで、二階のバルコニーから二人は静かに侵入した。

二人は天蓋付きのベッドに座っている少年を見つけた。

「陛下…。」

文弱と呼ばれる青年貴族は、感動のあまり声が震える。床に膝を突きうやうやしく拝礼した。

幼い皇帝は、鈍い視線で、若き詩人としても知られる青年貴族に一瞥をくれたが、やがて、ふたりを傍観している青年軍人を指さして

「この者はなぜひざまづかぬのか。」

と糾弾するような甲高い声を発した。アルフレットはシューマッハに皇帝にひざまづくように半ば命令口調でうながし、シューマッハは片膝をついた。アルフレットは「少年」にここから脱出するよう数度にわたってうながしたが、「少年」にとっては他人事であり、ぬいぐるみを引っ張りまわしているだけだった。やむをえず、二人は、いやがるきかんぼうな「少年」を背後から抱きかかえて、口をふさいで、かかえて逃走しようとした時だった。守り役の侍女が現れたが、二人を見て、銃口を突きつけられると、へなへなと床にくずれおちた。


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