Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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アイランズの初仕事は軍事物資の輸入に伴うリベートとフェザーン企業へのトンネル会社による入札の談合だった。


第114話 裏舞台の暗闘です(その3)。

「だからヤン・ウェンリーかミホ・ニシズミの片方だけでも辞めさせたいが、ヤン・ウェンリーやミホ・ニシズミが政界に進出したらあなた方の権力の牙城を脅かしては困るというのも本音でしょう。」

「いや、ヤンとかミホ・ニシズミとかというのではなく、とにかく軍人の政界進出を抑制したいのです。ルドルフの先例もあったことも弁務官、あなたもご存じのはずだ。救国会議のようなことが起こっては、我が国が安定した民主国家でなくなり、あなたがたフェザーンも困ることになるのですぞ。」

「それなら規制する法律を作ればいいことです。理屈は何とでもつけられるし、強行採決だの騒ぎ立てるマスコミも結局はなにもできないでしょうし、デモなんかされても痛くもかゆくもないでしょう。いざとなればデモも法令の解釈なり、運用ひとつで取り締まればいいことです。それに憂国騎士団という便利なものを使えばあなたがたは手を汚さずにすむでしょう。」

「おっしゃるものですな。」

「軍人の専横を抑えるのは、ネグロポンティ氏でなくてもよい。査問会の性格や査問会でヤンに論破されたことがばれたらというのがあなたの建前でしょう。まあこれからも仲良くやっていきましょう。」

二人は握手して部屋を出た。

アーリマン書記官と呼ばれた男は、再び西洋風の兜をかぶった。

 

さて5月末、フェザーン自治領主執務室。自治領主は、若き補佐官を呼んだ。

「ケッセルリンク。」

「はい閣下」

「例の計画の準備整っているだろうな。」

「万全です、閣下、」

「ふむ。ではさっそくやってもらおう。実行グループに伝えろ。」

「かしこまりました。それにしても...。」

「何だ?」

「この計画が成功して、ローエングラム公ラインハルトとヤン・ウェンリーが全力を挙げて衝突したらどっちが勝つのでしょうか?」

「わからんな。同盟には、メルカッツ、ニシズミ・ミホ、ウランフ、ビュコックがいる。帝国には、ミッターマイヤー、ロイエンタールがいる。興味深く思わんか。」

「それはおっしゃるとおりですな。それはさておき、実行部隊に命令を伝えてまいります。」

「うむ。よろしくたのむぞ。」

細面の若き補佐官は、画像送信機能をあらかじめ切ってから、ヴィジホンの電源を入れ、受信を確認してから命令を伝える。

「こちらはオオカミの巣。たった今フェンリルは鎖から放たれた。繰り返す。フェンリルは鎖から放たれた。」

 

元銀河帝国軍大佐レオポルド・シューマッハとランズベルク伯アルフレット。

前者は、門閥貴族連合軍のフレーゲルの副官とし戦ってきたが、フレーゲルの「滅びの美学」に付き合いきれんと、横暴な雇い主を部下とともに射殺してフェザーンに亡命し、アッシニボイヤの農園づくりに部下とともに汗を流していたが、ある日、この「計画」に加わらないと作物は売らせない、部下たちにも報復するというルパートによる半ば脅迫を受けて、その「計画」とかいう陰謀に加わったのだった。

後者は、門閥貴族連合軍に、貴族的な価値観によって単純に加わったものの、資金こそ多少提供したものの、私設艦隊もなく詩作にふけるのみであったため、無力であったことが幸いしてフェザーンに亡命することができた若い貴族である。

「行こうか、大佐。」

アルフレットがうながすとシューマッハは頷き、二人はフェザーン宇宙港から宇宙船に乗り込み、数週間後、オーディンに到着すると、二人は、書記官グラズノフに案内されたホテルに入った。アルフレットは久しぶりの帝都での食事を楽しんでいた。

「帝都の黒ビールの豊潤なこと、フェザーンではそうはいかないからな。」

「失礼ながら伯爵閣下。その黒ビールを製造しておりますのはわがフェザーンの資本で運営されております。このホテルもフェザーンの経営でして、それだけに秘密も守れるし安全であるというわけですが...。」

「ちっ。」

シューマッハは、いちいちアルフレットの気分を損ねる書記官グラズノフに不快さを感じ、舌打ちした。

「いやァ、余計なことをいいましたかな。それでは上司からの指示はお伝えしました。決行の日などは追って連絡します。」

「書記官殿。ボルテック弁務官殿にはご協力感謝するとお伝えください。」

「?大佐食事をしないのか?」

「ちょっと用を思い出しまして。すぐに戻ります。」

「やれやれ、落ち着かん男だな。」

シューマッハは、グラズノフと同じエレベーターに乗り込み銃をつきつける。

「話してもらおうか。ボルテック弁務官はほかにも何か言っていただろう。」

「報酬のことか。それでは我々ではなく、フェザーンにいるレムシャイド伯が貴官らに提督の称号をさずけると...」

「そんなことではない。このオーディンに来て実感した。社会が変わったのだ。それも綱紀が粛正され、良い方向への改革がなされている。

旧王朝の忠誠心に燃えるランズベルク伯やレムシャイド伯はともかく現実主義者のフェザーンが真にたくらんでいるのは何だ?」

「それは、ローエングラム公の改革がわれわれの権益を損ねるから...」

「それだけか?まさか我々をそそのかしておきながら、その情報を流してローエングラム公に恩を売る、そんなことを考えているのではあるまいな?どうなんだ?」

「そんなことはない。この計画は成功させる。われわれがそれを目指しているのにウソ偽りはない。大佐、貴官こそ裏切るつもりではなかろうな?」

「そうだ、と言いたいところだが、この計画にはフェザーンにいる部下たちの安全と生活がかかっている。それにやる以上は成功させる。それは武人としての私の矜持だ。」

「ならば結構。われわれの目的と利害は一致している。貴官らを信頼して実行を任せているのだ。こちらの支援も信頼してもらいたいものだ。」

「その言葉、高等弁務官の口から直接聞きたい。」

「何?無茶だ。わたしが来ているだけでも危ない橋を渡っているのに。」

「方法はこちらから連絡する。いやとはいわせん。いいな。」

シューマッハはグラズノフの喉元につきつけた銃を突きあげる。

「わかった。とにかく上司に伝える。」

「お互いのためにも良い返事を期待している。それからあまり余計なことを言って伯爵の気分を壊すのは控えてもらいたいものだ。」

シューマッハは、グラズノフを解放した。


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