Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第12章 誘拐?救出?事件です。
第112話 裏舞台の暗闘です(その1)。


惑星フェザーンは夜になっても都市の明かりが宇宙空間にまで輝いて見える。

ひときわめだつ自治領主府の建物も例外ではなく、人類社会の中枢の一つであることを物語る。

自治領主の執務室では、若き細面のイケメン補佐官ルパート・ケッセルリンクが自治領主ルビンスキーに帝国、同盟、フェザーンの勢力比に変化が訪れたことを報告している。

「正確な数値は明日までに出しますが、ざっとみて帝国47、同盟35、わがフェザーンが18といったところでしょうか。」

「ふむ...。」

「アムリッツアの大敗がなければ同盟の国力もここまで落ち込まなかったでしょう。イゼルローンを占領した時点で平和攻勢にこそ出るべきだったのです。そうすれば帝国の旧勢力と新勢力を手玉に取って有利な外交成果を上げることもできたはずです。にもかかわらず成算のない軍事的冒険にでて挙句がこの醜態。彼らの愚劣さときたら犯罪的ですな。」

「同盟はあれほどの大敗とわれわれの自由貿易及び経済連携協定で食い荒らされているにもかかわらず、まだ国力はぎりぎり底をついていないのだな。」

「それについては、例のチームあんこうの力で、壊滅的に近い大敗を喫したにもかかわらず、ウランフ、ボロディンなどの名将が生き残り、将来に希望を残し、かろうじて全面崩壊までは免れたことが大きいでしょう。」

「ミホ・ニシズミか...。」

円グラフの横にみほの顔がスクリーンに映し出される。

「帝国は、ドラテイックに改革されつつあり、48、40、12の勢力比だった時代にくらべて財政は健全化され、質的にも量的にもその勢力は大きくなっています。しかし、それは旧門閥貴族からの貴族資産が政府に移転され、集中化された成果でもあるので、キルヒアイス提督、ビッテンフェルト提督が亡くなって、われわれが同盟の救国会議やトリューニヒト政権の復活によって勢力規模を拡大したことによる副産物で相対的に微減しているにすぎないので、そこの点は注意しておく必要があります。」

「そうだな。ある程度同盟が生きていてくれた方がわれわれの狙いを隠すためにも有効かもしれん。帝国の矛先を同盟に引き付けておくためにもあの栗色の髪の小娘が同盟にいることは大きい。」

「その姉とおもわれるマホ・ニシズミが帝国にいることは?」

「ふむ。その姉とその副官格にすぎないイツミとやらは、二人そろって強化されたビッテンフェルトとして補充されたということだろう。同盟の栗色の髪の小娘は、ヤンに僅差でひけをとるようだがなかなかの智将だ。ミュラーと強化ビッテンフェルトを同時に相手にしてイゼルローンを守り切ったわけだ。ところで補佐官」

「はい。」

「君は私に隠し事をしているな。」

「と、いいますと?」

自治領主の口からは意外な人物の名が飛び出した。

 

「アリス・シマダはどうした?」

自治領主の余裕ありげの眼光が細面の青年補佐官をとらえようとこころみるが、対象となった青年はこともなげにするりと答える。

「ご存じだったのですか。あの時代に戻しただけです。キルヒアイス提督が亡くなったので。」

「総大司教が別人に感じられたのでな。アリス・シマダは、あの栗色の髪の小娘に対抗できる人材だった。帝国と同盟の勢力比に影響をあたえるほどのな。」

「それと総大司教となんの関係が?」

「ふむ。わしをなめてもらってはこまるな。この女やこの男たちを知っているだろう。」

ルビンスキーは。ゼフィーリア、エリオット、ワルフ仮面の写真をルパートに見せる。

「...ご存じだったのですか...。」

「これでわしも、補佐官に手の内を見せたことになったがな。それはまあいい。同盟がヤン、メルカッツ、小娘の力で土俵際で粘っているところをじわじわ蝕んで、帝国にその権益を認めさせる。駒は多いことにこしたことはないのだからな。」

「心得ております。ところで帝国の技術総監シャフトはどうしますか。」

「わかっているだろう。」

「例の書類が自然な形で、帝国司法省の関係者に入手されるよう手筈を整えてあります。」

ルビンスキーはうなづき、

「われわれへの要求が多くなるばかりで役に立たない廃物だ。ほうっておくと下水がつまってしまうからな。」

と補佐官にさっさと処理しろといわんばかりの口ぶりで語る。

「かしこまりました。」

「それはそれですんだな。ところで明日は君の母親の命日だったと思うが休んで構わないぞ。」

「これは望外の至りです。プライベートなことまでご心配いただけるとは...。」

「当然だろう...自分の血を分けた相手と思えばな。君の母親には悪いことをしたと多少なりとも思っているのだ。」

「気になさっていたのですか。」

「ああ、ずっとな。」

「それを聞けは母もあの世で喜ぶでしょう。代わってお礼を申し上げます。ただそれほどお気になさる必要はなかったのですよ。その日の食事にも困る貧家の娘と宇宙全体の富の数パーセントを握る富豪の娘。わたしも閣下の立場でしたら同じ選択をしたでしょうから。」

「...大学院を出たばかりの青二才にすぎないわたしを補佐官の重職につけてくださったのはひとえに父子の情愛に基づくものなのですか?」

「そう思うか?」

「そうは思いたくありません。わたしは自分の能力に多少の自信はもっています。そこを買っていただいたと信じたいですね。」

「ふむ。君はわたしに内面が似ているようだな。容姿は母親に似ているが...。」

「ありがとうございます。」

「君も知っているようにフェザーン自治領主の地位は世襲ではない。わたしの後継者になりたいのなら実力と人望が必要だ。大事なことだから二回言うが、時間をかけて、そう時間をかけてそれを養うことだな。」

「おことば、肝に銘じておきます。」

ルパートは、ルビンスキーに表情を読み取られないように一礼したが、同時にそれはルビンスキーの表情を確認する機会を失う結果にもつながっていた。

ルビンスキーは、地上車で走り去る息子の姿をモニターTVで見つめていた。

そして、自分の手でウオッカとトマトジュースをカクテルして、ブラッデイ・メアリをつくった。

「ルパートは俺に似ている...。」

「?」

ルビンスキーは、なにかの気配を感じて身構えた。

 


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