Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第108話 艦隊戦です(後編)

「11時方向に敵艦隊。数およそ一万二千。」

「敵射程距離にはいります。」

「よし計画通りにしてくれ。」

「後退!敵との相対距離をゼロに保て!」

同盟軍は、後退を始める。帝国軍のオペレーターは、スクリーンや索敵システムをいぶかしげにみつめている。

「敵は後退しつつあります。しかし、5分ほど前から相対距離が全く縮まりません。」

ケンプは指揮シートに巨体をうずめたまま考え込んでいたが、ふと考えて質問する。

「敵が縦深陣をしいてわれわれを引きずりこもうとしている可能性はないか?」

「はい。データを確認します。」

数分ほどしてオペレーターたちの意見が伝えられる。

「その可能性は小さいと考えられます。現在至近の敵兵力は前面に展開するものがすべてです。」

「では、奴らの意図は時間稼ぎだ。イゼルローン駐留艦隊の出撃を待って、前後から挟撃するつもりだろう。小賢しい、その手に乗るか!」

「全艦、最大戦速!およそ3分後に射程距離にはいるだろう。」

 

「帝国軍、スピードを上げています。」

「これはばれたかな...。」

 

「敵、射程距離に入りました。。」

撃て(ファイエル)!」

数万とも数十万ともつかない光条が同盟軍を襲い、その豪雨をあびた艦艇が次々と閃光、爆煙をあげて四散していく。爆発による衝撃波が他の艦艇も襲う。

ヤンの乗る巡航艦レダⅡ号も例外ではなくその激しい震動に揺さぶられる。

「閣下!」

「あたた...。」

ヤンは指揮卓から指揮シートへ転げ落ちて、うかつを絵にかいたような姿で、ベレーをおさえて、立ち上がって、指揮卓に座りなおし、

「フォーメーションDを」と命じる。フレデリカが復唱し、オペレーターが命令を伝える。

「全艦隊、フォーメーションD」

妨害電波が激しいため、同盟軍独自の信号によって命令を伝える。

ヤンの艦隊は、円錐に近い輪形陣で突進してくる帝国軍を攻撃する。

今度は帝国軍の艦艇が、上下左右の砲撃を受け著しく数を減らしていった。

「こ、後背から敵襲です!」

帝国軍のオペレーターが悲鳴のように叫んだ。

「な、なんだと...。」

メルカッツ率いるイゼルローンの駐留艦隊は、帝国軍の後背、天頂方向から数十万の光条の豪雨を浴びせる。

「ヘルゴグラント・ツバイフィア撃沈!」

「アルベルト・ドライアイン大破!」

「サラミス・アハトドライ撃沈!」

「デア・クローゼ・ノインヌル通信途絶!」

ケンプの旗艦に被害報告が次々に寄せられる。

ヤン艦隊は、歓声にあふれ、ケンプ艦隊は悲鳴にあふれた。

「フォーメーションEを」

ヤンの艦隊は今度は帝国軍の方向に対して漏斗状の陣形に変化し、ケンプの艦隊は、同一方向からのエネルギーの濁流にさらされた。

ミュラーの心には、絶望の黒いしみがじわじわと広がっていたが、少しでも状況を悪化させないよう鋭い命令を下して、艦列を維持したものの、気が付くと、一万隻を超えていた艦隊は、旗艦以下千五百隻前後にまで撃ち減らされていた。かれらの周囲には十倍の一万五千隻もの同盟軍の艦艇がとりまいている。

「退却するな。退却してはならん。あと一歩だ、あと一歩で銀河系宇宙が我々のものになるのだぞ。」

ケンプの言葉は、たしかに誇大なものではなかった。たしかにイゼルローンが陥落すれば同盟本土にローエングラム公率いる十万隻を超える大艦隊がなだれこむことができる。一方同盟領には、アムリッツアの敗北のため、第一艦隊のほかウランフ、ボロディンの半個艦隊が二つ、あとわずかな警備艦隊があるのみで、二人がいかな名将であろうと支えられるものではない。

しかし、ケンプ自身が敗北を認めたがらなくても、彼の幕僚たちは絶望的なまでの甚大な被害にすっかり気がなえていた。

次々に爆発炎上する味方艦隊をスクリーン越しに見せつけられている彼らの顔は血の気が薄い、次は自分たちの番かもしれないのだ。

「閣下、もはや抵抗は不可能です。このままでは死か捕虜かいずれかがわれわれを待ち受けることになります。申し上げにくいことですが退却なさるべきでしょう。」

参謀長フーゼネガー中将が蒼白な顔で進言する。ケンプは参謀長を一瞬にらみつけたものの、怒鳴りつけても無意味であることを悟って大きく大きく荒い息を吐き、断末魔にあえぐ帝国軍、僚艦が次々に火球に変わっていく様子を苦悶の表情で眺めつつも、必死に状況の打開に指向をめぐらせた。

彼の眼には、流体金属から一部内部装甲が骨のようにむき出しになった巨大な球体が目に飛び込んできた。

「そうだ...この手があった。」

ケンプがそのように呟き、その顔に生色がよみがえってくるのを、フーゼネガーは異常なものを感じた。

「最後の手段があるぞ。あれを使ってイゼルローンを叩き潰すのだ。艦隊戦では負けたかもしれないがまだ完全に敗れたわけではないぞ。」

「あれ、とおっしゃいますと...。」

「ガイエスブルグだ。あのうすらでかい役立たずをイゼルローンにぶつけてやるのだ。そうすればいかなイゼルローンといえどもひとたまりもない。」

フーゼネガーは、疑惑を確信に変えた。

(閣下は何を考えておられるのだ...追い詰められて精神のバランスを崩しておられるとしか...)

「全艦隊、ガイエスブルグへ撤退せよ。」

ケンプは、静かな自信に満ちて、ガイエスブルグへの撤退を命じた。

 

「逸見司令、ガイエスブルグ要塞です。」

戦闘衛星を甚大な被害をだしながらようやく振り切ったエリカの艦隊もまともな戦力を残していなかった。ケンプ艦隊も引き返しており、一万五千隻もの同盟艦隊に攻撃を受ければひとたまりなく秒単位で原子に還元させられるだろう。

「エリカか...。」

「隊長!無事だったのですか」

「ああ、イゼルローンにはあと一万隻弱の艦隊が残っているのでな、ケンプ司令から見張るよう命じられたのだ。駐留艦隊の後背を襲うつもりが逆に襲われる可能性があるからとな。」

まほの艦隊は、トゥールハンマーの射程外ぎりぎりで、みほの艦隊が出てきたときに一挙に叩き潰せるよう布陣していた。実はこのまほは、まほであってまほではない。ゼフィーリアが、Ⅳ号とティーガーが撃ちあった場所に、空間転移で現れて、まほの髪の毛をひろってラボに入った後に出現したまほであり、みほについての記憶のみ再生されなかったまほなのだ。つまり、「妹」をそれと意識せず冷静な判断で容赦なく戦術的に葬れる生身の身体を持った戦闘指揮マシーンなのだった。




※まほであってまほではない。→Cf.第44話参照

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