Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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第106話 ヤン提督、帰還ま近です。

一方、巡航艦レダⅡ号は、二人の少将及び二人の准将に率いられた計5500隻を伴って一路イゼルローン回廊へ向かってパルスワープを繰り返していた。

いよいよイゼルローン回廊にはいったときだった。

「11時方向に敵影!スクリーンに拡大投影します。」

「駆逐艦7隻。哨戒用の小艦隊と思われます。」

帝国艦は数千隻の同盟艦隊の出現に驚いて、逃走するところだった。

「発見されてしまった。これで奇襲はできなくなりましたな。」

「え?奇襲?はじめからそんなものわたしはする気がなかったよ。実は帝国軍がわれわれを見つけてくれて安心しているのだが。」

「まず第一に、これまで帝国軍はわれわれの存在に気が付かなかった。だから今後敵が奇襲に有利な航路を予測できる。次に、帝国軍の指揮官は敵の援軍、つまりわれわれを発見したことで選択を迫られることになる。このままわれわれを放っておいてイゼルローンを攻撃し続けるか、われわれを最初に潰すか、兵力を両方向に向けて二正面作戦をとるか、時間差をつけて各個撃破を図るか、勝算なしとみて退却するか、これだけでもわれわれは有利になったんだよ。」

ヤンは小さく肩をすくめた。

「わたしとしてはぜひ5番目の選択をしてもらいたいものだね。そうすれば犠牲者も出ないし、第一、楽でいい。」

混成艦隊の幕僚たちは単純にユーモアととらえて愉快そうに笑った。

 

「ケンプ閣下。」

「なんだ。」

「イゼルローン回廊同盟側出口付近で、5千から6千隻弱程度の敵艦隊を発見しました。」

「そうか。いよいよだなミュラー。」

ふたりは顔を見合わせてほくそえんだ。

 

「西住殿。」

「優花里さん、エリコさん。」

「敵のヤン提督捕縛用の警戒艦隊の配置を確認した?スクリーンに映す?」

「....。」

「これから艦隊を急派しても間に合わない?」

「しかも敵は機雷網を後方にはっています。」

そのときバグダッシュがにやりと笑みを浮かべてエリコのほうを向く。エリコも何かを思い出したように微笑んだ。

「そんなこともあろうかと考えておいた?ヤン提督に伝えておく?」

 

「ヤン閣下?」

「やはりな。バグダッシュからの秘匿通信で敵の警戒艦隊の配置がわかったんだ。数は5000隻程度、ほぼ拮抗する戦力だ。後背には機雷網でイゼルローンからの攻撃を避けようというわけだ。」

「それと。MN1回路を開いてくれと指示があった。そのとおりにやってくれ。」

「了解。」

 

「閣下。」

「なんだ?」

「イゼルローンより5000隻が出港。!!」

「ヒューベリオンがいます。」

「なんだと。」

「!!」

「何やら通信しています。」

「『十分昼寝させてもらったよ。査問会が大変だったから疲れたよ。いままで守ってくれてありがとう。帝国軍が気付かなくてよかった。さて援軍を迎えに行かなければ...。』??」

「声紋一致、ヤン・ウェンリーのものです。」

「確かに同盟首都に査問会に呼ばれていたそうです。」

「何?ヤンは要塞にいないのではないのか?」

「しかし、この声紋は確かにヤン・ウェンリーのものです。」

「よし、攻撃しろ。」

帝国軍は、ヒューベリオン目指して突撃していった。

それをみほは見逃さない。

「8時の方向、撃て!」

同盟軍は一斉に斉射する。しかし帝国軍も巧みな配列でヒューべリオンを追いかけつつも反撃をしてきた。両軍の艦艇は、火と煙を噴き上げ火球に変わっていく。

「ハンブルク・ツヴェルフ、通信途絶!」

「ダルド・ズイーベン、撃沈。」

「ヒッパー・ツヴァイ、撃沈。」

「ツエンカー・フィルツエン、応答なし。」

「ブレーメン・ノイン、大破。」

「被害甚大です。」

「うぬ。後退だ。」

ミュラーは、被害を出しながらも艦列を整えて後退する。

 

一方、ヤン艦隊を迎え撃っているはずのエリカの艦隊では....

「降伏を呼びかけた敵から通信です。」

「映して。」

「了解。」

画面にはみほの顔が映し出される。

「エリカさん、こんにちは?」

「!!あなたは....。」

「はい。西住みほです。実は査問会に呼ばれていま帰ってきたところです。降伏はしません。」

「確かに、フェザーン経由で「西住中将は3月末にイゼルローンから査問会にかけられるために同盟首都に召還された」との記録があります。」

「いままでとらえた同盟軍捕虜の証言とも一致します。」

「そうだったの...ヤン・ウェンリーではないのが残念だけど....血祭りにあげてやるわ。」

「閣下、まずはケンプ司令に伝えないと。」

「そうね。」

「ケンプ司令、」

「なんだ、逸見少将。」

「こちらの艦隊は、西住みほの率いる艦隊と判明。声紋も一致しています。ただちに撃破いたします。」

 

「どうなっているんだ。」

「ということは、イゼルローンにはじめからヤン・ウェンリーはいた?」

帝国軍艦隊の将兵たちの頭のなかには疑問形があふれた。

 

一方、回廊出口付近では....

「!!」

「閣下?」

「何?これは?」

「敵、西住みほの旗艦です。」

「なるほど、アンコウ型というわけね。」

 

「敵艦隊、1万隻」

「??、哨戒網では5000~6000隻だということだけど...。」

「し、しかし、艦影は1万隻を確認。」

「て、敵が攻撃してきます。」

金属製の球体が一見不規則に動き回ってミサイル、中性子ビームを撃ってくる。

「こ、これは....。」

「戦闘衛星?」

「レーダー反射パターンで艦影に見せていたようです。」

エリカは、歯ぎしりする。

「カストロプやアスターテでも使用された、アルテミスの首飾り...です。」

「550隻が撃沈されました。」

「指向性ゼッフル粒子よ。」

「いえ、動きが不規則すぎてへたに放出すれば、こちらが引火爆発に巻き込まれてしまいます。」

「とにかく、西住みほの旗艦を狙うのよ。ヤンでなければどうなったっていいんだから。」

「はっ。」

エリカ艦隊のの砲撃は、みほの旗艦ロフイフォルメに向けられた。ロフィフォルメは閃光と煙を吐き出して四散したように見えた。

「!!え、映像?」

爆発煙の中から現れた戦闘衛星はエリカの艦隊を激しく攻撃してきた。

「か、閣下、1500隻が撃沈。さらに増加中です。」

 

「ふむ。こういう時に役に立つとはね。しかしバグダッシュも達者なものだ。声紋から合成音声をつくってそっくりな声で通信を流すとはねぇ。」

ヤンは、みほやエリコからマルチスタティック・サテライト・システムの話を聞き、いざ護衛艦が少ない場合のために積ませたのだった。しかも艦艇を偽装するレーダー反射パターンもしこんでいたのである。これは射程距離深く一定程度接近したり、エネルギー中和磁場反応をスキャンしない限りばれないすぐれものだった。欺瞞かどうか判断できた時には、射程に入っていて攻撃されるという寸法である。それに加えて諜報の専門家バグダッシュの工作である。

「じゃあ、逸見嬢にはわるいが突破させてもらおうか。」

「全艦隊、紡錘陣形。一気に突破する。」

「了解。」

 

「て、敵が紡錘陣形で...。」

(だめだわ。もう無理...。)

ヤンは混乱しているエリカの艦隊を突破して回廊の奥へすすんでいった。

「よし、抜けた。」

 

「後ろから狙ってやる。」

「撃て!」

 

「敵後ろから砲撃してきました。」

「フォーメーションJ、それから再度戦闘衛星を。」

「了解。」

ヤンの艦隊は散開してエリカの攻撃を避け、戦闘衛星が、エリカの艦隊を背後から守っていたはずの機雷とエリカの艦隊を攻撃する。

「機雷の爆発に巻き込まれる!後退」

ヤン艦隊の光点は、回廊奥深くへ向かって消えていった。

エリカは下くちびるをかみながら悔しそうに見送るしかなかった。




種明かしは次話前書きにて。

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