Girls und Kosmosflotte   作:Brahma

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今回は都合によりやや短めです。


第103話 要塞対要塞です(その4)。

「エリカ、大丈夫か。」

エリカの旗艦のスクリーンに、りりしい濃い褐色の髪の少女の顔が映し出される。

エリカは感動して、涙をにじませて思わず叫ぶ。

「た、隊長。」

それは、みほの艦隊でも傍受された。

「お、お姉ちゃ...。」

それまで完璧だった、そしてミュラーを押し気味だった同盟軍の艦列に乱れが生じる。

ミュラーはそれを見逃さなかった。

「敵艦隊の艦列が乱れた。画面で指示するからそこを狙って撃て!」

ミュラーの命令は的確だった。みほの築いた精緻な艦列にほころびが生じ、同盟軍の艦列に三か所、四か所と穴が開く。

「ま、麻子さん、お願い。」

みほは我に返って、麻子に命じて艦列を整えさせる。

「なかなかやるな。」

ミュラーは、戦いながらもたちまち修復されていく同盟軍の艦列をみて感心せざるを得なかった。

 

一方、まほの的確な攻撃を受けたメルカッツは、細い目を一層細め、あごをなでた。

「西住まほか。もしかしてあの様子だと西住中将の姉かな。」

シュナイダーが

「そうらしくあります。」と答えると

「さすがだな。」とつぶやく。

しかし、エリカの艦隊とまほの艦隊に的確に出血を強いつつも、整然と後退していく。メルカッツが攻撃をうけつつも被害を最小限にとどめる手腕はまほを内心うならせていた。

(貴族連合の総指揮官だったときいているが、この方がもっと前面で活躍していれば...)

 

ケンプは戦況をながめていた。戦況は膠着状態で、これ以上戦っても意味があるとは思えなかった。まずガイエスブルグから駐留艦隊が出撃できなくさせ、流体金属層を撃ち破ろうとたくらむ敵を駆除する必要がある。

「ミュラー、卿は後退し、ガイエスブルグにたかる蜂どもを駆除せよ。」

「はっ。」

 

「敵艦隊後退していきます。」

「ついげ...」

「敵流体金属層表面にエネルギー反応。」

「急速、後退。」

みほが命じ同盟軍は後退していく。

そのとき、ガイエスハーケンの光の奔流が帝国軍と同盟軍の間を隔てるように、巧みに発射される。

みほ、麻子、エリコの巧みな艦隊運動で、損害は1万隻のうち、350隻程度ですみ、同盟軍は整然と後退する。

 

4月14日から15日の帝国軍の攻勢は、このように失敗に終わり、戦況は膠着状態になっている。ケンプとミュラー、まほ、エリカは顔を見合わせている。

「ヒューベリオンに乗っていたのはメルカッツ提督だそうです。」

「なに...やはり亡命していたという噂は本当だったのだな。」

「そのようであります。」

「メルカッツにあの小娘...。あの小娘は、あの故キルヒアイス提督が賞賛したほどの力量をもっています。やっかいです。」

「しかし、もう一隻は、あの小娘の旗艦だ。ヤンはどこにいるのだ。」

「そのことで軍医から報告が。」

「司令官。捕虜の一人が奇妙なことを申しております。」

「どんなことだ。」

「じつは、イゼルローンには、ヤン司令官は不在である、と...。」

「ほんとうか?」

「内容の信憑性はともかく、瀕死の捕虜が高熱にうなされて、そのように口走ったのは事実です。もう死んでしまったので、確認は不能ですが。」

「ふむ。」

「しかし、司令官。」

「あの恐るべき男が要塞にいないなどと...そんなことがありうるだろうか、ミュラーお前もそう思うか。」

「考えにくいことですが、メルカッツと例の小娘がいるなら...。」

「なめられたものだな。ミュラー。」

「ええ。この意表返しはたっぷり味あわせてやります。」

ケンプとミュラーは顔をみあわせてほくそえんだ。

「ヤン・ウェンリーとは、そこまで恐れるべき人物なのですか?」

エリカが尋ねる。

「エリカ、お前は、あの要塞を味方の血を一滴も流さず、陥落させることができるか?」

「...いえ、不可能です。」

「そうなら、やはりヤン・ウェンリーは恐るべき人物だ。すぐれた敵にはそれ相応の敬意をはらうべきなのは、お前ならわかるだろう。」

エリカの脳裏には、なぜか尊敬する隊長の忌まわしい栗毛色の髪の妹の姿がなぜか脳裏にうかんでしまい、ギリっと歯をかみしめた。

(あんなのただ小賢しいだけじゃない!)

心のなかのつぶやきがつい表情に出てしまう。

 

尋問された同盟軍の捕虜たちは、

「ヤン司令官がイゼルローン要塞にはいないと言うようシェーンコップ少将に命令された。」

「西住副司令官は、ハイネセンに召還されて不在である。」

「じゃあ、あのあんこう型の戦艦はなんだ?」と聞くと

「わからない。」

と首を振る。

 

ケンプとミュラーは顔を見合わせてお互いうなずくと

「索敵と警戒の網を回廊出口にはりめぐらせよ。ヤン・ウェンリーは要塞にはいない。彼の帰還を待ち構えて捕えるのだ。そうすれば、イゼルローンどころか同盟軍そのものが瓦解し、最終的な勝利は我々帝国軍に帰するだろう。」

とケンプが宣言し、エリカのほうを向いて命じる。

「よいか、逸見少将、最後の機会をあたえる。ヤン・ウェンリーを捕縛するのだ。そうすれば、今回の失敗を雪ぐことができる。」

「はっ。」

ケンプとミュラーは、エリカ率いる5000隻の艦艇を回廊の中に配置し、索敵と警戒の網と罠を張り巡らせた。

 

「司令官代理、今度は帝国軍は、ヤン提督を捕らえるために包囲陣を回廊出口付近に配置するはずです。敵の艦隊配置の動きをとらえるようにしてください。」

「わかった。」

キャゼルヌは、バグダッシュをふりむいた。バグダッシュは不敵な笑みを浮かべた。

みほは、ほほえむと優花里とエリコのほうをむく。優花里は握りこぶしを構えて、まゆをいくぶん上げて微笑み返す。エリコも彼女らしい一見清楚で知的な笑みをうかべる。しかし、ふたりの表情は異なってはいたものの、その目の奥には敵の索敵網の仔細をとらえてやるという戦意がやどっていた。

 


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