Girls und Kosmosflotte 作:Brahma
第100話 要塞対要塞です(その1)。
ヤンは、通信が回復された端末で、近くの公園でフレデリカ、ビュコック、マシュンゴ、沙織と待ち合わせて食事に行く約束をした。
「「ヤン提督!」」
「ミス・グリーンヒルにミス・タケベ」
「ビュコック提督...ご迷惑をおかけしました。」
「いや、礼ならグリーンヒル大尉に言うことだ。わしらは手伝っただけなんだから。」
「ありがとう、大尉、なんというか、その、お礼の言いようもない。」
「副官として当然のことをしたまでです....閣下のお役に立て多様なら嬉しく思います。
それをみていた老提督は、(二人とも不器用なことだ)という気持ちが、小さく下あごを動かしたが
「それじゃあ、五人で昼食へいこうか。我々が食事している間くらいイゼルローンはもつじゃろう。『白鹿亭』でいいかな。」
「「はい。」」
「じゃあいこうか。」
食事を終えて、『白鹿亭』を出ると、ヤン、ビュコック一行は意外な人物に出会った。小太りの顔と身体、スーツを着た中年から実年くらいの男である。
「ヤン提督、君は公人として国家の名誉を維持する義務があるはずだ。今回の査問会について、政府ないし国家のイメージを低下させるような発言を外部に向かってしたりはせんだろうね。」
ヤンと沙織はあきれた。
(人間どこまで恥知らずになれるのかと思ったが、生きた見本を目に前でみることになるとは....)
沙織はジト目でみてしまう。
(はあ?この人、さっきまで自分がなにやってたか、わかってるのかなぁ?いまさら土下座したってだめなんだから!)
ヤンの口が開かれる。
「ということは、わたしに対して行われた査問会なる代物が外部に知られた場合、国家のイメージダウンになる種のものであることを自らお認めになるのですね?」
この反撃にネグロポンティは、火を見るよりも明らかといったように、視線が泳ぎ、たじろぎと怯えの表情になった。
(なぜこんなみじめな役回りを...)
内心ネグロポンティもそう思わないでもなかったが、政治業者として生きるためにはトリューニヒトの心証をよくしておかねばならない。そうしなければ、無能の烙印を張られ、スキャンダルをマスコミに暴露され、切り捨てられてしまう。トリューニヒトの政治思想を反映した学校づくりを行っていたレザミ・ボスケ学園とカルクラール学園の理事長がトリューニヒトにとって都合の悪い証言をしたときに偽証罪として切れ捨てられたのだから...
「わたしは公人としての義務に従ったまでだ。恥を忍んでのことぐらい理解できるだろう。だから君にも公人としての義務を求める権利があると確信しているのだがね....。」
「確信なさるのは委員長の自由ですが、わたしとしては、査問会のことなど思い出したくもありませんし、何より戦いに勝つことを考えていますので。」
ヤンは、せっかくの料理が、胃の中で腐臭を放つのではと思ったほどだった。
(ハイネセンの自然は美しいが、この惑星に住んでいる政治屋どもときたら...嫌気がさしてしまうな。)
ネグロポンティが去るとヤンはビュコックに話しかける。
「ローエングラム公ラインハルト本人にならともかく、その部下に負けるようでは、先行き不安ですからね。」
あえて思い出すなら増長かなという考えが頭によぎってヤンは苦笑した。
「なんにしてもわが同盟政府には手足を縛ったり、足に重石をつけて戦いを強いる癖がおありだからこまったものですよ。長官。」
「まったくだ。しかし、だがやつらの思惑はどうあれ、今回も戦いに赴かざるをえんところだな。ささやかであることさえ怪しくなっておるが、民主主義の成果を守るためになぁ。」
「おっしゃるとおりです。それにイゼルローンは我が家も同然ですから。」
「うむ。」
「じゃあ、大尉、ミス・タケベ、我が家に帰るとしようか。」
「「はい。」」「了解。」
黒髪の学者風提督は、へイゼルの瞳を持つ美しい副官とオレンジ髪の少女にしか見えない女性士官、雄牛のようにおとなしいが偉丈夫な黒人准尉に語りかけると、三人三様の返事が返ってきた。
少し時間を遡る。イゼルローン回廊では...
「帝国軍から通信です。」
「パネルに出してくれ。」
花崗岩の風格を持った筋骨隆々とした士官が映し出される。
「叛乱軍の諸君。わたしは銀河帝国ガイエスブルグ要塞派遣部隊司令官ケンプ大将です。できれば降伏していただきたいが、そうもいかんでしょう。卿らの武運を祈ります。」
「イゼルローンより返信なし。」
「ヤン・ウェンリーなる男をみてみたかったが、武人は武人らしく勝負すべきか...。」
ケンプは、みほの艦隊配置をみて、オペレーターに分析させた。ガイエスハーケンを撃たれてもたいして損害を与えられない散兵的な配置であるうえに、ガイエスブルグ自身とイゼルローンとの間の宇宙空間に自由にクロスファイアポイントを設定できる巧緻なもので、しかも白兵戦部隊を接近させないよう工夫がこらされている。
「そうか。敵も考えたな。」
ケンプは、同盟軍の艦隊配置をながめながらあごをなでる。
「はい。要塞外壁に白兵戦部隊を送り込めないよう艦隊を展開させています。」
ケンプはほくそえむ。
「ふむ。それならそれでやりようがある。ガイエスブルグをイゼルローンに接近させろ。ガイエスハーケンエネルギー充填。」
「5,4,3,2,1,発射!」
7億4000万メガワットの硬X線ビーム砲のすさまじいエネルギーの奔流が巨大な光の柱となって怒涛のようにイゼルローンにおそいかかる。
巨大なエネルギーの槍はイゼルローンの流体金属層につきささるだけでなく、外壁をも貫いた。
「RU75ブロック破損。ただし、事前の避難のおかげで死亡者ゼロ。流体金属層は自然回復します。」
「わかった。同ブロックは廃棄。隔壁閉鎖。」
「了解。」
キャゼルヌが一息ついたとき、シェーンコップが攻撃を促す。
「司令官代理!こちらも撃ち返しましょう。」
「しかしさっきのを見ただろう。」
「だからです。今ここで弱みをみせるわけにはいきません。」
「わかった。トゥールハンマーエネルギー充填!狙点固定。」
「5,4,3,2,1,発射!」
9億2400万メガワットのすさまじいエネルギーの奔流が巨大な光の柱となって怒涛のようにガイエスブルグにおそいかかった。