バカと中華小娘とお姉さん   作:村雪

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 どうも、村雪です!大変間が空いてしまいましたが投稿させていただきますね!お待ちいただいた方はすみませんでしたっ!

 ようやく今回舞台の合宿場へと到着するのですが、果たしてどのような展開となっていくのか……!気を楽にして読んでいただけたら幸いでございます!

それでは!


――ごゆっくりお読みください。


情報―盗聴、じゃない…ただバレないように録音しただけだ…!

「……(とんとん)」

 

「む。起きたのじゃなムッツリーニ」

 

「……空腹で目覚めた」

 

「あら、もうそんな時間でしたか?」

 

 

 心理テスト大会を開催してしばらくたったころ、秀吉君の隣で眠っていた土屋君が目を覚ましました。時間は1時15分。思ったよりも心理テストに熱中しちゃいましたね~。

 

 

「確かに頃合いじゃな。そろそろ昼にするかの?」

 

「そうだね。遅く食べるとせっかくの夕飯が食べられなくなっちゃうもの」

 

「じゃあ心理テストはいったんここまでにしましょうか。美波さん、また後でよろしくです」

 

「オッケー。まずはお昼ご飯ね」

 

「よっと。電車の中で食べるのも久しぶりだぜ」

 

「確かに電車で飯なんか、旅行に出た時ぐらいしかないからな」

 

 

 自分の荷物を探ってそれぞれ昼食の準備を始めます。ちなみに妹紅さんと私のお弁当は咲夜さんが作ってくれたものです。ああ!食べるのがなんと惜しい代物!このまま観賞用として取っておきたいぐらいです!

 

 

 

 

「あ、あの皆さんっ!」

 

『ん?』

 

 

 

 それでも食べないと大変失礼なので、覚悟を決めて咲夜さん手作り弁当に箸をつけようとしたとたん、隣から瑞希さんが大声を上げました。

 

 

 

 見るとその手には…………いつかの屋上で見かけたことがある風呂敷が……

 

 

「どうしたのじゃ姫路?」

 

 

 

 

「え、ええっと……実は私……お、お弁当を作ってきまして…」

 

 

 

 

 

 

「……ほっ、ほう。お、お弁当となっ?」

 

「へ、へ~?そっ、そうなんだ~?(がくがく)」

 

「…………!(ぶるぶる)」

 

「ひっ、姫路は積極的なんだな~?(がたがた)」

 

「な、な、何かしら。体の震えがぜんぜん止まらないのよさ…!(ぷるぷる)」

 

 

「お、おいお前ら大丈夫か!?目に見えて分かるほどに身体が震えてるぞっ!?」

 

 

「……どうしたの?」

 

「あ~・・・た、たぶんトラウマですよ、妹紅さん」

 

「……なんの?」

 

 

 あ、そっか。妹紅さんはあの時まだいなかったですかね。

 

 

 以前瑞希さんがお弁当を作ってくれたことがあるのですが…実は彼女、お料理がかなり苦手なようでして、今震えてる4人はそのお料理を食べたひがい…じゃなくて、うらやましい人達でございます。

 

 そして、そのお料理の味がなかなか独特のようでして……今のところ気絶率100%を誇るという、まさに必殺料理というわけなのです!

 あの時以来お目にする機会がなかったのですが、まさかここで現れることになろうとは…くうっ!こ、心ではしたくないのに身震いが……っ!

 

 

「あ、あぅ……あ、あの時の事は本当にごめんなさいっ!で、でもどうかっ!どうか私にチャンスを与えてくれませんかっ!?」

 

『チャ、チャンス?』

 

 

 ところが、私たちの反応にめげることなく瑞希シェフは叫びます。

 

 

「は、はい!私、あの時からずっとお料理を練習をしてきたんです!何度も何度も倒れたりお腹が痛くなったりしましたけど……こ、今回は味見しても大丈夫でした!ですから、どうか一口だけでも食べてくれませんか!?」

 

「み、瑞希!あんたの気持ちは伝わるけど、そんな症状を聞かされた後じゃますます食べにくくなるわっ!!」

 

「な、なんだかんだで瑞希さんって体力がありますねぇ~…」

 

 

 何度も腹痛や気絶を繰り返してもめげずに作り続けるとは、容姿からは全く想像できないガッツです。さきほど心理テストで意思が強いと診断されていましたが、まさにその通りでしたね。

 

 

 

「明久いけ…!お前が先に食べてあげるところだろ…っ!(ぐいぐい!)」

 

「そ、そうしたいけどやっぱり怖いよ…!雄二、ここは君がいって僕を安心させるべきだって…!(ぐいぐい!)」

 

 

 それに比べてこの2人は、友達を盾に逃げようとする始末。なんと心が小さいっ!以前みたいに男を見せましょうよ!

 

 

 

 

「……分かった。瑞希がそこまで言うならウチがもらうわ」

 

「ええっ!?」

 

「なんだとっ!?」

 

「ええええっ!?ほ、本当ですか美波ちゃん!?」

 

 

 そんな2人をよそに、漢気ならぬ女気を見せたのが美波さん。吉井君達だけじゃなく、食べてほしいと懇願していた瑞希さんまでもがビックリ仰天です。

 

 

「本当よ。人が頑張って作ったお弁当を食べないのは良くないじゃない。それに、瑞希が大丈夫って言うんだから大丈夫でしょ。人をだますような子じゃないし、ウチは瑞希を信じるわ」

 

「み、美波ちゃ~ん…っ!」

 

「やべえ、美波がものすごくかっけぇ…!わ、私もあれぐらい男らしさを持てたらアリスにも…!」

 

「わ、わしもこれぐらい漢気が備わっていれば、周りの見る目も違うのじゃが…!」

 

「やかましいわよそこ二人っ!ウチの性格なんだから仕方ないでしょ!出来るならこっちからあんた達に投げ渡したいわっ!」

 

 

 三白眼で2人を睨む姿もまたかっこいいです、なんて言ったらパーかグーが来そうなので控えましょう。

 

 

「ほら瑞希。お弁当もらうわよ?(ひょい)」

 

「あっ」

 

「(パカッ)…うん。見た目には何も問題ないわね」

 

「おお、確かに」

 

 

 美波さんの言う通り、ポピュラーなおかずが入ったお弁当は実に食欲をそそられます。

 

 

………が、重要なのはそこではなく。

 

 

「確かに全然おいしそうな見た目だぜ……前回もそうだった気もするが」

 

「そ、そうですね。ですから大事なのは中と言いますか…」

 

 

 果たして食べてもハプニングは起きないのか。と、ときめきとは遠いもので胸がドキドキしてきました…!

 

 

 

 

「じゃあ、いただきまーす(パクッ)」

 

『『『!!い、いった…っ!?』』』

 

 

 パクリと。見ている私たちよりもずっと落ち着いた美波さんが、その箸に取った卵焼きを一気に口へと入れました。な、なんと腹の座った女の子か…!うわさで聞いただけですが、そりゃ~女の子からモテるのも当然ですね!

 

 

 は、果たしてそのお味は……っ!?

 

 

 

 

「………あら、美味しいじゃない」

 

『何ぃ!?』

 

「ふぁぁ~…!よ、よかったです~!」

 

 

 咀嚼を終えた美波さんが出した感想に、全員…というか以前ノックダウンした四人組が仰天してお弁当を凝視します。

 

 いささかそのリアクションは失礼な気がしますが、そればっかりは申し訳ないですが瑞希さんのせいなので何も言えないでしょう。あ、美波さんの感想に感動してるみたいなので聞こえてませんねこりゃ。

 

 

「じゃ、じゃあ僕ももらうね姫路さんっ!」

 

「んじゃ俺もいただくか。悪いな姫路」

 

「……なら、俺も」

 

「う~ん。よく思い出せないけど、アタイも食うのよさっ!」

 

「私ももらうぜ。美波の反応なら大丈夫そうだからな」

 

「ではわしもいただかせてもらおうかのう。良いかの姫路?」

 

「は、はいっ!どうぞ食べてください!」

 

 

 美波さんが大丈夫なのを見て、次々と瑞希さんのお弁当をとっていきます。じゃあ私はこのシンプルなおにぎりをいただくとしましょうか!いただきま~すっ!

 

 

 

「むぐむぐ…あ、いいじゃないですか!」

 

「おおっ?なんだ、全然いけるじゃないか瑞希!」

 

「ああ、確かに普通に食べられるなこれは」

 

「本当ですか!?あ、ありがとうございますっ!」

 

 

 以前が以前だけに少し身構えていたのですが、少し塩が強いのを除けば全然食べられますね!やるじゃないですか瑞希さん!これなら吉井君の胃袋を掴む日も遠くありませんよ!

 

 

「………美味い」

 

「ムッツリーニの言う通りじゃな。なかなか美味しいのじゃ、のう明久?」

 

 

 

 

 

シーン

 

 

 

ん?吉井君の返事がありませんよ??

 

 

「む?どうしたのじゃ明久?」

 

「あ、明久君?」

 

「どうした明久?何かあったか?」

 

「おい、どうしたんだ吉井。瑞希の弁当美味かっただろ?」

 

 

 

 シーン

 

 

 

『?』

 

 

 なおも反応のない吉井君。もしかして眠ってるんでしょうか?でも、さっき美波さんが大丈夫だったのを見て一番に箸を伸ばしたのは吉井君だったはず。

 

ほら、現に今もお箸を口にくわえて固まってる姿の吉井君が見え―――

 

 

 

「―――って、はっ!?も、もしや!?」

 

「あ、明久しっかりしろ!一口ぐらいでやられるほどお前はやわじゃねえだろうがっ!」

 

「……胃の強さは、世界一なはず…っ!」

 

「お、お茶を飲むのじゃ明久!きっと落ち着くはずなのじゃ!」

 

「ごっ、ごめんなさいごめんなさい明久君っ!私頑張って作ったつもりだったんですけど、またダメなものを作ってしまって・・・!う、ぅぅ~~!」

 

「ま、待って瑞希!し、失敗したからって瑞希が悪いわけじゃないわ!ウチが大丈夫だって自信満々に言ったからアキが食べたのよ!だから責めるならウチを責めなさい!瑞希は悪くないわ!」

 

「そ、そうだぜっ!瑞希は良かれと思って作ったんだ!だから気にすんな!なっ!?」

 

 

 私達は一斉に吉井君の安全確認と瑞希さんの慰めに走りますっ!こ、これはもしかして以前のようなおかずが混ざっていてそれを吉井君が食べてしまったのでは!?

 

 なんてことっ!!せっかく瑞希さんが頑張ってくれて作ったというのに、最も喜んでほしい人をまたもノックアウトさせてしまうとはっ!

 

 

 

とにかく、急いで蘇生作業を――!

 

 

「………お」

 

「っ!い、意識はあるのですか吉井君っ!?」

 

 

 すると、ようやく口を開く吉井君。ほっ、症状は軽いみたいですね!じゃなければ話をするのも困難となっていたでしょうから、これは不幸中の幸いでした!

 

 

「………お、お…」

 

「なんだ明久!『お』がどうしたっ!?遺言なのか!?」

 

「いや、さすがに生死はさまよってませんよ!意識の狭間はさまよってるかもしれませんけども!」

 

 

 坂本君の物騒な発想はともかく、何やら吉井君は伝えたいことがある様子。いったい彼は何を伝えようと………!?

 

 

「お―――――

 

 

 

 

お、おいしいっ!すっっごくおいしいよ姫路さんっ!」

 

 

 

 

『…あ?』

 

「…え、ええっ!?ほほ、本当ですか吉井君!?」

 

「うん!この卵焼き、すっごい甘めに出来てて僕好みの味だったよ!今まで食べてきた玉子焼きで一番好きかもしれないやっ!」

 

「は、はわぁ…っ!あ、ありがとうございます明久君っ!明久君が気に入ってくれて本当に良かったです~!」

 

 

『………………………』

 

 

 

………興奮気味に瑞希さんの玉子焼きを褒め始めた吉井君。

 

 

 なるほど、つまりあれですか。あまりに自分好みの玉子焼きだったため、言葉も出ないぐらい感激していた、と。あれほど声をかけたのに無視をしたのも、気絶したからではなく、卵焼きの味をかみしめていたから……と。

 

 

 

 

 

 

『……紛らわしいマネすんなアホがぁあああああっ!!』

 

「うわわっ!?どど、どうしたの皆、いたただぁあああっ!?」

 

「あ、明久君っ!?皆さんやめてください~っ!!」

 

 

 結果オーライでも私たちの心臓を驚かしたのは事実。少々彼には理不尽な目にあっていただきましょう。

 

 

 

 

 

 

『むぐむぐ…やれやれ、みんな揃ってやかましいわねー。どんな時もアタイみたいに冷静でなきゃいけないのよさ、あむあむ…』

 

『……待ってチルノ。その手に持ってる弁当は何だ』

 

『んぐっ、ん?なにってみずきが作ったお弁当じゃない。いちもくりょーぜんよさ』

 

『……それは分かってる。私が聞いてるのは、その中身のこと』

 

『ん?中身?すごくおいしかったわよ!もこうも食う?アタイが許すのよさ』

 

『……許可を出すのはチルノじゃない、という話以前に………中身、ほとんどすっからかんなんだけど…』

 

『あら、アタイったらつい食べ過ぎちゃったわ。でもよく見なさいもこう!きちんとサラダと酢の物は残してあるわよ!』

 

『……嫌いなもの残したんだろ』

 

『そ、そんなことないわっ!最強のアタイに嫌いな物なんてないもの!』

 

『……そうか。でも、よくこんだけの量を食べたな。食べる方なのか?』

 

『アタイ?そうねー、普段あんまり食べないご飯があったらいっぱい食べたくなるのよさ』

 

『……けっこう、鉄板なやつばっかりだったと思うけど』

 

『てっぱん?アタイ鉄なんて食べてないわ?』

 

『…………よくありそうな料理ばかりだったと思ったけど……』

 

『え?そうかしら。魚以外はアタイほとんど食べることなんて無いものばっかりだったわ』

 

『……魚?』

 

『そうよ。近くの川で釣った魚を食べてるのよさ』

 

『………え?』

 

『でも釣れない時も多いからね~。そん時はカエルを焼いたり、適当に取った草を煮て食べたりしてたわ』

 

『………………』

 

『あと、あれね!夏はザリガニだわっ!あいつならどこでも釣れるから食うのに困らないのよさ!』

 

『…う………………そ、そうか…』

 

『それもダメな時は、仕方ないから最終手段よ!原っぱとかで見かける―――』

 

『ごめんチルノそれ以上言うなお願いほんとお願い絶対言わないで』

 

『へ?どうしたのよもこう。顔青白くなってるわよ?』

 

『…………その話はもうやめよう。私の弁当やるから、その先は絶対言うな』

 

『ほんとっ!?ひゃっほ~!もこう大好きよさ~!』

 

『…………こいつ、見た目に反して生活がえげつなすぎる…!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――はっ!?」

 

 

 な、なんだろう。ものすごい数の鬼に襲われる夢を見ていたような…?

 

 

「ん?目を覚ましたのか明久」

 

「おお、目を覚ましたのじゃな明久。ずいぶん眠っておったのう」

 

「あ。ゆ、雄二に秀吉」

 

 

 恐ろしい夢に身震いしていると、隣の座卓でくつろいでいる様子の雄二と秀吉が目覚めの声をかけてきた。・・・確かあの鬼の中に雄二がいて、気のせいか秀吉もいたような気が・・・ち、違うよね?秀吉がそんなひどいことするわけないよね?

 

 

「こ、ここはもう合宿場なの?」

 

「ああ、きぜ…眠っていたお前が起きないもんだから運ぶのに苦労したぞ」

 

「うむ。声をかけても叩いても起きなったからのう。雄二に運んでもらったのじゃ、きちんとお礼を言うんじゃぞい?」

 

「うん、ありがとう雄二」

 

 

 なんだか不穏な言葉も聞こえたけど、ひとまずお礼はしておこう。なんだか頭が痛いのはきっと寝起きだからだね。

 

 

「ところで、僕たち以外には誰もいないけど三人部屋なの?」

 

 

 しかもその内の一人が秀吉だなんて。これで雄二がいなかったら僕は間違いを犯してそうだったから、心からこの悪友がいることに感謝しよう。

 

 

「いや、ムッツリーニもこの部屋だ。今は情報収集に行ってる」

 

「情報収集?それってなんの?」

 

「お前は自分が頼んだことも覚えてないのか……」

 

 

 失礼な、少しド忘れしただけじゃないか。今すぐ思い出してみせるよ。……え~~と………

 

 

「(ガチャッ)………ただいま」

 

「おーすお邪魔するぜ。お、目が覚めたのか吉井。元気そうで何よりだぜ」

 

「む、噂をすれば戻って来たな」

 

 

 あと少しで思い出しそうなところで、実にタイミング悪くムッツリーニと魔理沙が部屋に戻って来た。うん、途中で思考を中断されたから思い出せなくても仕方ない。今はムッツリーニ達の会話に専念しようじゃないか。

 

 

「霧雨はどうしたんだ?」

 

「例の件で話があるって言うからな。すぐに来たんだぜ」

 

「お。その話ってのは、俺や明久や霧雨が頼んだ例のヤツか?」

 

「(コクリ)………昨日、犯人が使ったと思われる道具の痕跡を見つけた」

 

「おお、さすが土屋だな。仕事が早いんだぜ」

 

「……手口や使用機器から、明久たちの件は同一人物の犯行と断定できる」

 

「そうか。まぁ、そんなことをするヤツなんて何人もいないだろうし、断定しても間違いないだろうな」

 

「そもそも、私の知る範囲で盗撮犯が2人いるのが相当だけどな」

 

「……俺は、盗撮犯なんかじゃない……っ!」

 

「誰も土屋がとは言ってないんだが…」

 

「一応、自覚があるにはあったんだな」

 

「……っ!?卑怯な…!」

 

「「いや、自分から言い出したんだろうが」」

 

 

「………」

 

 

 えっと、僕を放って皆は何で盛り上がってるの?えっとえっと、確か聞こえたのは、犯人……僕達が頼んだ………盗撮犯……

 

 

「……あっ!!僕のパンチラメイド姿を盗み撮りしたヤツのことを話してるんだね!?」

 

「やっと思い出したか」

 

 

 脅迫文に添えてあったあの忌々しいベストショットを激写した犯人を見つけてもらうために、その犯人と同じく盗撮と盗聴のスペシャリストのムッツリーニに頼んでたんだった!そんな大事なことを忘れるとは、きっと合宿が楽しみ過ぎたんだね。……僕の記憶力がバカすぎるなんて事実はない。

 

と、とにかく今はムッツリーニから話を聞くのが最優先だ!

 

 

「それで土屋、犯人は誰だったんだ?」

 

「……(フルフル)」

 

「ん?分からなかったのかムッツリーニ?」

 

「……(コクリ)」

 

 

 すると、ムッツリーニから意外な結果報告が。このムッツリーニの手から逃れるとは、思ったよりも相手は手ごわいみたいだ。

 

 

「……すまない」

 

「いや、まあしょうがねえよ。もともと面倒な頼み事だったんだからさ」

 

「そうだよムッツリーニ。調べて分からなかったのならそれは仕方ないよ」

 

 

「……犯人は、尻に火傷の痕(あと)がある女ということしか分からなかった」

 

「「お前(君)はいったい何を調べてきたんだ」」

 

 

そんなことが判明しているのなら、もう犯人の正体も分かってもおかしくないだろうか。この男の捜査方法が気になるところだ。

 

 

「……各地に、網を張った(ごそごそ)」

 

 

 そう言ってムッツリーニが懐から小さい機械を取り出す。どうやらそこに手がかりが入ってるみたいだけど…

 

 

「ムッツリーニ、それは何?」

 

「……小型録音機。学校中に盗聴器を仕掛けた(ピッ)」

 

 

 

 

 

 

≪……土屋、今いいか?≫

 

≪……大丈夫。今日は?≫

 

 

 おおっ、声が聞こえてきた!……って、あれ?この声って……

 

 

 

≪わ、分かってるだろ?あれだよ!その、アリスの……≫

 

≪……新作が入ってる。これ…≫ 

 

≪………おお、これは見事な微笑みだぜ…いくらだ?≫

 

≪……常連価格で、これぐらい≫

 

≪分かった。恩に着るんだぜ≫

 

≪……毎度あり≫

 

 

 ピッ

 

 

 

「「「…………………」」」

 

「……こっちが本物(ごそごそ)」

 

「な、なかったようにしてるな!?私のトップシークレットをこんな形で暴露しやがったのに、話を進めて闇に葬り去ろうとしてやがんな!?土屋ぶっ飛ばす!」

 

「(ガシッ)まあ落ち着け。霧雨がアリス・マーガトロイドの写真をムッツリーニから買ったところで、今更驚きやしないさ」

 

「そうだよ魔理沙。僕だってムッツリーニからアリスさんの写真や他の女の子の写真を買ってるんだから、恥ずかしがることなんてないよ」

 

「う、うるせえっ!っていうかアリスの写真を買ってるのかお前!二度と買うんじゃねえぞこら!」

 

 

 そう言われても、アリスさんって外国のお人形みたいに綺麗だから衝動的に写真を買いたくなっちゃうんだよね。

 

 ちなみにアリスさんの写真はムッツリーニが主催するムッツリ商会でも売れ筋のものらしくて、男女ともに買いの嵐がすごいそうだ。

 

 

 

ピッ

 

 

≪―――らっしゃい≫

 

 

 ムッツリーニが新たに出した録音機を再生すると、今度はノイズ混じりの声が響いた。一応女の子の声というのは分かるけど、だいぶ音質が悪いなぁ。

 

 

「なんか、だいぶ音が悪いな」

 

「校内全てを網羅したのなら仕方ないだろう。音質や精度にこだわる時間はなかっただろうしな」

 

 

 この声から誰なのかを見分けることは出来そうにない。だからここからは聞こえてくる内容に耳をすませよう。

 

 

≪……雄二のプロポーズを、もう一つお願い≫

 

 

 次に聞こえてきたのも女の子の声。こっちも音が悪いけれど、しゃべり方と要求するもので誰なのかはすぐに予想できた。

 

 

「しょ、翔子……!アイツ、もう動いてやがったのか…!」

 

「それだけ坂本の欲しかったんだな。いや~お熱いこったぜ」

 

「霧島さんもこんなゴリラのどこが良いんだろうなー」

 

 

 他にも素敵な人はいるだろうに。女の子の心って分かんないもんだね。

 

 

 

≪毎度。二度目だから安くするよ≫

 

≪……ありがとう。でも、値段に糸目はつけない≫

 

≪さすがはお嬢様、太っ腹だ。あるいは、それだけ熱いってことかねえ?≫

 

≪……それで、雄二のプロポーズは…?≫

 

≪ああ、それじゃあ明日――と言いたいんだけど、明日からは強化合宿だから引渡しは来週の月曜日になるけど、いいかい?≫

 

≪……分かった。我慢する≫

 

 

 

「あ、危ねぇ……強化合宿があって助かった…!」

 

「でも、坂本もあんなに好かれて悪い気はしないんじゃねえか?前にお前もプロポーズをしてたわけだしな」

 

「そっ、そんなことあるか!だいたいあれは明久のバカが仕組んだことだと言っただろうが!俺があんなふざけたことを言うか!」

 

「またまたそんなことを。僕はただ雄二の思ってたことを代弁してあげただけじゃないか」

 

「それが思い切り間違ってると言ってるんだボケッ!!」

 

 

 まったくこの男は素直じゃないなぁ。ともかく、霧島さんに雄二のプロポーズが渡るのは来週の月曜まで延びたみたいだ。

 

 

「……そして、これが犯人特定の手がかり」

 

 

 

≪―――でも、相変わらずすごい量の写真だねみ、ゴホンッ!・・・こ、こんなに写真を撮ってるのをバレたら怒られない?≫

 

≪う~ん、実は一度、前に母親にバレてね≫

 

≪そ、それってどうなったの?≫

 

≪文字通り、尻にお灸を据えられたよ。まったくいつの時代の罰なんだか≫

 

≪うわ~。それは気の毒だったねー≫

 

≪まったくだ。おかげで未だに火傷の痕が残ってるよ。乙女に対してひどいと思わないかい?≫

 

≪う、う~ん……でも、み…じゃなくて、やってることがやってることだから自業自得な気がしなくもない、かな?≫

 

≪おや?そんなことを言ってもいいのかな~?せっかく君のために彼氏君の写真をまとめ撮りしたのに…≫

 

≪ウ、ウソウソウソだよ!?ひどいよね女の子のお尻にそんなことするなんて!そんなの絶対許されざる蛮行だよ!悪いのはお母さんだよねっ!≫

 

≪……前のお客さんもそうだったけど、誰もかれも熱いこったね~…≫

 

 

 

 

「(ピッ)……以上、分かったのはこれだけ」

 

「なるほどだぜ。それで尻に火傷の痕ってことか」

 

「犯人が女だというのも間違いないな」

 

「それよりも僕は、この女の子の彼氏ってヤツのことの方がすごく気になり始めたよ」

 

 

 女の子にこれほど熱く思われるなんてなんと妬ましい。どこの誰かは知らないけれど、言い値を払うから僕にその秘訣を教えてほしいものだ。

 

 

「でもな~。手がかりなのは間違いないけど、どうやって尻なんか調べるんだよ?」

 

「そうだよね。仮にスカートをめくってまわっても見つけられるか分からないし……」

 

「……赤外線カメラでも、火傷の痕が映るか分からない」

 

 

 それはすなわち映るのなら実行するということ。やっぱりこのムッツリの情熱は並じゃない。

 

 

「話の腰を折って済まぬが、お主らは何の話をしておるのじゃ?昨日明久がムッツリーニに相談したことに関するものかのう?」

 

「ん?ああ、そう言えば秀吉はいなかったな。要するに俺と明久と霧雨のことでな―――」

 

 

 話についていけず首をかしげていた秀吉に、雄二がざっくりと説明してあげる。この件に秀吉はなんの被害もないけれど、最初にムッツリーに相談するよう提案してくれた優しい秀吉ならまた手助けをしてくれそうだから話して損はないだろう。

 

 

「ふむ、そういうことじゃったか。ならば魔理沙が女湯に入ったときに、尻を確認すればよいのではないか?」

 

「お。それがあったな」

 

「おお!ナイスアイディアだよ秀吉!」

 

 

 それなら誰にも気づかれず、なおかつ自然にお尻に火傷があるかを確かめられる。さすが秀吉、出来る女の子は違うね!

 

 

 

「えっ?い、いやいやいや!それはダメだろ!」

 

 

「あん?」

 

「え?ど、どうして魔理沙?」

 

 

 ところが魔理沙から返って来たのは反対の声。それには思わず僕もとまどった。魔理沙を脅迫している犯人も同一人物だから、喜んで引き受けてくれると思ったんだけど……

 

 

 

「だ、だってそれって!≪私≫が女の尻をじっくり見ろってことだろ!?それって完全に変態で犯罪だし、何よりそんな目で見られたやつが可哀そうだろうがっ!」

 

「「「「……あー」」」」

 

 

 

   魔理沙➡アリスさん♡  

 

 

 

 この構図を踏まえると、確かにそれは色々とよろしくない気がしてきた。見られた子は気にしないだろうけど、魔理沙本人が気にしたらなー。普通は逆だと僕は思うけれども。

 

 

「魔理沙ってすごい大ざっぱな性格だけど、そういうことに関したらほんとに乙女になるよね」 

 

「まったく、普段の性格を出せば変わるものもあるだろうにな」

 

「しかし、そこも含めて魔理沙の良さでもあると思うがのう」

 

「……良きも悪きも含めて、自分になる」

 

「や、やかましいお前らっ!とにかく私は嫌だからな!そんなのでアリスに変態なんて思われたらシャレにならないぜ!」

 

 

 どうやら魔理沙の意志は固いみたいだから、魔理沙にお尻を確認してもらうのはダメみたいだ。う~ん、でもそうなると他には……

 

 

「あっ!じゃあ秀吉だ!秀吉に女子風呂で見てもらえばいいじゃないか!」

 

「明久。お主はわしに女子連中に始末されろと言うのじゃな?」

 

 

 さすがは僕!これならお尻の火傷確認作戦を決行できるぞ!

 

 

「それは無理だ、明久」

 

「へ?どうしてさ雄二?」

 

「いやじゃから、わしは男じゃと言っとろうが」

 

「それも当然だが、ここを見ろ」

 

「え?」

 

 

 雄二が見せてきたのは強化合宿のしおり。どこかのページを開いてるみたいだけど、ん~?

 

 

~合宿所での入浴について~

 

・男子ABCクラス…20:00~21:00 大浴場(男)

・男子DEFクラス…21:00~22:00 大浴場(男)

 

・女子ABCクラス…20:00~21:00 大浴場(女)

・女子DEFクラス…21:00~22:00 大浴場(女)

 

 

 

・Fクラス木下秀吉…20:00~21:00 個室風呂④

 

 

「な、なぜわしだけが個室風呂なのじゃ!?」

 

「くそっ!これじゃあ秀吉にも見てきてもらえないじゃないか!」

 

「そういうことだ。そもそも無理な話ではあったが、やっとバカのお前も納得できたか」

 

「しかし先生たちも思い切ったことをしたもんだなー。よもや個室風呂とは・・・」

 

「……教師陣は、正しい判断をした」

 

「どこがじゃ!?見事な大間違いではないかっ!」

 

 

 残念だけど決まってしまってはしょうがない。また何か別の方法を考えないと…

 

 

「ん?なら美鈴に頼めばいいんじゃないか?あいつなら事情を話せば協力してくれると思うが」

 

「おおっ!それだよ魔理沙!」

 

 

 心の広い彼女ならきっと僕たちの頼みを聞いてくれるに違いない!まさに妙案とはこのことだ!

 

 

「俺もそれを考えていた。紅ならおそらく引き受けてくれるだろうからな」

 

「じゃあ早速美鈴さんに頼みに行こうよ。魔理沙、部屋は分かる?」

 

「ああ、同じ部屋だからそりゃな」

 

「いや、別の場所で話をしてこのことが漏れると良くない。誰かあいつにメールをしてここに来るよう伝えてくれないか?」

 

「それならわしがしよう。あやつの連絡先は知っておるしの」

 

「そうか。それじゃあたの――――」

 

 

 

 ドガアアンッ!!

 

 

『!?』

 

 

 な、なになにっ!?どうして突然ふすまがスライドせずに正面からぶっ倒れたの!?

 

 

 

 

 

「――――お~じゃ~ま~し~ま~す~よぉおおおお~~・・・!」

 

 

『ひいっ!?』

 

 

 何だ、何をしてしまったんだ僕たちは。

 

 

 倒れたふすまを踏みながらノシノシ入って来たのは、今まさに連絡を取ろうとした人物。だけどその雰囲気、態度から見ても、彼女も僕達にとてつもない用事があるのは間違いない。

 

 

「・・・ちょおっとお話を聞いてもらってもいいですか~~?」

 

 

――断ったら分かるわね?

 

 

『…………!(コクコクコク!)』

 

 

言外に目でそう言われれば断れるはずもなし。

 

突如僕たちの部屋を襲来した鬼少女、美鈴さんの圧倒的な恐怖に僕達は首が取れるぐらい頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

『ふぃ~、いい湯だったね~。思わず眠っちまいそうになっちまったよ』

 

『うんうん!うつほも思わず泳ぎたくなっちゃったもの!』

 

『お空、その衝動はプールで発散するもんだよ。あたいの目が黒いうちは風呂場では絶対にさせないからね』

 

『うにゅっ!お燐のケチ~ッ!』

 

『やれやれ、小さいルーミアでも大人しくしてたのに、この子はいつまでもぶれないねぇ~』

 

『むむ、小さいなんてことはないのだ。周りの皆が大きすぎるのか。な~大越?…………大越~?』

 

『………あっ。ご、ごめんルーミアちゃん!なんの話をしてたのかな?』

 

『あれ?聞いてなかったのかー?』

 

『あ、あはは。ごめんね。ちょっと見入っちゃってて……』

 

『見入って?何にだい大越?』

 

『え、ええと……こ、この写真なんだけど……』

 

『なになに!?………えーと、だ、誰だっけ?』

 

『あれ?これってFクラスの田中か~?』

 

『う、うん。そうだよルーミアちゃん』

 

『よく分かったねルーミア。知ってるのかい?』

 

『んー。よく大越がおしゃべりしてるのだー。確か………大越の彼氏だったっけー?』

 

『………え、えへへへ……』

 

『おおっ、ま、まじかい!?やるじゃないか大越!』

 

『え、えへへへ~。私、人生で最初で最後の経験かもしれないよ~』

 

『うは~、それはそれは!つまり、彼氏の写真で夢中だったってわけかい!?かっ~!お熱いこったね~~っ!!』

 

『い、いや~~。実はこれ、昨日手に入れたばっかりなんだ。だからついつい見ちゃって……』

 

『にゃっはははは!そうかいそうかい!じゃあ今夜は大越のめでたい春について聞かせてもらおうかい!今夜は寝かせないよ!』

 

『うええっ!?お手柔らかにお願いだよお燐さん~~っ!?』

 

 

『……なんだかお燐が楽しそうだねルーミア!うつほ嬉しいなあ!』

 

『うん、お燐もそういう話が好きなんだな~。サバサバしてるお燐も、やっぱり女の子なのだ』

 

『でも、あんなにたくさん写真を撮るなんて大越もすごいな~。うつほ機械が苦手だから絶対出来ないや!』

 

『…でも、大越も確か機械オンチだった気がするけどなー。誰かに撮ってもらったんじゃないのかー?』

 

『あれ?そうなの??だったらうつほと仲間だね!やった~!』

 

『ま~そうなるな~。…でも、それを言ったらお燐が大越の仲間だと思うのだ』

 

『へっ?どうしてどうして?』

 

『ここだけの話、平賀とよく出かけたりしてるらしいぞー?あの2人も、案外遠くないのかもしれないなー』

 

『??よく分かんないけど、お燐にも良いことがあったってことだよね!?じゃあおめでとうって言わないと!』

 

『それはよすのだ。私がお燐に怒られちゃうのだ』

 

『うにゅ、分かった!じゃあお燐は平賀と仲が良いねって言うのをやめるねっ!!』

 

『こっ、こらこら。声が大きいのだ――』

 

『――ほほ~う?何やらあたいの知らないところで、あたいの面白い話をしているようだねぇルーミア~?』

 

『……そ、そんなことはないのだ~』

 

『こうなったらついでだい!あんたの思い人の話も聞かせてもらおうとしようかい!ほらっ!とっとと部屋に戻るよっ!!』

 

『まっ、まっ、待つのだ!私の恋人はご飯だけなのだ~っ!』

 

『あっ。待って待って2人とも~!お、お空ちゃん行こっかっ!』

 

『あ、うん!・・・そう言えば―――は機械が得意だったな~。またうつほも教えてもらおっ!』

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました! 

 ん~、大越冬美、田中勝!君たち付き合ってたんかいっ!いやはや、数少ないオリジナルキャククター、と言うよりサブキャラクターとして出演してもらっていたのですが、よもや主人公たちを抜いて先にゴールをするとは……!作者が言うのもなんですが、びっくりの一言ですな!果たして田中君は無事で済むのか(主にFクラスのメンバーから)?今後が楽しみですね!


 さて、久しぶりに投稿させていただきました今回ですが、ようやく話を進めることが出来ました!瑞希さんのお料理レベルが発達してたり、まさかのカップル発覚したりといろいろと目立ったことが多い内容でしたが、いかがでしたでしょうか?一度でも笑ってしまったり和んでいただければ感激でございます!

 それではまた次回っ!おそらく次も明久視点です!




 

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