十六夜が学校ぐらしを始めるようです!   作:鬼城

9 / 10
バレンタインデーですが番外編などなしに本編を進めたいと思います!

それではどうぞ!


八話 悪夢のように Ⅲ

どうしてなんだろう。

 

それは私自身にあった最初からの疑問。

ーーどうして、私たちがこんな目に合わないといけないのだろう。

ーーどうして、こんな思いをしなければいけないんだろう。

そんな考えが頭をクルクルと回る。今まで考えないようにしていたその考えはこういう状況になると洪水のように溢れ出す。

 

やっと、手に入れた日常ーー。それすらも壊れてしまうようなきみの悪い感覚。怖いーーそれだけでこの場をあらわすには十分すぎた。それでも、それでも…と私は希望を失わない。

 

だって、彼 いっくんがなんとかしてくれるって思ってるから…

 

たった、それだけの理由。だけど、その理由が私の思考を鈍らせたのかもしれない。危機が迫っていることに気付けなかった私のせい…私のせいで、めぐねぇは犠牲になったーー。

 

 

増えてくる人数。その分だけ死は近づく。スコップを振り回していた手もどんどん重くなっていき言うことを聞かない。こんなになってまで戦ったというのに、倒せたのはたった二体。どうやら彼等は、生きていた頃とは比べものにならないほど強くなっているらしい。

 

「…くっ…」

 

そろそろ限界かーー。

 

ふと、思い出す。今までにあった楽しかったことを…。そして、悲しかったことを…。いわば、それは走馬灯のようなものなのかもしれない。がーー、悪くはない。心地よいと感じるほどまでには…

 

「先輩ーー。私は…がんばりました…よね?」

 

もちろん、答える声はない。すでに、胡桃の好きだった先輩はいないのだから。それでも、胡桃は満足とでも言いたそうに微笑む。そしてーー。

 

胡桃の視界をゾンビが塞いだ。ーーと、思ったのだが…どうやら違うようだ。そのゾンビは自分を襲っているわけではなく、視界を横切っているの方が正しい。それも、ものすごい速さで。

 

「まったく、おまえら二人して何を諦めてんだか。」

 

「い…十六夜!?」

 

「なんだ?その驚いたような顔は、お前が俺を呼ぶように慈に頼んだんだろ。」

 

「……」

 

「でも、よく頑張ったな。此処からは俺にまかせろ。」

 

それは、初めて十六夜から言われた褒め言葉。それを聞くと嬉しいものを感じた。ーー初めて認められたというそんな嬉しさを…。

 

「さ、今はこの状況をどう切り抜けるかだな。」

 

「十六夜なら、いけるんだろ?」

 

数は二十をゆうに超える。それに、一体一体が強い。あと一つ問題なのは、多分大丈夫だろうが由紀たちの方だ。あの三人の中でまともに戦える人はいないので襲われたら終わりだ。だからこそ、十六夜には時間(タイムリミット)が存在する。長くなれば成る程、あの三人の無事は保証できない。

 

「これだけはやりたく無かったんだが…」

 

「…?」

 

そして、十六夜は一枚のカードを取り出した。青色でお年玉袋ぐらいの大きさであるそのカード。それは…あの世界ではチョー素敵アイテムとされていたギフトカードだ。そのカードに手をかざす、すると…1メートル程の『槍』がでてくる。さすがにこれには胡桃も唖然とする。どこかのマジシャンですか?とでも言いたそうに。それもそうだろう、彼女は異世界というのがあることを知らないのだ。

 

「まぁ、説明は後だな。」

 

「……お前は…本当に何者なんだよ…」

 

「さぁな。」

 

そして、目の前の敵を見据える。さっきまでそれ等は死そのものだったが、今は違う。ーー倒せる。そう強く感じた胡桃はスコップを構え直した。

 

「よし、いいな?倒していくのは霧がない。だから、屋上まで後退しながら戦うっていうのを忘れるな。」

 

「わかってるよ。」

 

「さぁ、このギフトの力見せてもらおうか。」

 

「…ん?なんか言ったか?」

 

「いや…なんでも。」

 

肩を竦めてそう言った十六夜の目は笑ってない。それ程まで追い詰められた状況なのだと胡桃は改めて感じる。そんな緊張感の中、戦いの火蓋はきられた。

 

 

「十六夜!」

 

「まかせろ!」

 

十六夜が振った槍によって心臓を貫かれ絶命するゾンビ。そう、絶命するはずなのだ。だが…そのゾンビは起き上がる。何故?簡単なことだ、彼等は既に死んでいる。それにより、心臓を傷つけても意味がない。

 

「やっぱ、調整が必要か…」

 

十六夜が持っている槍ーーその名をグングニル。オーディンが使っていたとされる槍。主に投擲で使うのだが…こんな狭い場所(廊下)ではそんなことはできない。それより、十六夜が持っている槍はレプリカだ。本物のように上手くはいかないだろう。

 

「十六夜どうする?これじゃ…」

 

「そうだな…合図を出したら屋上に向かって走り出せ。俺もすぐ行く。」

 

「分かった。」

 

数は先ほどとあまり変わらず20程度。その数を十六夜は拳を前に突き出すだけで吹き飛ばした。だいたい本気でやったのだが…ゾンビは二十メートル程しか吹っ飛ばず、また立ち上がってこっちに向かってくる。それでも、その少しの時間があれば充分だった。

 

「走れ!」

 

十六夜の合図の後、胡桃は走り出しそれを見て十六夜も走り出す。二階、三階と上がっていき屋上に続く階段まで来ると…。声が聞こえた。

 

「メグねぇ!どうして!」

 

「いいから…由紀さん。此処は私に任せて!」

 

「いやだっ!メグねぇも一緒に…」

 

由紀の泣き叫ぶ声。そして、慈の叫ぶ声。それを聞いてわかることーーつまり、彼女達はゾンビに襲われている。そして、慈が盾になろうとしている。

 

「今から俺が慈を助ける。胡桃はあいつらを頼む。」

 

「何言って…」

 

「大丈夫だ。必ず慈を助ける。」

 

「…分かった。」

 

そして、二人は階段を駆け上がった。これこそ、彼女を狂わす元となることだと分からずに…。




あまり、戦闘描写がありませんでした…。
すみません。

では、次回もお楽しみに!

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