ではどうぞ!
ーー屋上ーー
夜になりゾンビ達が扉を叩く音はなくなっていた。ゾンビが学校から帰っていくのを見ながら十六夜は一人呟く。
「あの木偶たちは…なんなんだろうな。」
あの短い間で十六夜はゾンビを観察しある程度その習性を見抜いていた。生前の行動を真似しているだろうソレは夜にはほとんどがいなくなっており放課後にはたくさんいたその姿が今は見えない。いわゆる下校ーー
「いっちゃん、これからどうなるの?」
少し俯きながら聞いてくる由紀の目には泣いた後が残っており目が少し晴れている。
「暮らすために場所を確保しなくちゃな。」
「ここで暮らすの?」
「そうだ、みんなと暮らせるんだ。楽しそうだろ?」
そう十六夜は言い笑ってみせる。この状況で大切なのは如何に明るくいれるかだろう。そうでもしないとみんな壊れてしまうーーそんな状況なのだから
「う…うん!じゃあみんなに伝えてくるね!」
そう言って駆け出していく由紀を見ながらまた思考を走らせていく。今残っているのは恵比寿沢 胡桃(あの後自己紹介をした)丈槍 由紀、若狭 悠里、佐倉 慈、逆廻 十六夜ーーの五人。十六夜が助けるベき生徒は一人足りない、こんな状況で生きているかさえも皆無だ。つまり、ゲームである勝利条件の一つが達成できなくなったかもしれない。どうしたものかと考えている時…
「十六夜くーん!」
不意に十六夜を呼ぶ声…その声がした方向には四人が笑っている姿があった。その四人の下にはダンボールが敷いてある、どうやらあそこで寝るようだ。
「ああ、今行く。」
そして、その輪の中に入って行く十六夜。
ーーまだ、諦めてはならない。こいつらを笑って過ごさせるためにもーー
そう決意して十六夜はこのゲームをいち早く終わらせるためにまずは眠りについた。
◆
朝ーー多分四時ぐらいだと思う。その時間に十六夜は起きた。床で寝たためか随分体が重たく疲れが取れていないように感じる。
「まっ…頑張りますか。」
そして一つ大きく息を吸う。その空気は昨日のことを思いださせないほど澄んでいた。
今日は、ゾンビがいない間にバリケードを作る予定だ。少しでも暮らすために場所の確保をしておきたかったというのが理由。
「う…ん?十六夜くん?」
そして起きてきたのは慈。まだ寝ぼけているのか少し目が虚ろだ。そんな慈に十六夜は苦笑する。
「ハァ、慈。顔洗ってこい。」
「ふぁい〜」
そして、おぼつかない足取りで蛇口のあるほうへとフラフラと歩いて行く。これが…先生というのだから全くもって平和な世の中だったのだろう。
「今は、平和とはほど遠いけどな。」
「そもそも平和なんてなかったのかもしれないわ。」
十六夜の呟きにそう返したのはさっき起きたーー否、寝たふりをしていた悠里だった。
「ハハハッ違いねぇ。」
「十六夜くんはこの状況に何を思う?」
「それを知って悠里おまえは何を考えるんだ?知ったところで何も変わらない。」
その質問はある意味弱音だったのだろう。
ーー全ての人が死んでいるかもしれない、家族さえもーー悠里はそう思っているのかもしれない。
「ごめんなさい。野暮だったわね。」
「謝るな。そんなブサイクな顔してるとみんなが困るぞー」
「誰がブサイクって?」
もちろん、ブサイクということはない。結構な美人だ。だがあえてそう言ったのは十六夜なりの場の和ませ方だったのだろう。
「ヤハハッ、まぁまずそいつら起こそうぜ!」
そう言った十六夜の顔は何処か悪戯に満ちている。何か思いついたのだろう。そしてまだ寝ている胡桃と由紀二人の元へ行き、何処からか出したペンで二人の顔に書いていく。
「よしっと、ほらほらお二人さん起きろー」
「うん?」
「いっちゃんだ〜おはよう〜」
十六夜の声により起きる二人…訂正、起こされた二人。まだ四時ぐらいのため二人とも眠たそうに目をこすっている。
「あれー、胡桃ちゃんその顔どうしたの?」
「ああ?そう言うおまえも…」
二人して顔を見合わせて頭に?を浮かべている。そして約1秒後ーー猫のようにヒゲがついている二人はニヤニヤしていた十六夜の方を見る。
「お〜ま〜え〜か〜、殺す!」
「いっちゃん〜!」
「ヤハハハハハー」
十六夜は二人から逃げる、特にスコップを振り回している奴から…そんな光景を見ながら悠里は苦笑いを浮かべ顔を洗い終わった慈はポカンとほおけていた。
◆
あれからなんやらしている内に五時になっていたため十六夜達は急いで行動をおこした。
「じゃあ、おまえらバリケード作りに行くぞ。」
「ねぇねぇ、いっちゃんバリケードってなに?」
その言葉に十六夜は、なるほど、そこからの説明か。と思っていると慈が由紀に説明し始めた。
「バリケードっていうのはね、相手の攻撃や侵入を防ぐためのものの事ですよ。ちゃんと覚えておきましょうね。」
「はーい、めぐねぇ。」
そして、目的地である生徒玄関まで来るとその有様に少し顔を顰める十六夜。そこには何枚ものガラス製のドアが割れておりその欠片が散らばっていて血も飛び散っているなんとも悲惨な光景だった。
「…うっ」
血の匂いによって吐きそうなのを口を押さえてなんとか我慢している慈。だが、ここに居たくないなどと言ってはいけない。
「まずは、木の板と釘にトンカチが必要だな。」
「それなら、技術準備室にありそうね。」
「ふぅん、じゃあ近くだな。取って来る」
そう言って歩いて行く胡桃。単体行動は危ないので慈も胡桃についていく。
「じゃあ、サクッとやりますか。」
そして、バリケード作りは始まった。
中途半端なところで終わってしまった…
それでは来年に会いましょう。
ありがとうございました!