永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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98.邂逅する、永遠者達。

 スールード、そして『赦しのイャガ』を前にして、俺達──特にイャガの強さを目の当たりにしたことのある、俺とユーフィー、ルゥ、そしてルゥと『同調』したミゥ達──の間に緊張が走り、武器を持つ手に力が入る。

 スールードはそんな俺達の様子を見て取ったか、イャガと小声で二、三話した後、改めてこちらへ視線を向けてきた。

 その瞬間、更に高まる緊張感。ゴクリ、と、誰かの喉が鳴った。

 いつでも戦闘に入れるように身構えたのだが、彼女から発せられたのは、意外な言葉だった。

 

「ふむ……そう構えなくても良いですよ。我々はこの場は失礼させていただきますから」

「何──」

 

 その言葉の真意を問いただす間も無く、彼女達の背後に黒い“穴”──世界を移動するための“門”が開く。

 

「それでは、また……そうですね、きっと直ぐに逢う事になると思いますが」

「ま、待ちなさい、スールード!」

 

 ミゥの制止の声に一度ちらりと目をむけ、クスリと小さく笑った後、イャガと共に“門”へと消え行くスールード。

 二転三転する展開に呆然とする俺達だったが、世刻が「あ、ああ」と頷く声で我に返った。

 恐らくナルカナにでも話しかけられたのだろう、エデガ“だったもの”に向き直った世刻は、その手にする神剣を構える。

 左手に『黎明』、右手に『叢雲』……何とも豪華な二刀流だ。

 

「行くぞ、ナルカナァ! うおおおおお!!」

 

 裂帛の気合と共に、世刻はその手にする二本の神剣を一つにするように重ね合わせた。

 『黎明』はまるで最初から『叢雲』の一部であったかのようにピタリと嵌り、二つは一つの“剣”となる。そしてその刀身からマナが噴出すようにまとわり付き、長大な刃を生み出した。

 大上段より振り下ろされた一撃は、エデガ“だったもの”を真っ二つに切り裂き、消滅させる。

 その結果を見届け、「ふぅっ」と思わず張り詰めていた息を吐き──その時だ。

 俺の直ぐ後ろに生じた、ナニカの気配。

 

「祐、後ろだ!」

 

 同時に聞こえたルゥの声に慌てて振り向けば、そこにあったのはつい先程に見たばかりのものと同じ黒い“穴”。

 

「“門”だって? いったい、誰が……」

 

 思い浮かんだ可能性は、まさかスールードが戻ってきたのか……と言うもの。

 突如出現した“門”を見る他の皆もまた同じ事を考えたのだろう、各々その手にする神剣を“門”へと向け、警戒心を最大限に引き上げる。

 そして、次の瞬間、予想よりも小さな人影が“門”から転がる様に飛び出てきた。

 それはすぐ目の前に居た俺の姿に気付くと、わき目も振らず真っ直ぐに飛び込んで来て──。

 

「お、お願いします! 時深様を助けてください!」

「綺羅!? どうしたんだ一体!?」

 

 そう、俺の胸にすがり付いてきたのは、『写しの世界』で別れたはずの綺羅だった。

 

 

                  ◇◆◇

 

 

「はぁっ……はぁっ……! くっ……まだ、まだです!」

 

 荒い息を付き、地に方膝を着きつつも屹然と目の前の敵()を睨みつける時深。その時深の視線を艶然とした笑みで悠然と受け流しながら、ともすれば少女に見える──否、それよりも更に幼くすら見える──体躯を白いローブに包んだ女性、『法皇テムオリン』は挑発するように言う。

 

「くすくすっ……ほら、時深さん? 頑張らなければこの世界が壊れてしまいますわよ?」

 

 その言葉に続きすっと上げられた右手。それを合図に彼女の背後に控えていた20名ほどのエターナルアバター──エターナルが産み出すミニオンのような存在──が一歩踏み出した。

 

「フフッまあまあ、そう言うものじゃありませんよ。……何せ、僕たち三人を相手にこれだけ持ったんですから、誉めてあげるぐらいじゃないと」

「フシュルルルルル……」

 

 テムオリンを宥める様な事を言いつつ、その実時深に大して酷薄な笑みを浮かべて冷たい視線を向けるは、左右の手に一対の双剣を持った黒髪の青年──永遠神剣第三位『流転』を持つ、『水月の双剣メダリオ』。

 そしてそれに同意するように、テムオリンを挟んで反対側に居たもう一人──その頭頂に王冠を頂き、第三位『炎帝』を体内に擁する単眼のみ(・・)の怪物、『業火のントゥシトラ』が人には解せぬ言葉を発した。

 

「とは言え、もういいでしょう、テムオリン? ……殺してしまっても」

 

 そう言って時深に『流転』を突きつけるメダリオに対し、テムオリンはやれやれ、と小さく息を吐いて答えた。

 

「そうですわね。それではメダリオさんは止めを。ントゥシトラさんは、アバターを連れてこの世界をマナに還していただきましょうか。還る世界が無くなれば『叢雲』も無駄な抵抗を諦めるでしょう? ……それでは時深さん、御機嫌よう」

「……っ! やらせる、ものですか!!」

 

 振り上げられる『流転』から逃れ、街へと向かおうとするントゥシトラを止める為に、時深は咄嗟に時間を加速させる。

 だが、それはメダリオの狙いの一つであった。

 

「掛かりましたね? 喰らって、死んでください……『流転』」

「しまっ──!」

 

 『流転』は相手のスキルに合わせて発動される、バニッシュ効果を持ったカウンタータイプのスキルだ。その威力は第三位の神剣から繰り出されるとは思えぬほどに凄まじく、如何にエターナルと言えど、下手をすれば一撃で倒されてしまうほどの威力を持つ。

 擁する神剣と同じ名を持つそのスキルこそ、メダリオの代名詞とも言えるものであり、常であれば時深はそのスキルを最大限に警戒し、決して放たれぬよう、喰らわぬように行動していただろう。

 だが今は……状況が悪すぎた。

 メダリオの放った『流転』は、時深の『タイムアクセラレイト』が発動されるよりも速く展開され、彼女へ襲いかかる。

 それでも尚諦めないと、負けてたまるかと、余裕の表情を持って推移を見守るテムオリンを、冷酷な笑みを浮かべて時深を見下すメダリオを、今正にこの神社から出ていかんとするントゥシトラを睨みつける時深。

 その彼女の足元に蒼い魔法陣が広がり、そこに目掛けて四方八方から、濃密なマナを内包した蒼い閃光が降り注ぐ。

 その瞬間──『流転』が時深に突き刺さらんとしたその時、それから時深を庇うように誰か(・・)が飛び込んで来た。

 時深に代わり、自ら『流転』へとぶつかるように飛び込んできた誰かが、『流転』に接触した瞬間に、『流転』に内包されたマナが炸裂し──

 

「なっ……なんだと!?」

 

 響く声はメダリオの驚愕の声。

 確かに命中したはずの『流転』は、それを受けた人物の全身に、複数の軽い裂傷をつけるに留まり沈黙し、その傷もまた、直ぐに全身を取り巻いた光によって消し去られる。

 時深の目に映ったのは、広い、背中。

 それは『流転』のことごとくを受けて尚、泰然と佇む。

 

「…………ぁ」

 

 何故ここに、と、呆然とした様子で呟く時深へ、目の前の“彼”は一度振り向いて優しく微笑みかけると、その視線をテムオリンとメダリオに向け──

 

「グシュルルルル! アアァァアア!!」

 

 その直後、ントゥシトラが押し戻されるように吹き飛んで来たのに続き、時深達のもとへと駆け寄ってくる足音。

 “彼女”もまた、“彼”に並ぶ様に立ち、テムオリンへと相対す。

 

「そこまでです!」

 

 蒼銀の髪を風になびかせ、テムオリン達へとその手にする神剣を構えた少女は、力強く気炎を吐いた。

 そんな彼女の姿を見て、テムオリンは一瞬その眼を見開く。

 

「貴女は……永遠の小娘……に良く似ていますわね?」

「……ママを知ってるんですか?」

「そう……貴女が……あの小娘と坊やの子ども、ですか」

 

 ぽつりと呟いたテムオリンに対し、彼女は強い意志と決意を籠めた視線を向け、朗々と名乗りを上げる。

 

「あたしはユーフォリア。永遠神剣第三位『悠久』の担い手、『悠久のユーフォリア』です! あなた達にはもう好き勝手させないんですから!!」」

「あらあら、可愛らしく吼えてくれますわね? ……それで、貴方は……メダリオさんの『流転』を受けて尚平然としている貴方は、何者ですか?」

 

 ユーフォリアに対してテムオリンは一瞬微笑ましげな表情を浮かべた後、その視線を少女の隣に居る青年へと向けた。

 それに対して、その内の“鞘”より蒼く輝く“流転の剣”を引き抜き、彼は言う。

 

「『鞘』の護り手たる永遠神剣第一位『調和』が担い手……『調和のユウ』。ここからは俺達が相手をしよう、『法皇テムオリン』」


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