永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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97.達せぬもの、達するもの。

「ゆーくん、力を貸して! 『プチニティリムーバー』!」

 

 エデガのプロテクションの逆を突いたユーフィーの一撃がその障壁を打ち破り、エデガの身に強烈な一撃を喰らわせる。

 そこに合わせるように、全能のパーサーを倒したルゥが『凍土』を構え、背後より肉薄した。

 

「氷原の中に沈め! 『フローズンブレード』!!」

「ぐぅっ! おおおおおおぉぉぉぉぉお!!! き……さ、まらあああぁあぁああ!!」

 

 ルゥが振りかぶった『凍土』は、その瞬間に刀身を氷雪に包み、斬りつけると共にエデガの体を氷結させ、それが致命傷となったか、苦悶の声を上げながマナへと還っていくエデガ。

 そしてそれと時を同じくして、左前方から強烈なマナの気配と猛烈な炸裂音。それに続いてエトルの叫び声が聞こえた。

 そちらを向けば、右腕を押さえ蹲るエトルと、少し離れた所に仁王立ちするナルカナ。

 エトルの様子をよく見れば、その右腕は肘の辺りから消し飛んでおり、ナルカナがやったんだろうと想像が付く。

 その時エトルがおもむろに立ち上がり、どこにそんな力を隠していたか、近くで神剣を構えていた永峰──ファイムを人質に取るように背後から羽交い絞めにした。

 攻めあぐねる世刻とナルカナ。

 だが、その瞬間だ。

 

「この……離れろ!」

 

 それまで呆然としていた様子の永峰の瞳に光が戻り、裂帛の声を吐くと共に『清浄』の石突をエトルの腹へと打ち込むと、その腕の中から抜け出し、エトルから距離をとって奴に向けて『清浄』の穂先を向けた。

 

「の、希美!?」

「うん、私だよ、望ちゃん」

 

 突然の展開に困惑の声を上げる世刻と、それに朗らかに答える永峰。

 一体どうなってるんだ。そう他の皆が疑問の表情を浮かべた時、俺達の後ろから誰かが近づいてくる気配がした。

 振り返ったそこに居たのは──

 

「ふぅ……何とか間に合ったようだな」

「サレス様!!」

 

 タリアの歓喜の声が上がる。

 そう、現れたのはサレス。それで誰もが、永峰が元に戻ったのが彼の仕業だと理解したのだろう。

 ホント良いタイミングで出てくるよな、サレス。狙ってたんじゃないの? なんて思わず無粋な考えが浮かび──……ふと、既視感を感じた。

 思ったよりも抵抗したのだろうか、エトルは片腕を失うに留まり、エデガは滅んだ。

 人質に取られる永峰。そしてタイミングよく元に戻る永峰。そこに現れるサレス。

 この状態に何故既視感を感じる?

 ……決まっている、俺がそう感じるなんて“原作”以外に有るわけが無い。そう、まるで、“ここしかない”とでも言うように、無理矢理辻褄を合わせたかのようなタイミング……。

 そこまで考えたところで、思考に引っ張られるように、“原作”のこの先の展開を思い出して──クソッタレ、こんなところまで“原作”通りにならなくていいんだよ!

 追い詰められたエトルが取る行動なんて、一つしかないじゃないか!

 

「ナルカナ! エトルに猶予を与えるな! 一気に倒せ!!」

 

 じゃないと、ナルを使われる。

 そう続ける間も無く俺の言いたいことを察したか、ナルカナが頷いてエトルに対してその手を振りかぶり──

 

「って訳で悪いけど、あっさり死になさい! 『エクスカリバー』!!」

 

 振り下ろした、その瞬間。

 猛烈な破砕音を響かせながらエトルと俺達の間を塞ぐように巨大な“剣”が理想幹中枢の大地を貫いて突き立ち、ナルカナの攻撃はそれにぶち当たって“剣”を大きく震わせるに終わる。

 見上げるそこに、悠然と浮かぶは白き衣を靡かせ、鳳凰の翼をはためかせる一人の少女。

 彼女は俺の顔を一瞥すると、その顔に微苦笑を浮かべる。

 

「ごめんなさい、祐さん。まだこの人を(たお)させる訳にはいかないんです」

 

 そう言った彼女は、その視線を“剣”の向こうへやり──静かに、言い放った。

 

「貴様、何を逃げようとしているのですか」

「ぐはあああああ!!」

 

 その言葉と共に“巨剣”の向こうへ降り注ぐ光の砲撃。

 そして響くエトルの声。

 ……エトルを攻撃した?

 

「くっ! スールード、何を企んでいる!?」

「さあ、何でしょう?」

 

 ルゥに問われ、彼女をちらりと見ながら答えをはぐらかすスールードは、その視線を再び向こうに向け──再び行われる攻撃。

 

「……私が逃げる隙など与えると思っていますか? 理想幹神エトル=ガバナよ。エデガ=エンプルを失い、ここまで追い詰められた貴方に行える事は……ひとつしか、ないでしょう?」

 

 その言葉で、漸く合点が行った。彼女の狙いは……

 

「ナルカナ! 協力してこの剣を壊すぞ! 彼女の狙いは『ナル』だ!!」

「っ! そう言う事……!」

「祐兄さん、あたしも手伝います!」

「頼む、ユーフィー!!」

 

 『精霊の世界』に突き立っていた物ほど巨大では無いけれど、それでも回りこんで向こうに行くにはでかすぎる。

 ……けど、今の俺達ならば……そう判断し、ナルカナに駆け寄りながら声を掛け、“剣”を破壊するための力を練って行く。

 この『理想幹』に突入する際に行い、確信を得たもの。俺に繰り出せる最も強い一撃である『スピア・ザ・グングニル』を更に高めること。

 ぶっつけ本番になっちまうが、俺達なら大丈夫だと信じて。

 ナナシとレーメはその目を閉じ、精神を俺とリンクさせることによってアネリスの中で“魔法”を組み上げていく。

 合成される“光”と“闇”の魔法力は、“鞘”と言うフィルターを通す事によってその性質を“正”と“負”と言うさらに純化されたものへと変え、完全に相反する性質をもつものになったそれらをオーラフォトンと言う緩衝材で包み込み、圧縮させる。

 これで着弾の衝撃でオーラフォトンが弾ければ、正と負の魔力は互いに干渉し合い、対消滅を起こしながら破壊のエネルギーを生み出すはず。

 余り時間はかけられない。けど、失敗するわけにも行かない。だから、出来る限り速く、出来る限り強く、出来る限り正確に力を籠める。

 俺が力を練り上げている間に、ナルカナもまたその身に膨大なマナを練り上げるのを感じた直後、

 

「祐! 締めはあんたに任せてあげるから、思い切りやりなさい!」

 

 どうやらナルカナは、自分の後に俺とユーフィーが居る事から威力より速さを──それでも濃密な程にマナが籠められているのが流石だが──重視したのか、そう言ってその手を振りかぶる。

 そしてそれに合わせて朗々と響き渡る、ユーフィーの清らかな声。

 

「悠久の時の彼方より来たれ、大いなる意志よ! 永久なる想いよ! あたし達に力を!! 『エターナル』!!!」

 

 揮われた力は俺とナルカナ、そしてユーフィー自身を包み込み、俺達へ大きな力を与えてくれる。

 そしてナルカナがその手を振り下ろし──

 

「我が刃は断ち切る! 連綿と続くその存在の全てを! 最前(いやさき)より来たれ! 始原の剣!」

 

 ユーフィーが『悠久』と共に突貫する。

 

「原初より終焉まで! 悠久の時の全てを貫きます! 『ドゥームジャッジメント』!」

 

 ナルカナの極限の一撃たる『プライモディアルワン』とユーフィーの『ドゥームジャッジメント』の連撃。そこに篭められた膨大なエネルギーは、“巨剣”の眼前に見える部分の半ばまでをも抉り取った。

 ──その時点で、俺の準備も整った。

 練り上げられた“力”を“鞘”から解放し、撃ち放つ!

 

「深遠の闇に抱かれ、峻烈なる光に消えろ! 『エンドオブエデン』!!」

 

 砲身のように構えた手の先から放たれたマナの弾丸は、半ばまで抉られて大きく傾いだ“巨剣”の、その上下を辛うじて繋ぐ残りの半分の部分へ流星の如く突き刺さり──ゴッソリと、抉り取るように巨大な穴を空けて剣を折り砕いた。

 半ばから完全に折れ、ゆっくりと『幹』を掠めるように倒れ、遥か雲海へと消えゆく“剣”。

 そして俺の放った一撃は“剣”を貫通(・・)し、遥か後方にある島──方向からして枯れた島へと着弾。

 次の瞬間、ここからでも肉眼で確認できるほどの巨大なドーム状の爆炎を巻き起こし、その閃光と衝撃を俺達に叩きつけた。

 そしてそれが収まったところで、上空に飛んで着弾したであろう枯れた島の様子を見てきたナナシが降りてきて、若干呆れを含んだ声音で報告してきた。

 

「……えーと、マスター……。枯れた島の地表が吹き飛びました。やりすぎです」

「…………は?」

 

 誰かの、「理解できない」と言った声。いや、人間驚きすぎた時ってまともに声も出ないんだな。うん、正直俺も想定以上の破壊力に何て言っていいか解らん。

 と思った直後、不意にぽんっと後ろから肩を叩かれたので、振り向けば何ともイイ笑顔のナーヤが。

 

「……祐。おぬし今何をした?」

 

 何だかとても凄みのあるその笑顔に、思わず反射的に『エンドオブエデン』の構成を話したところ──おもむろに背伸びをしたナーヤに胸倉を捕まれっておいこら!

 

「ちょっ、ナーヤ、苦しいっ」

「この阿呆! 貫通したから良かったものの、こんな至近距離の標的に『反物質』なんぞぶちかます奴が何処におるか! 危うくその名の通りこの『理想幹』ごと終わるところじゃったじゃろうが!!」

 

 ナーヤのその言葉で、自分が“何”をぶっ放したのか良く解った。よし、あれは封印しよう。必殺技と銘打って、敵諸共味方も必殺したら意味が無い。

 

「あー……うん、正直すまんかった。とりあえず今のは封印するわ。……あ、ほら、そ、それよりエトルを!」

 

 何か周囲から「誤魔化した……」とか聞こえてくるけど、そんな事よりエトルを何とかするのが先なのは事実。

 気を取り直してエトルの方へ向かおうとした俺達の前に、スールードがふわりと舞い降りた。

 

「お見事、と言っていいものなのでしょうか、今のは。ふふっ……いやはや、祐さん、貴方は本当に私を楽しませてくれます。……ですが……残念ながら、一歩遅かったですね」

 

 そうスールードが俺達に対して言葉を発した直後、先程エデガが倒れた場所に周囲に漂う黒い光──ナル化マナが寄り集まって凝縮していく。

 それは次第にエデガの形を成し、その身を復元しているのだが──さらに集り、凝縮する。

 それを止めようとサレスが動こうとしたのだが、スールードが睨みを効かせたために動く事が出来ない。

 

「ぬぅ! エトルよ、これ、以上は……やめ、やめろおおおおお!!」

 

 そして──エデガが居た場所には、ただ巨大な黒い闇が出来上がった。

 それはひたすらに周囲の瘴気を吸収し、どんどん大きくなっている。

 これは流石にまずいか……そう思った時だ。ナルカナが世刻に対し、アレを滅ぼすために自分を使えと提案し、その身を本来の姿へと変えた。

 今は残ったエトルやスールードより、目の前のアレが最も危険だ。そう説明され、『叢雲』を握る世刻。その時僅かの間、何事かやり取りをしていた様だが……あれか、握られたナルカナがアレな反応をしたのか。

 そして世刻が『エデガだったもの』に向き直り──スールードが動いたのは、その時だった。

 振り上げられた、スールードの手。

 その直後、エデガの上空の空が割れ、現れる古代日本の土偶に似た巨大な物体。

 それはそのまま急降下し、『エデガだったもの』を押し潰す様に着地した。

 

「な、何だありゃ!?」

 

 ソルラスカの驚愕の声。

 皆もまた思い思いの驚愕の声を上げていて。

 

「…………『抗体兵器』」

「おや、これも知っていますか。……流石は祐さんですね」

 

 思わずポツリと声に出た俺の言葉に反応するスールード。

 

「……お前の目的は、ナルを回収することか?」

「いえ、少し違います。正確に言うと……これは私の目的と言うより、“彼女”の目的なんですよね」

 

 そんな、ともすれば訳の解らないスールードの言葉。

 その意味を確かめる間もない、次の瞬間──その抗体兵器が、まるで“何か”に食べられるかのように、頭からざく、ざく、と消えていく──。

 これ、は。忘れもしない。……そうか、スールードの言う彼女は……。

 

「……『最後の聖母イャガ』」

 

 抗体兵器が消えたそこに残っていたのは、残りかすの様な……元のエデガと変わらぬほどに小さくなったナル化マナと、白いローブで裸体を隠した赤髪の女性だった。

 そこで俺は漸く理解した。そう、“彼女達”の目的は、ナル化マナを──第一位神剣たる『叢雲』の力の一部を、イャガがその身に取り込む事だったのだと。

 

 

                  ◇◆◇

 

 

「時深様、準備できました。いつでも『理想幹』へ“門”を開く事ができます」

 

 『写しの世界』にある神木神社。そこの境内にて時深に綺羅がそう報告する。

 それに対して時深が「ご苦労様」とねぎらいの声をかけると、綺羅は小さく頭を振った後、あの、と小さく声を上げた。

 

「本当に、よろしいのでしょうか?」

「彼等の手助けをして、ですか?」

 

 自身の言葉を続ける様に言った時深へ、綺羅ははい、と頷く。

 そんな綺羅へ時深は優しく微笑みかけると、

 

「本来なら私は手を出すつもりは無かったのですが……イャガがこの時間樹に侵入している、と言う祐さんからの情報。それの裏取りが出来てしまいましたからね」

「……ロウが動くならカオスも動く、ですか?」

「そう言う事です。それに、本来ここで私達が守るべきナルカナ様が彼等に同行していますから、ある意味一石二鳥とも言えますし」

 

 時深がそんな事を言った、その時だった。

 周囲に、冷たくも静謐な空気が満ち溢れる。

 

 ──そうですか。『叢雲』はここを離れているのですね? ふふっそれは重畳。

 

 何処からとも無く響く声。それに続き、時深と綺羅の前方の空間が裂け、黒い“穴”が開く。

 そしてそこから現れる──白いローブ姿の、小柄な人物。

 

「貴女は──!」

「お久しぶりですわね、時深さん?」

 

 そう言ってその少女にも見えるローブの女性は、その外見に似合わぬ艶やかな笑みをその顔に浮かべた。

 

「……『法皇テムオリン』……」

「残念ですが、貴女にここを動いてもらうわけには行きませんの。折角イャガさんが順調に動いてくれているのですから、ね。だから──貴女の相手は(わたくし)がいたしますわ」


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