永久なるかな ─Towa Naru Kana─ 作:風鈴@夢幻の残響
「極光の剣は、惑いなくあんたを貫く! 『クラウ・ソラス』!」
ナルカナによって放たれた一撃は、拠点の付近に固まっていた敵を纏めて薙ぎ払い、
「天地転回、此へ降り来るは煉獄の火! 『フレイムシャワー』!」
追い討ちを掛けるように放たれた神剣魔法は、先の一撃で傷つき、半死半生となった敵をマナへと還していく。
……あの後、最初の拠点を無事に占領することが出来た俺達は、ここ『ゼファイアス』に入るために施されていた仕掛けから鑑みて、中心の『幹』へと行くためには同じ様な事をしないといけないだろうと推測した。
以前来た時に、この中央等には四つの拠点が在る事は確認してある。
つまり、エトルとエデガが居るであろう『幹』に行くためには、ゼファイアスにある四つの拠点を全て占領する必要があるだろう、と言う事だ。
そして現在、既に二つ目の拠点を抜いて三つ目を攻略しているところなのだが……。
「ふっふっふ、あたしは恋と情熱に生きるのよ。ナルカナ様の勢いはもう止まらない!」
ナルカナのそんな台詞とともに、周囲一体の赤マナが増え、影響が強まるのが“視え”た。
効果から察するに……今のは『ヒートフロア』か。
「生きる前に殺してあげる。じれったいのは嫌いなのよっ」
次いで紡がれる高速詠唱。そして爆裂する大地……『イグニッション』か。
さらに続くナルカナの攻撃。
「侵略すること火の如く、美しきことナルカナの如し! さぁ、その目に焼き付けてあげる!」
パチンッと弾かれる指の音と共にナルカナの前に球形の魔方陣が現れ、練りこまれたマナはその効果を世界に及ぼし、彼女の眼前の敵は炎熱に包まれた。
うむ。何とも派手な、魔法のオンパレードだ。
いやほんと、こうして見ると大概無茶苦茶な性能だよな、ナルカナって。
その余りに派手なナルカナの様子に、一瞬目を奪われたせいだろうか、切り結んでいた敵の向こうに居た赤ミニオンがマナを練りこむのに気付くのが遅れてしまった。
「地より湧き立て、焦熱の地獄……『インフェルノ』」
詠唱に次いで、俺を取り囲む赤マナ。
今しがたナルカナが放ったのと同じ現象である……ってことは、ナルカナが放ったのも『インフェルノ』だったんだな。
……なんて思ったのも束の間、次の瞬間赤熱した大気が炎熱を巻き起こし──俺に触れると同時に掻き消える。
そのまま前方へ一歩踏み出し──前で戦っていたアネリスと一瞬視線を交わし、そのまま彼女の背に左手で軽く触れ、アネリスの中の“鞘”から炎の剣を抜き放つ。
「解放、『ライトバースト』! ナナシ!」
「イエス、マスター! 『ダイヤモンドダスト』!」
次いで右手に持っていたオーラフォトンブレードを解放。
直近にいた緑のノル・マーターに閃光と衝撃を浴びせ、その間に俺の意図を汲んだナナシが、アネリスを基点として、小範囲の敵へ強烈な冷気を浴びせ、凍りつかせるアーツを発動。アネリスが自らオーラフォトンブレードにて切り結んでいたミニオン2体を凍りつかせた。
その隙にアネリスは、その凍った2体を一刀両断。次の敵へ向かう際に俺と交差する様に進路を取り、差し出された彼女の手から“鞘”に納められた『ダイヤモンドダスト』を抜き放つ。
と、その時、俺とアネリスの距離が近くなるのを狙っていたか、俺達の上空に白のマナが集う。
「切り刻め……オーラヴォルテクス」
次いで降り注ぐは白き雷撃。
荒れ狂う暴虐は俺とアネリスを打ち据え──そのまま“鞘”へと消えた。
チラリとアネリスと視線を交わし、まずは今の一撃を放ったミニオンをと互いに一歩踏み出した、次の瞬間。
「あたしの名に連なる力……王の聖剣! 『エクスカリバー』!」
そのミニオンは、ナルカナの一撃を受けて消し飛んだ。
「……はぁ……やれやれ。この調子じゃと、あ奴一人でお釣りが来るの」
そう言って苦笑を浮かべるアネリスに「全くだな」と同意を返したその瞬間にも、轟く爆音。
そしてさらに、ナルカナを中心に大規模な魔方陣が展開され、練りこまれるマナ。
そのマナが解き放たれると共に、敵の大部隊へと天空より炎が降り立ち、業炎が立ち上り、ハイミニオンもノル・マーターも纏めて丸々焼き尽くした。
「あんた等の命も、ここで終わりよ! わはははは、これからはあたしが主役ー!」
…
……
………
「あー、ちょっとスッキリしたわ」
そう言って爽やかに笑うナルカナ。あれでちょっとかよって思ったのはきっと俺だけじゃないはずだ。
三つ目の拠点をほぼナルカナ一人で制圧した俺達は、最後の拠点へと歩を進める。
「……凄いですね、ナルカナさん」
その道すがら、先程の戦いを思い出したか、隣を歩くユーフィーが、前方で世刻となにやらやり取りをしているナルカナを見つつ、小さく言う。
するとそれがしっかりと耳に届いていたのか、振り向いたナルカナが顔を綻ばせ、歩調を落としてユーフィーの隣に並ぶと、彼女の頭をわしわしと撫でる。
「うんうん。ユーフィーは素直で良い娘よねぇ。よしよし。同じ顔してる誰かさんにも見習って欲しいところだわ」
そう言うナルカナの視線の向かう先は、俺の直ぐ前……即ち、彼女の斜め前方を歩くアネリスの背中へ。
一方で言われたアネリスはついっとその視線をナルカナへ向けたあと、小さく肩をすくめ、
「やれやれ、妾はこれでも“素直で良い娘”だと思うのじゃがな。むしろユーフォリアを見習って素直になるべきは……くふっ、まあ皆まで言うまい」
「なっ……!」
アネリスよ、それはもう殆ど「お前が素直になれ」と言ってるようなもんだ。
案の定というか、それから次の拠点まで着くまで暫くの間、ユーフィーを挟んだ二人の賑やかな言い合いは続いたのだった。
ちなみに、最後の拠点を守っていた敵達は、ナルカナがこの言い合いで溜まったストレスを発散するかのごとく暴れ回り、蹴散らしたのは言うまでも無い。もうあいつ一人でいいんじゃないかな。
その後最後の拠点を占領し、中枢への転送装置を起動。管理神達との戦いに決着を付けるため、中枢たる『幹』の元へと足を踏み入れた。
そして俺達の前にその姿を現す、管理神エトル・ガバナとエデガ・エンプル。
「よもや貴様等がここまでやるとはな……かくなる上は、我等自ら相手をしてやろうではないか」
「我等の崇高なる行いを理解しようともせぬ愚か物共めが……貴様等の愚行、死を持って贖うがよいわ」
そう言うエトルとエデガは俺達の姿をぐるりと見渡し──その視線が、ある一点で固まった。
二人の表情を強張らせたその人物は──ナルカナ。
「……これは想定外……まさかあなた様がそちらに付いたとは。我等の予測では静観し、中立を保っている筈であったと言うのに……くっ……進軍速度が異常に早いと思えば、理由はこれであったか……」
「はっ! 何バカなこと言ってんのよ。冗談じゃない、最初からあたしはあんた等の敵よ」
エデガの言葉を鼻で笑い飛ばしたナルカナは、「今まで手を出さなかったのは、本来ならあんた等如きあたしが相手するまでも無いから、眼中に無かったってだけよ」と嘲笑する。
「……けど、ちょっと好き勝手やりすぎたわね? 覚えておきなさい。世の中にはね、手を出しちゃいけないモノってのが有るのよ。……せめてもの慈悲よ。苦しむ間も無くマナに返してあげる」
そう言うナルカナの視線が一瞬向いたのは、周囲に点在するナル化マナ。……やはり彼女の逆鱗に触れたのは、連中がアレを持ち出したからか。
対するエトル達は、ナルカナの言葉にその表情をさらに忌々しげに歪める。
「くっ……あなたといい
「そのためならば、あなた達の都合で世界を斬り捨てても構わぬと? エヴォリア達を操り、多くの世界を滅ぼしてきたのも大義の為だと言うのですか?」
「伸びた枝葉はやがて枯死する。それが分枝世界の運命よ。存続すべきはあらゆる可能性を、マナを内包する理想郷足りえる世界のみ……そう、この『理想幹』が在ればよいのだ。故に我等は不要な世界を剪定し、この場所に回帰させることによって本来の価値を取り戻させていたのだ」
だから、色々な世界を滅ぼしてきたことは、感謝されこそすれ、非難される謂れなどない。
カティマの問いを鼻で笑い、傲慢な言葉を吐き出したエデガは、その顔に酷薄な笑みを浮かべる。
……あいつらの最終的な目的が何であったかなんてのはもう覚えていないけど、この『理想幹』だけが在ればそれで良い、そう言い切るエデガの姿がすべてを物語っているように感じる。本当に──
「……何という歪んだ連中だろうか。彼等は──この時間樹に、様々な世界に、かけがえの無い人の営みが……命の輝きが在る事を、何とも思っていないのだな」
俺の気持ちを代弁するかのように、側にいたルゥの呟く声が聞こえた。
思い起こされるのは、今まで旅した世界で出逢った人たちの顔。……そうだ。彼等の命は、決して軽々しく失っていいものなんかじゃない。だから──。
「エトル、エデガ。お前等の思想や行動が崇高かどうか何てのは、俺にはどうでもいいことだ。けど、お前達の
そう宣言して、アネリスに真の姿に戻ってもらい、己が身に佩びる。
「ふむ。確か貴様もイレギュラーであったな……全くもって忌々しい。良かろう、古の神も! イレギュラーも! 転生体共も! 我等に歯向かう貴様等を須らく排除してくれるわ!!」
そして高らかに吼えたエトルのその言葉と共に、俺達を取り囲む様に大量のハイミニオンが、ノル・マーターが現れ──この世界における最後の戦いの幕が開ける。