永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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94.合流、進軍。

 黒の島『ミスルト・ネフィア』は縦に長く伸びた島であり、南端の転送装置から北端の転送装置まで、ほぼ一直線に道が伸びている。

 拠点は道中にある為、敵を置き去りにして進むのは難しく、避けられない戦いが増えるのは必定だった。

 そうなると自然と進む速度は遅くなり、拠点を越え、転送装置に着く頃には後続の皆に追い着かれた。

 転送装置を護るミニオンの部隊と戦闘になってしばし、予想以上にここを護るミニオン達が多かった──恐らく、余りに撹乱が上手く行き過ぎたのだろう。エトルの“予測”に基づく行動が不可能になったミニオン達が、防衛のために集中したらしく、少々手こずっていた時だ。

 俺とアネリスを囲むように向かって来ていたミニオン達の、その包囲の外側から、追いついて来た皆がソルとゼゥを先頭に切り込んだようで、一気に敵の陣形が瓦解した。

 結果的に内と外からの挟撃となる形になった俺達の攻撃により、ミニオン達の連携が崩れて一時的に混乱が生じる。その瞬間に、一気に乱戦へと突入した。

 こうなった以上、俺とアネリスで先行するよりも、皆と合流して進んだほうがいい。

 そう判断した俺達は、とりあえずここの敵を殲滅する方向で動く事にする。

 

「あら、追いついちゃったわね」

 

 敵の壁を切り抜けて飛び込んできたゼゥが、クスリと笑いながら言う。そんな彼女へ「ああ、追いつかれちゃったな」と返しつつ、ここからは合流して動く旨を伝える。

 ここに居たミニオンの数が多く、多勢に無勢とは言え、それは俺とアネリスだけの場合。合流してしまえばその差は一気に縮まる。

 そうなれば、この世界のミニオンが如何に強い『ハイ・ミニオン』だとは言え、そうそう苦戦する事も無い。無論、油断は禁物だが。

 

「よし、じゃあ一気に行くぞ。ナナシ、強化を!」

「イエス、マスター! ……参ります、『ゾディアック』!!」

 

 ナナシの放った広範囲強化アーツに後押しされ、敵の撃破速度をいや増した俺達は、案の定それから程なくして敵を殲滅する事に成功する。

 特に活躍が目覚しかったのはルゥだろうか。

 アネリスに与えられた神剣『凍土』を振るい、持ち前の神剣魔法を持って敵の魔法を的確に打ち消し、当たる側から切り伏せていく。とは言え決して苛烈と言うわけではない。深く、静かに、そしてまるで舞うように。“剣舞”と言っても差し支え無いほどに、見事な戦い方だった。

 そう伝えると、彼女ははにかみながら「ありがとう」と笑みを浮かべ、

 

「……ふふっ。きみにそうまで言われてしまっては、もっと頑張らねばいけないな」

「あー……っと、けどルゥ、無茶はするなよ?」

「解ってる。……この『凍土』の核になった『夢氷』の欠片が、きみの中に在ったものだからだろうか。『凍土』を手に戦っていると、まるで祐が側に居るように感じられて、とても心強いんだ。だから……私は、大丈夫」

 

 そんな事をおっしゃられまして。

 ……んな事を言われて、何と言うか、顔が熱くなったのは仕方ない事だろう、うん。……いやまぁ、嬉しい言葉だったのは確かなんだけどさ。

 さて、敵を倒し終えたことだし、次の青の島『セネト・セファ』へ飛ぶ前に体勢を整えておこうか。

 そう皆に伝えて小休止を入れることにし、転送装置の陰に座り込んだところで、俺の周囲にミゥ達も腰を降ろした。

 

「祐さん、怪我は無いですか?」

 

 問いかけててきたポゥへ、「大丈夫、有難う」と返すと、「よかったです」と小さく一言。

 俺とアネリスの場合、基本的に敵の神剣魔法が効かないからな。余りこれを過信しすぎるのもマズイだろうが、少なくともミニオンクラスの魔法であれば問題は無い……はず。

 いや、アネリスに聞かれれば「当然じゃ」と一喝されそうな気がするが、まだ然程慣れていない俺としては、たまに不安になるんだよ。まぁ、大丈夫だと思うけど。

 そうなると気をつけるべきは、自然と物理攻撃に絞れる訳で……こうして改めて考えると、アネリスの……『調和』の能力は地味だけど反則だよなぁと思う。何と言っても、相手の魔法なんかを“納める”のに、特に意識を向けたりする必要がないのだから。

 

「俺より、ポゥ達は大丈夫か?」

「はい。大した怪我も無いです」

 

 俺の問いに対してほわっとした笑みを浮かべて答えるポゥ。

 それに「それなら良かった」と返したところで、その後ろに居たタリアがこちらを見ているのに気がついた。

 

「どうした?」

「……なんでも無い。あなた達は相変わらず仲良いわねって思っただけよ」

 

 タリアのそんな言葉に、今度はソルが「そうだよなぁ」と言いつつも、首を傾げている。

 そんな彼へ、タリアが訝しげな顔を向ける。

 

「何悩んでるのよ?」

「いやな、あいつらの雰囲気が、今までと何となく違うなって思ってよ。……お前等、何かあったか?」

 

 ソルのその台詞には、思わず「野生の勘か?」と思ってしまう。

 いや、実際何が有ったって言うわけでもないんだが……そう、あえて言うならば、『この先』のことに対して、一つ踏ん切りがついたと言うか何と言うか。

 そんな所で、ふと正面に居たルゥと目が合って互いに苦笑を交わしたところで、ルゥの隣に座っていたミゥが「あの……」と声を掛けてきた。

 

「ところで祐さん。次の青の島は、本当に一緒に行動で良いんですか?」

「ああ。別に今回の作戦方針である『管理神』の思惑から外れた行動をするって事は崩してないからな」

「……つまり、合流して進軍するだけで、後はユーフィーの『全軍突撃!』っていう作戦通りにするってことね?」

 

 ミゥの問いに答えた俺の言葉に、ゼゥが確認するように訊いてきたので首肯して返す。

 

「……何回聞いてもその『全軍突撃!』っての、作戦とは思えないわね」

 

 そう言うのはタリア。そんな彼女へ、アネリスが「そうでもない」と返す。

 

「要は、時と場合と相手による、と言うことじゃ」

「……どういうこと?」

「つまり、今回の敵の様に、『ログ領域』の情報を利用して未来予知じみた事をし、一から十まで用意周到に準備してから行動を起こす様な輩の場合、相手のその周到に準備された策や罠に慎重に対応するのも良いが、時に力ずくで真正面から食い破る方が効果的な事もある、と言うことよ」

 

 尤も、真正面から食い破るだけの力が有る、と言うのは大前提じゃがな。

 そう続けて、くふっと小さく笑ったアネリスへ、一応納得したのか、「なるほどね」と返すタリア。

 

「要するに、何事も画一的にならずに柔軟にってことだな」

 

 うむうむ、と頷きながら言うレーメが何だか可笑しく、その頭を軽くぽんぽんっと撫でたあと、そろそろ行こうかと立ち上がる。

 

「ユウ、行くの?」

 

 小首を傾げながら訊いて来るワゥへ「ああ」と返事をすると、それを受けて皆も俺に続いて立ち上がり、各々の武器を準備して臨戦態勢を整えていく。

 そして俺達は、青の島へと続く転送装置に足を踏み入れた。

 

 

……

………

 

 

 青の島『セネト・セファ』攻略は順調に行った。

 合流した事によって多少の進軍速度の低下はあったが、それ自体は特に問題もなし。

 そのまま勢いに任せて青の島を踏破し、拠点を占領した俺達は、続いてその西に有る枯れた島『ミスルテ・グリム』へ進軍。立ち塞がるミニオンを倒しながら半ばまで進み、丁度南にある赤の島『セネア・イーヴァ』へと続く道と、この島の拠点へと続くであろう道の分岐点に差し掛かった所で、南へ続く道の先に、ユーフィーとナルカナの姿を認めた。

 

「祐兄さん! 皆さん!」

 

 こちらの姿を見るなり、駆けてくるユーフィーを迎え入れ、互いの無事を確かめ合ってから「世刻達は?」と、姿の見えないメンバーを尋ねると、ユーフィーに遅れてのんびり歩いてきたナルカナが「もう少ししたら来るんじゃない?」と教えてくれた。

 ユーフィーが補足してくれたところによると、赤の島の拠点の辺りに敵が多く固まっており、世刻達はそれらの掃討に掛かっているのだとか。

 で、ユーフィーとナルカナは先にこっちの露払いに来たとのこと。

 とりあえず彼女達には、ここから東の敵は粗方倒した事を伝えておいた。

 

「それじゃあ、折角こうして無事に合流できましたし、望さん達が追い付くのを待ってから行きましょうか」

「ん。了解」

 

 ユーフィーの意見に従って、待つこと約30分って所だろうか。そろそろナルカナが痺れを切らしそうだな、なんて思った正にその時、道の先に世刻達が見えた。

 向こうもこちらを認識したのだろう、急いで駆け寄ってきた彼等に「お疲れ」と声を掛けたところで、

 

「おっそーい! よし、じゃあさっさと行く!」

「ちょ、おい、引っ張るな!」

 

 うん。正に絶妙なタイミングだったようだ。

 ナルカナに強引に引き摺られていく世刻と、その後ろをぴったり着いて行く永峰……と言うかファイムと言うかの後に続いて、俺達は最後の拠点を目指した。

 そして戦いの舞台は、ここ『理想幹』中心に位置する島『ゼファイアス』へと移る。

 

 

……

………

 

 

 『理想幹』を貫く幹を囲む様に在する中心たる島、『ゼファイアス』。

 色とりどりの花が咲き乱れる、美しき箱庭……そのはずだった。

 

「……嫌な空気だな。理由は解らんが不快に感じる」

「まったくです。見た目は美しい光景なのに、漂うのはこの瘴気……酷く歪な場所になっていますね」

 

 皆の想いを代弁するように、暁がその言葉の通り不快気に表情を歪めて言い、カティマがそれに同意する言葉を発する。

 二人が言うように、ここに足を踏み入れた途端、感じるのは重く、昏く、澱んだ空気。そう、カティマの言葉にあった“瘴気”と言う表現が最もしっくり来るだろうか。

 ところどころに残る残滓は黒きマナ。そう、あの時『ログ領域』から溢れ出た『ナル化マナ』だ。

 ナル化マナとは、その名の通り『ナル』になりつつあるマナ、だったか。そして『ナル』とは確か、マナと相克を成すもの。……相克とはいっても。その実ナルの方が優位であり、ナルに触れたマナは須らくナルへと変貌する。そして一度ナルに汚染されたマナは元に戻る事は出来なくなるんだったか。

 それ故にナルはあらゆるマナ存在から忌避される。

 ナルカナ……『叢雲』が、この時間樹に封印されたのもそれが理由。彼女は、その身にナルを内包しているから。

 ナルを制御する事が出来れば、マナに比べて遥かに大きな力を得る事ができる……けど、ナルを制御できる存在なんてのは、それこそナルカナか、その契約者ぐらいだろう。まず大体は、ナルを制御できずに暴走するのがオチなはずだ。

 だからだろうか。先に言う“瘴気”が、そのナル化マナのあたりから特に強く感じるのは。そう、俺達がマナ存在故に、ナルに対して本能的な忌避感があるのだろう。

 

「……ナル化が進んでる……ログ領域を滅茶苦茶にして、エト・カ・リファからあたしに切り替えたな……ちっくしょーあいつら、好き勝手やってくれてるわね」

 

 周囲の様子を見回す皆の中で、ナルカナがぽつりとつぶやいた。

 その言葉の意味を理解している者は居ないだろう。実際タリアが「何言ってるのよ?」と訊いたが、ナルカナは解らないならいいとばかりに「別に何でもないわ」と流して終わらせ、その態度に文句を言おうとしたタリアを放っておいて、皆に注意を促した。

 

「皆、そこらに点在してるナル化マナの残滓……黒いマナには触らないようにね」

「ナル化マナ? 触ったらどうなるの?」

「……簡単に言えば『負』のマナよ。呑み込まれたら最後、元に戻れなくなるわ。そうなったら、後はもう理性を失って暴走して終わり」

 

 何となく発したであろう疑問に、有り難くない答えを貰い「うへぇ……」と心底嫌そうな顔をするルプトナ

 そんなルプトナへ「そうならないために今言ってやったんでしょーが」とじと目で言ったナルカナは、こちら──俺とアネリスへとちらりと視線を向け、

 

「……ま、あんた達には関係ないけどね」

 

 ぼそりと言われたその言葉。

 それの意味する事が一瞬解らず「どう言うことだ?」とアネリスへ問いかけると、「言葉の通りじゃ」と一言。

 ……ふむ……。

 

「……俺達はナル化マナに触れても影響はない?」

「うむ。妾が『鞘』故に、のぅ。……ナルとはマナに対して相克を成すもの。マナを『実』とすればナルは『虚』。『神剣』に対する『楯』の力。そして『楯の世界』を統べるは……『刹那』。ぬしならば、もう解るじゃろう?」

 

 そのアネリスの言うところの意味を考え…………なるほど、と頷き返す。

 アネリス……『調和』は『鞘』の直系。そして『鞘』の役割は、『天位』と『地位』の力を封じて抑えること。『天位』とは『永劫』。『地位』とは『刹那』。

 『ナル』が『楯の力』であるならば、天地の力を封ずる『鞘』の娘であるアネリスが抑えられない道理はない、ってことか。

 そう結論付けた俺に対して、アネリスは「ただし」と前置きし、

 

「勘違いはせぬようにな、主様。妾に出来るのは、封じ、抑えることのみ。決して制御は出来ん。アレを制御できるのはナルカナ……『叢雲』のみよ」

 

 アネリスの忠告に「肝に銘じておく」と返事を返したところで、俺達の話を聞いていたのだろう、ナルカナがうんうんと頷いて、

 

「流石に良く解ってるじゃない。まぁ、アレはあたしの一部でもあるから、あたしにしか制御できないのは当たり前なんだけどね」

 

 そう言ってその話を終わらせたナルカナは俺に視線を向けてきて、

 

「それにしてもあんた、『調和』の担い手なのに何も知らないのね?」

 

 呆れたような視線を向けてくるナルカナに「まあなあ」と返すと、アネリスがそれに続いて口を開いた。

 

「妾自身、永らく閉じ込められておった身。その妾の事を祐が知らずとも致し方あるまい。……それに、知らぬのならばこれから知って行けば良いだけじゃ」

 

 アネリスの台詞にその表情を少し曇らせるナルカナ。

 ……何だ? 随分と突っかかって来るな。

 ナルカナの様子にそう思った矢先、アネリスが小さく「くふっ」と笑う。

 その顔をちらっと見ると、何とも楽しそうな笑顔で、こう、何と言うか、暖かい……と言うよりも生温かい視線をナルカナへ向けていて。

 

「妾が祐をフォローするのが気に食わんか? なに、それこそ祐は妾の『主様』なのだから当然じゃろう?」

 

 そう言って直ぐに、いかにもわざとらしく「あぁ、成程」とぽんっと手を打つアネリス。

 

「……気に喰わんと言うよりも……くふっくふふふふふっ。ナルカナよ、羨ましいのか? 己よりもより深く封印されておった妾に、先に担い手が居る事が」

「う、羨ましくなんかないわよ!」

「何じゃ、無理するでない。羨ましいなら羨ましいと……」

「あーもう煩い! ほら、皆、さっさと行くわよさっさと!!」

 

 アネリスとナルカナの、一見険悪そうでその実何処と無く楽しそうなやり取りに思わず笑いそうになりながら、遠めに見える祭壇──拠点へ向けてズンズンと歩き出したナルカナの後を追った。

 

 

……

………

 

 

 ナルカナの忠告に従って、ナル化マナに気をつけながら進むことしばし、最初の拠点に近づいた俺達を敵が出迎える。

 そこに現れたのは、何時ものミニオンと見慣れぬ相手。

 ミニオン達に混じってその姿を見せたのは、光沢ある金属の様な物質で構成された人型の機械。

 

「あれは……マナゴーレム『ノル・マーター』! 管理神ども、あんなものまで持ち出してきおったか!」

「ったく! あんな神代のガラクタ、どっから引っ張り出してきたのよ!」

 

 その姿を認めたナーヤとナルカナがそれぞれ声を上げ、ナルカナが「気をつけなさい」と警告の言葉を続ける。

 

「あたしにとってはどっちも大して変わらないけど、少なくともアレはミニオンより強いから、あんた達は油断しないようにね」

 

 ……一応皆のことを気に掛けてはいるんだよな。言い方はアレだが。

 

「あれは“個”よりも“群”で動く。集団の集合意識が顕著に現れておってな、特にゴーレム故に完璧に統制された波状攻撃を得意としておる」

 

 ナルカナを補足するようにナーヤが説明したところで、敵のうち色とりどりのノル・マーターがその砲身となっている腕をこちらに向けているのが視えた。

 腕の先端に収束するマナ。

 

「っ! 来るぞ!!」

 

 俺が発した警告の声に続くように、その腕から様々な『弾丸』が発射され、降り注ぐ。

 襲い来るは物理(マテリアル)理力(フォース)の両方の属性弾。それに対して世刻、ユーフィー、ミゥと言った、どちらにも対応できる防御スキルをもつ者が咄嗟に飛び出し、味方を囲む様に障壁を張った。

 その直後着弾するマナの砲撃は、張られた障壁にぶつかり、反応し、衝撃と閃光、爆炎をまき散らし、それをブラインドに、カティマとソル、ゼゥ、暁の、速度に長けたメンバーが、黒き疾風となって敵の只中へと斬り込んで行く。

 そしてそれを合図に、ここ『ゼファイアス』を巡る戦いの火蓋が切って落とされた。


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